56
魔法で遊ぼう♪
流石というかなんというか、真っ先に立ち直ったのはアジュラで
「お、オルハ、様? その、我を慮っておられるのならば、不要というかお気になさらずとも……」
おろおろとそんな言葉を紡ぐ。
いやそうは言うけどね。
「だってさ、色々と都合がいいから、ここが居住地になっただけでしょ。そこがたまたまニーアの守護する場所だった。だから、わたしが好き勝手することで、結果的にニーアだけ力が増した。ああ、ニーアが悪いって言ってるんじゃないよ。でも、そういう意味ではジオラ達が『狡い』って言ってたのは、あながち間違いじゃないわけだ。だけど、本人に責のないところで、そこに格差ができるのは、わたしが嫌なんだよ」
これは、わたしだけの感覚なのかもしれないけど。
「オルハ様……」
あ、ニーアがしょんぼりしてる。誤解させたかな。
「ニーア、あんたが悪いわけじゃないって言ったろ? アジュラのとこは想像がつかないんだけど、ジオラのとこや風の長のとこにも、可能性はあったんだよ。だって女神様とライの力で結界を張ってもらえば、住もうと思えばどこにでも住めたんだもん。ここに来た時、最初に確認されたのがそれだったもんね、ライ?」
視線を向けると、ライは素直に頷いた。
「転移魔法でどこへでも行けるから、水底でも天空でも住めるよ、とは言ったね。でも、君はそれを良しとしなかったよね。『人生を楽しむために』来たんだからって」
「うん。畑作って、採取して、狩りをして、街に行って。そういう生活を送るなら、地上が一番適してるよね。だから、今のはただの可能性の話。だけどね、風の長」
不意に自分に話を振られたからか、自分を指差して首を傾げる。
「そう、あんた。ただの可能性の話だとはいえ、あんたにだってニーアと同じようなことが起きたかもしれなかったんだよ。わたしの望みを思えば、ここになるのは必然だったから、そこは申し訳なかったよ。だったら分け与えてくれてもいいだろうって思うかもしれない。だけどね、ニーアは最初からわたしを認めてくれてた。まぁちょっと持ち上げすぎだと思わないではなかったけど、ちゃんと向き合ってくれた。だからわたしも、ニーアの力が増してるって聞いても、どうにかしなきゃとは思わなかった。ニーアはニーアで、あんた達が来るのを拒んだりはしなかったよね。だけど、もしあんたのとこにわたしが住んでいたら、どうだっただろうね? だって、わたしをただの人間と侮りながら、自分の利となる力だけを受け取ろうと……掠め取ろうとしていたんだから。わたしにはそれが許せなかった。そういう話だよ」
そう締め括ると、何か考えるように顔を伏せた。
もっとも、これだけ言われて何も考えないんじゃ終わってるだろうけど。
しかしまあ、久しぶりにいっぱい喋ったな。さすがに喉渇いた。
とんとんと胸元を叩いていると
「オルハ様、これを」
さあっ、とジオラが小さな水球をいっぱい浮かばせた。
目の前でふよふよしているそれに食いつくと、ぽんと口の中で弾ける。
「わ。」
ぱく、ぽん。ぱく、ぽん。
「わ、わ、わ」
楽しー!
「お気に召しまして?」
「面白いねー! こんなこともできるんだ」
流石水の長。
「オルハ様でしたら、できるのではないでしょうか」
「そうですわね。オルハ様、なんだかんだ器用ですし」
「あら、そうなの?」
「ええ。あたくしが実際見たのではなくて、主からの又聞きなんですけど、魔力を雨のように降らせたこともあるのですって」
「ええと……。『雲から雨を』降らせたのではなく?」
「らしいですわよ? しかもオルハ様自身は見魔ではありませんわ」
それを聞いたジオラが、こめかみに指を当てて首を傾げる。
「……つまり、具現化するのが得意ということですね?」
考え込んだ割には簡単な言葉だな。
「そういうことになりますわね」
顔を見合わせて、何やらうんうんと頷いたかと思うと、揃ってくるっとこちらを向いた。
「「ではオルハ様、やってみましょうか」」
良い笑顔で言っても無理だからね?
「そんなお手軽に言われても」
「お手軽ですわよ?」
「簡単な話です」
真顔で口揃えない。
「まずですね、小さな水滴をイメージすることはできますよね?」
まあ、雨粒みたいなもんだよね。
「その水滴がわずかな衝撃で弾けると思えばいいのです」
……だからよ。
「それ説明になってない」
こてん、と首を傾げる美女2人。
これ以上の説明をしようがない、と言わんばかりに、眉がハの字に下がる。
この2人って、何気に似てるんだよな。仕草とか、ちょっとした表情とか。
性格はラテン系とヨーロッパ系って感じで正反対な気もするけど。
「んー……水風船ならできそうなんだけどなぁ」
「「水風船?」」
「こういうの」
と、手の中に生み出した水の球を、すぱーんと風の長に投げつける。
不意打ちもいいとこ、見事に命中したそれはキレイに破裂。ずぶ濡れになった。
「ッてめ、なにすっ……!」
喚きかけて、ライの目線に黙った風の長を無視して2人に向き直る。
「とまあ、こういう感じでね、子どもの水遊びの1つだったのさ」
「あらでも、オルハ様の世界には精霊はいないものでしたわよね?」
「うん。だからこういう……」
ひょい、と手の中に水風船を“複製”する。
ゴムは、ヘアリィウェブの糸がそのまんまだったので、原料があるのだ。
「この風船、伸び縮みする薄い膜みたいなモノでできてるから、水入れてさらに薄く伸ばしたら、衝撃で簡単に破れるんだよね。それを今みたいに投げつけあって遊ぶんだよ」
あれ、地味ーに、遊んだ後のゴミ拾いが面倒なんだけどね。
当然、遊んだ本人達にやらせたけど。
「でも今の、水で球を作ってましたわよね?」
「あー……イメージの問題かなぁ」
「おるは、あれもできるんじゃない? 指鉄砲って言ったっけ。あれで魔力の代わりに水飛ばすの」
「……それはそれで、水鉄砲ってのがありましてね」
もっとも、あれはプラスチックなんていう、この世界にない素材で出来てたから、さすがに木製になるが。
えーと、あれの構造は……っと。
「こういうやつ」
が、ひょい、と複製したものを手の中に出すと、ご新規さん3名の目が、完全に点になった。
「……さっきの風船? でしたか? 気のせいかと思いましたけど、違いますのね。これ、なんですか?」
「だから水鉄砲」
ジオラの視線が、困ったようにニーアに向いた。
「オルハ様、ジオラが言いたいのはそうじゃないと思いますわ」
はて、とジオラを見ると、こくりと頷く。
「……ああ、『複製』だよ」
やっと質問の意味がわかって、笑顔で答えたものの、ますます困惑した顔をされた。
なぜだ。
「主……?」
ジオラがその困った顔をライに向ける。
流石にまだ顔は直視できないっぽいけど、視線を向けることはできるようになったらしい。
……まぁ、あれだけ威厳とか諸々破壊されたらそうもなるか。
「困ったことに、おるははこの世界にはないものでも作り出せてしまうのだよ」
全然困ったような表情じゃない。むしろドヤ顔。
「既に『複製』の域を超えておりますわよね」
ニーアももうそれが当たり前と言わんばかりの顔だ。
「構造とかちゃんと理解してるものしか無理だし、材料になる物が要るし」
「えっ、でも、これも『ゴムに似てる』だけなんでしょ?」
これ、というのは、もちろん先ほどのゴム風船。
「それ言い出したら、金属も複製できないってことになるでしょうが」
「あ、そうか」
つまりは『こういうもの』という、概念と言えばいいのか、そういったものをだせるんだと思うんだよ。
多分水鉄砲の構造を知らなかったら、『水鉄砲の形をした塊』が出てきたはずだ。
「だからこれはね、ここに水入れてね。……こうだ!」
当然というか、標的は風の長。
飛距離も威力もないのがわかってるからだけどね。
案の定、ぴしょん、と一応飛んだ水は、風の長の足元にも届かなかった。
「あー、そっか、そういうことか。ということは、こうでこうすれば……。ていっ」
水鉄砲のはずの、しかも木製なんていうそれから飛び出したのは、正しく水でできた『弾丸』。
木の葉に当たってパッと散る程度の強度だけど、たぶんこれ、わたしのイメージの仕方で、どえらい威力になると思う。
だってほら、ウォーターカッターってあるよね。あと時間はともかく水滴で石に穴が開くんだから。
「流石ですわオルハ様」
「先程のも同じようなものですわよ?」
「いや、うまくイメージができなくて」
「先ほどの、ゴム風船? の前に、水の球を作っておられましたけれど……?」
「んー、こう、ボールみたいに投げるのはイメージしやすいんだけどねえ」
2人が顔を見合わせて、また首が傾ぐ。
「先ほど、葉に当たって散りましたでしょ? あんな感じで、食べた時に弾けるようにすればいいんですわ」
「んん、んーーー?」
いやだからさ。
口ん中で爆発するとか、物騒すぎて……あ、待てよ。
昔、炭酸飲料のCMであったな。白く弾けるなんとやら。
「ということは、こう……」
某炭酸飲料のCMを頭に描きつつ、魔力を水滴に変換。
ジオラのように多くないし、大きさも整ってないけど、某CMがイメージ元なのだから仕方がない。
……最小でも、大玉飴くらいあるが。
試しに口に入れてみれば、シュワっと泡のように弾ける。
うん、サイダーだ。
「できましたわね」
「うん。弾け方はちょっと違う気がするけど」
「そうですの?」
「うん」
なにせイメージが炭酸飲料だ。
頷くと、ぱくん、と口に入れた2人が、目をぱちくりさせた。
さっきのジオラのは、まるでポップコーンが弾けるみたいに、ぱちん、と弾けたのに、私のは、しゅわしゅわするからだと思う。
「これはこれでまた……」
「これはどういうものですの?」
気に入ったらしく、次々口に入れるニーア。
対するジオラは見つめたりつついたりと観察するのに忙しい。
「炭酸水って言うんだけど、ええと……こっちには無い、のかな……?」
「仮にも水を司る精霊の長たる私が知らないのですから、無いのだと思います」
顔を見合わせるわたし達の後ろでは、妙にハイテンションなニーアが、アジュラに飲ませようと大騒ぎしている。
「待て、我は別に水は飲まずとも……むしろあまり」
「だーいじょーぶ! これほとんどオルハ様の魔力の塊ですもの! 美味しいわよ!」
「いや、その、……っ!」
開いた口に、ニーアが指で弾いた水滴が吸い込まれた。
けど、特に何も起こらないってことは、問題ないんだろう。
「ライに作ってもらった温泉は、炭酸泉だった気がするんだけど」
「温泉?」
「え?」
待て、もしやこっちにはそれも無い?
「ライさんや?」
「なにかな?」
「もしや、こちらには温泉というものが無かったりするのかな?」
「熱い水、っていうのはあるよ。でもそれって、水とはいえ火の力が宿ったものだから、ジオラには認識できてないかも。それに身を浸すとか自殺行為だし」
つまり熱湯しか無いんだな?
「こっちに無いもの作っちゃ駄目でしょう」
仮にも創造主なんだから!
「それ、おるはにだけは言われたくないなあ」
憮然とするライの後ろで、長たち4人+ティン、ルチル……つまりわたし以外の全員が頷いた。
くっ……!




