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2-3 水の竜王

 この星の地表は大半を海が占めている。

 丁度東西に二分する大陸が世界で最も大きな海洋“中央大洋”を環状に囲んでいるような格好になる。


 数日前まで滞在していたアルボスティアは西洋域、つまり北西の大陸にあった里だが、今度は海を挟んで向こう側にある東洋域、北東の大陸に降り立った。

 

 北東と南西の大陸はそれぞれ亜人種や固有の希少種が小さな集落を構えている地点が多く、全てが好意的な種族ではないが観光しがいのあるエリアだ。

 そんな中でも東洋域にはとても興味深い固有の文化を築いていながら極端に排他的な鎖国制のため常々惜しいと思っている国がある。竜王ジーラの住処とする島国“和国(ワノクニ)”だ。

 これから向かう予定のマグナの住処は南東大陸にあるコロナ山脈だが、現在地からそこへ向かう動線には丁度和国があるので、ジーラの下にも顔を出しておこう。

 

 と、その前に。


 「とりあえず、レヴィの様子を見ておこうかな」

 

 「そうですね」

 

 北東大陸の端の端。世界の隅に近い地点ではあるが、海を……正確には“大量の水”という媒介を臨んでいれば問題はない。


 極寒の海域近くで冷えた海水に手を浸からせ、じんわりと思念を込めた魔力を流し込んでいく。


 (レヴィ 聴こえる? アイリだよ)


 すると間もなく


 チャポン


 すぐ数メートルほど前の水面に棲んだ水色のシースルーローブと、砂浜を思わすブロンドのロングヘアーを上品な召し物とは対照的にボサボサに乱した少女が軽快な音を立てて水中から現れた。


 「…………」


 「レ……ヴィ? どうしたのその髪……」

 

 彼女は基本的にはのんびりとしている一方その装束も自慢の髪も流れる水ような艶やかさを持っていたはずだが、今目の前の少女の髪にはそんな艶やかさは微塵も感じられない。

 

 「ふ……ぐぅう……」

 

 「えっ」

 

 「うぅううう~~~~!!!」

 

 現れた少女はそのまま水面に膝をついて泣きじゃくり始め


 ザァアアアアアアアアアアアア

 

 同時に、あたり一面を苛烈なスコールが襲った。

 しかも余程不機嫌なのだろう。ただの雨ではなくもはや毒と言っていいほど強酸性の雨だ。

 

 「ちょ ちょっと どうしたのレヴィ!?」

 

 降りしきる酸性雨を魔法で防ぎながら水面を駆け、泣き崩れる少女――大海の竜王ミズチことレヴィの肩を抱く。


 「遅い……!! もうちょっと早く起きてよ!!!」


………


 結局そのまま小一時間ほどレヴィは泣きじゃくり、辺りの海と地面は酸性雨で悲惨なことになっていたが、幸いにも寒い海域のため浅瀬は生物が少なく影響もほぼ無く、汚れた水はレヴィが自身で浄化していた。

 

 「私の子供たちが殺された」

 

 レヴィが語り出した現状はその一言だった。

 

 「子供……海竜(リヴァイアサン)のこと?」

 

 問うとレヴィはこくりと頷いた。


 竜王の莫大な魔力の奔流を受けて種となることが多い竜種は竜王の落とし子と言われている。特に海で生まれ海で過ごす海竜は世界の水を司り大海の主たるレヴィにとっては子も同然だ。

 そしてそんな海に棲息する海竜は個体数こそ少ないものの他の竜種や巨人種ですら寄せ付けないほどの圧倒的な巨体が特徴であり、その島ほどもある体躯には海中棲息種が背に都市を築いていることがあるなど特異な性質を持つ種だ。

 海竜そのものはそのような巨体から戦闘に特化した種ではなくそもそも戦闘を好む種でもないが、逆に何者かが海竜に戦闘を挑むということも通常であれば考えにくい。挑んだところで有効打を与えられず、当人は歯牙にもかけないだろうからだ。

 そんな海竜が何者かに殺されているとなれば、つまりそれほどの力を持つ何者かがわざわざ狙って海竜を殺しているということになる。


 「それはレヴィの神殿を奪ったのと同じ輩なのかな?」


 大洋の墓標……サンクトゥス諸島海域の海底にあるそこはレヴィの拠点とする神殿のすぐ近くにあり、アルボスティアの件の黒幕はそこで私を待つと言った。不穏な輩であればレヴィがそれを放置することはないだろう。

 

 「……そう 中でも一体は海竜より大きな身体で海中を自由に動き回ってた」

 

 「海中棲息種で海竜より巨大な種など存在するのですか?」

 

 ベルが問うが


 「分からない 私もあんなの見たことない “元”海竜でもない」


 レヴィは首を横に振った。


 海竜であればレヴィがその存在を認識しているはずだ。海竜を超える巨体を持ちながら竜王であるレヴィが知らないような生物、それも巨大なだけではなく現に海竜を殺すほどの力を持つ者となると私も心当たりが無い。

 

 「レヴィはそいつと戦ったの?」

 

 「うん……相手がそいつ一人なら私でも対処できたけど、他にも何人か居た 悔しいけど、仕留め切れなかった 人魚族(マーメイド)魚人族(フィッシャーマン)も大勢やられた」

 

 言いながら、普段は柔和なレヴィが眉間に皺を寄せながら眼に涙を溜めている。

 

 人魚族と魚人族は共にレヴィの眷属であり、氷狼がそうであるように両種とも並の亜人種や獣人種を凌駕する強力な種族だ。

 それを動員しての戦闘ともあれば小競り合いではなく総力戦だ。しかも彼女らに有利な海においてその何者かと邂逅し、現にいくつかの海竜を殺された上レヴィは拠点を奪われた。

 

 「ごめん、そんな大事とは…… でもこれからは私も力になる」


 「……お願い 助けて」

 

 そうして気高き竜王の一柱たるレヴィは私たちを向いて深々と頭を下げた。

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