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精霊さん大集合
今日は雨。風も強い。
セラとルジーは、小屋の中で過ごしてもらおう。
一応というか念のため「外出る?」って扉開けてみたけど動かなかったし。セラなんてはっきり横に首振ったもんね。
セラ達の世話を終えて、母屋に帰ろうと小屋を出ようとした時だった。
「オルハ様、おはようございます」
「あれ、ニーア?」
こんな朝からとは珍しい。
「どしたの」
「今朝はなんだか森が騒がしくて。この前のこともありますし、もしかして、こちらに何かあったのかと思ったのですけれど……」
この前というのは、森に火事を引き起こした密猟事件のことだろう。
「特に何も無いけどなぁ……?」
「ですわよね。ここには主もいらっしゃることですし」
ほっとしたように頷くニーア。
ちなみに今現在の結界内には、ライの力による、傘のような雨避けがされている。
わたしが外に出る間だけだから、いいだろうって。
じゃなきゃこんなとこで立ち話なんぞしないし、そもそも、ニーアだって呼び止めはしないだろう。
「そんなに騒がしいの?」
「そう、ですわね……。騒がしいといより、落ち着かないという方がいいかもしれませんわ」
「んー、わたしにはわからないなあ。空気の密度も、いつも通りな感じだし」
「精霊達が集まっているわけではありませんから、無理もないかと」
なるほど。
魔女に拐かされた時、精霊が騒いでるのはなんとなくわかったけど、あれも集まってたしなぁ。
その時
「地の長ともあろう者が、人に手懐けられるとはなぁ」
小馬鹿にしたような声が響いた。
「風の?!」
ニーアの豪奢なドレスをぶわりと巻き上げながら姿を現したのは、薄緑の髪に、青の瞳をした男性。
「まぁ、そんな言い方はよろしくないのではなくて? もとより、土のは人の子に甘いのですもの」
そう言って現れたのは、全体的に色素の薄い、薄青の髪と、ごく透明に近い薄青の瞳、ゆらめく羽衣みたいなドレスを纏った女性。
「水のも……?」
少し戸惑うようなニーア。
なるほど、呼び方から考えるに風の精霊の長と水の精霊の長か。
そういや以前、風はともかく水と火の長は自分の領域からあんまり出てこないって言ってたね。
でも、力ある存在の名を知らせないというのは、ここでも生きているらしい。
それよりも。
「人間かぁ。そう言ってもらうの久しぶりだなあ」
そっちに感動してしまう。
「「は?」」
綺麗にハモった風と水の長達を見上げて
「いやー、ニーアはライと同等の存在だとか言って敬ってくるし、街に行きゃ小人族に間違われるし、精霊王だって勘違いする子に出くわすし。わたしゃただの人間だってのに、中々そう認めてもらえなくてねぇ」
しみじみと頷くと、これまた見事にぽかんとされた。
その2人? を見て、ニーアが吹き出した。
「無駄ですわよ。この方はその程度の煽りじゃびくともしませんわ。それと、この方にはあたくしも主も名を明かしておりますから、別に隠さずともよろしくてよ」
「あ、そっか。普通に呼んじゃった」
「構いませんわ」
それを聞いた2人の表情が、呆気にとられたものから驚愕に彩られたものへと色を変えた。
「土のはともかく、主が?!」
「何を考えていらっしゃるの?!」
悲鳴のような声が上がった瞬間
「それだけ重き存在だということだ」
わたしに対する時と明らかに違う、威厳を滲ませた低い声が響いた。
「「主」」
ざっと膝をつく2人と、さらりとドレスを払う礼を取るだけのニーア。
温度差すごいな。
「土の!」
咎めるような2人の声もどこ吹く風。
しらっとしてるどころか、わたしに目配せしてきた。
なるほど、乗っかれと。
「ねぇ、ライ?」
いつものように軽ーく呼びかけると、跪いた2人の背がぴくっと震えた。
「なーに?」
これまたいつものように……いや、いつもより更にだな。お気楽な声で返事をよこすライ。
「この2人って、風と水の『上位精霊』さん?」
わかってて聞くわたしも、大概いい性格してるとは思うけど
「一応、彼らの名誉のために言っておくと、精霊の長ね。……私としては、君に敵意を向けた時点で、どうでもいいんだけど」
ライの悪ノリも、ちょっと酷くないか。
ふるふる震える2人が目に入ってないわけはなかろうに。そもそも長ってことは、自分で創り出した存在なんだから、どうでもってことはないだろうに。
そんなところへ、無邪気にトドメを刺しちゃったのがうちの子達だ。
「織葉さーん。あ、ライ様もこっち居た。いくら濡れないからって、いつまで雨の中にいるのさ。朝ごはんできてるよ?」
「ライ、我は織葉殿を呼んで来るように頼んだと思うのだが」
様付けではあるけど、ライよりわたしを先に呼んだティンと、ライのことは呼び捨てにするくせにわたしには敬称をつけるルチル。
ルチルなんて、わたしから卵を入れた籠を受け取りながら、憮然とした顔でライを睨んでいる。
「まあまあルチルさん。ていうか、お客さん?」
「む。ならば茶の用意をせねばならんな。ティン、我は先に戻る」
「はーい。よろしくー」
ひらひらと手を振ったティンがこちらを振り返り
「で? お客さんじゃないよね? 匂いからして風と水の精霊だよね。敵意ぷんぷんするけど」
と目が笑ってない笑顔で首を傾げた。
この子の嗅覚ってどうなってんだろ。
ティンはもちろん見魔ではないんだけど、最近はその鋭い嗅覚で精霊達を嗅ぎ分けられるようになったらしく、それで精霊達とかくれんぼをしているらしい。それでさらに鍛えられるという、好循環。
ルチルも精霊を見られるわけじゃないけど、風景にできる微妙な色の濃淡で、精霊のいる場所が認識できるらしい。
わたしは空気の濃度っていうか圧というかで、集まってるというのはわかるけど、相変わらず認識はできない。ただし、実体化してくれたら個別認識はできる。流石にグローシュのように1人1人名前をつけるのは無理だけど、ニーアに言わせれば、わたしが一番おかしいらしい。
でも、地球から来た3人の中で、単純に『精霊を認識する』という1点に於いては、ティンがぶっちぎりでトップだ。
「流石ティンさんですわね。ええ、あたくしの同胞ですわ」
「そうなんだ。でもさ、こう言っちゃなんだけど、ニーアさんが一番強いよね」
おお、ティンも煽る煽る。
人当たりのいいこの子がこういう物言いをする時点で、お察しだ。
「なっ……!」
気色ばんで顔を上げかけた男性が、正面にライが居るのを見て、慌てて顔を伏せる。
ニーアはいつもどおりに、わたし達と立ち話をしているというのに。
その姿勢ひとつとっても、ニーアがどれほど力をつけているのかがわかる。
いくら慣れがあるとはいえど、力の無い者が、己の主であるライと正面切って対峙できるわけがない。
ニーアだって、初めてわたしに姿見せた時は一応跪いてたもんね。
わたしにまでそうしようとしたから、断固として拒否したけど。
「だって衣装の豪華さもだし、存在感だってニーアさんの方が圧倒的に上だもん。存在感だけで言うならグローシュも大概だけど。ねー」
最後のは、わたしにべったりくっつくグローシュと、顔を見合わせての言葉だ。
「ねー」
首を傾げてティンに笑い返すグローシュ。
「グローシュも一緒に来たの?」
「ティン、オルハ迎え行くって。だから来た」
まだ少し舌足らずな口調が実に可愛い。
「ありがとねぇ」
腕を伸ばして頭を撫でると、むふー、という擬音が聞こえそうな顔で笑う。
身長だけでいえば、もうわたしよりでかいのに。
ほのぼのとそんな言葉を交わすわたし達を、こっそり伺い見たらしい。
2人の伏せられていた顔が、がばっと跳ね上がった。
「ひ、光の……っ?!」
なぜか大慌てな2人に、ニーアが呆れたように肩を竦める。
「光の子ですわ。光のが出て来たわけではありませんから安心なさいな」
そんなニーアに掴みかからんばかりに叫んだのは男性の方。多分風だね。
「まだ幼体だからといって、名を呼んでいいわけがなかろう!」
そう言われましても。
「お怒りのところ悪いんだけどさー、グローシュはわたしが名付けたんだよね。その名前呼ばないなんて、そんなおかしな事があるわけなかろ?」
聞こえなかったわけじゃなかろうに、何を言われたのか理解できなかったらしい。
ぴきんと完全に固まってしまっている。
「ぼく、オルハに名前もらったよ」
にこにこと、更なる燃料を投下するご本人。
蒼白になった2人は
「あ、あああ、主?!」
と何か救いを求めるようにというかなんというか、ライに視線を向けた。
対するライはといえば、なんだかすごくつまらなさそうな顔。あ、いやこれは拗ねてるか?
まあ、グローシュはわたしにくっついてるわ、それなのに今の立ち位置的にそれを引き剥がすこともわたしにくっつくこともできないんだもんね。
仕方ない、後でヨシヨシしてあげよう。
「おるはに懐いたのは光の子の方だし、ここに居着いたのも本人の意思だし。こんなにはっきり顕現して、ここで暮らす以上、名無しというわけにもいかないだろうとけしかけたのはニーアだ」
「あら、主も反対なさいませんでしたわ」
「まあそうなんだけど」
「でしたら、あたくしだけの責ではないと思いますの」
わたしにとっちゃ見慣れた光景なんだけど、ライとぽんぽん言い合うニーアの姿に、ご新規の2名さんは、真っ青だ。
「ねーライ?」
「うん? なに?」
「ライって、恐怖政治でも敷いてるの?」
「「は?」」
ライとニーアの声が綺麗にハモった。
「いやほら、そこのお2人さんが真っ青な顔してるからさ」
そこの、と言いつつご新規さん達を指すと、2人が顔を見合わせた。
「主、怖いらしいですわよ?」
「いや、単にお前の態度……というか言動が私を敬うものには見えないからだろう」
ライの言葉に、こくこくこくこくと首が高速で振られた。
「まあ、ここで暮らすとそうなるよねえ……」
とはすごく呆れたようなティンの声。
「ライ様って、織葉さん絡むとどこまでも残念というか、ぽんこつというか、酷いんだもん」
「おるは、ティンが酷い」
「でも言い得てると思いますよ?」
なんて言い合ってたら
「だから朝食ができたと言っておるだろう!!」
ルチルの雷が落ちたのでありました。
何気にルチル最強説




