これ以上はごめんです
今回は久しぶりに長め。
切りどころがなかったというのもありますが……。
あと少々胸クソ発言がありますが、さらっと流してくださるとありがたいです。
朝。
目が覚めて、誰かの腕の中だったらパニック起こしませんか。わたしは起こしました。
「……!!?? いったぁい!?」
跳ね起きようとして足首に走る激痛。ほぼ同時にその腕にやんわりと拘束された。
「おはよう。それだけ元気なら熱は下がったかな」
穏やかな声がかけられる。
「ねつ」
「うん、熱出したの覚えてない?」
「お、ぼえてない……」
というより助け出されて大泣きしたところで記憶が途切れてる。
「1人で寝させた方が回復は早いかとも思ったんだけどね、離してくれなくて」
……ええ、ライのシャツがっちり掴んだままですね。
握り込んでいた手をゆっくり開き、そろーりと離す。
くっついてていいのに、などといい顔で言われたので、ぐーで軽く殴っておいた。
「いたた、酷いなあ」
全然痛くなんかなさそうに笑いながら、こつんとおでこを重ねてくる。
「うーん、まだちょっと熱っぽいかな。あと足の痛みはどう? かなり酷いから、治さない方がかえって目立たなくて良いって言われたんだけど」
「ああ、そうかもしれませんね。昨日の騒ぎで覚えられてる可能性高いですし、けろっと治ってたら逆に悪目立ちしそう」
「実は昨日じゃないんだけどね。治癒魔法もあるにはあるんだけど、この街に治癒術師は居ないみたいだから」
ライの神気は貰ったけど、咳の発作を抑える程度に調整してくれていたらしい。
……ん? ちょっと待て。昨日じゃない?
「ライ、昨日じゃないって」
「3日も起きないから、みんな心配してるよ」
「はい?!」
「おるはは知られたくないだろうから、宿の人には最初知らせないでおこうって言ってたんだけど流石に無理で、医師の手配をお願いしたんだ。たぶん怪我とショックの両方が原因だろうって」
「……なるほど」
そりゃあお腹も空くはずだ。
「少し怠いけど、大丈夫。お腹空いたし、ごはん食べたい」
「そっか。食欲があるならもう大丈夫かな。みんな心配してるし、行こうか」
そう言って腕を広げた。けど。
「その前に」
「ん?」
「着替えたいんで、出てもらって良いですかね。ライも着替えた方が良いと思いますが」
「……そうだね」
着替え終わるのを見ていたかの様に部屋に戻ってきたライは、人の目の前でさっさと着替えるとわたしをいつものように抱き上げた。
そのまま食堂に向かうと、ティンとルチルには泣き出さんばかりの勢いで心配され労られ、ベルデちゃんには本当に泣かれ、オウロさんと奥さんのフィラさんにまで労られ、と大騒ぎになり、結局ごはんにありつけたのは、わたしのお腹の主張に気付いたティンが、話を強制終了させてからだった。
みんな本当に心配してくれてて、元気にごはんを要求するのがなんか申し訳ない。お腹空いてるから食べるけども。
オウロさんがおかゆというかすごくあっさりしたリゾットみたいなものを作ってくれたので、ありがたくいただく。
「そういえばマスターにギルドに来てくれって言われたっけ」
「体調まだ良くないならもう1日待ってもらう? 僕言ってくるよ?」
「でももう3日経ってるんだよね? あんまり待たせるのもどうなんだろうって思わなくもないんだよね」
「織葉殿が熱を出して目覚めないということはもう伝えてあるが」
「そうなんだ。うーん、確かにまだ少し体が怠いから、今すぐっていうのはちょっと……って、いつ頃にとか言われてなかったよね」
「うん。だから織葉さんは食べ終わったらゆっくりしてて。僕達で聞いてくるよ」
「悪いね、2人ともありがとう」
「んーん。気にしないで」
笑いながらそういうティンと真面目くさった顔でこくりと頷くルチル。
諸々を任せて医師に処方されたという薬を飲んでからもう一眠りすると、熱っぽい怠さも引いて、ほぼ完全復活。
お昼、帰ってきた2人から話を聞くと、無理はしなくていいけど、できるなら来て欲しいとのこと。
体調もひとまず落ち着いたことだし、行くのは別に構わない。
ただ、ライが絶対に抱っこしていくと息巻いているのがね。
まぁあれだけ心配させてしまった手前、断固として拒否というのも言い辛い。ここは諦めよう。まだ歩き辛いのは事実だしね。
結局、特に時間は問わないというお返事に従って、7の刻を過ぎた頃にギルドへと向かう。
途中で魔法陣が展開された辺りを通ってもらったんだけど、まだ衛兵さん? 達が何やら調べてた。声をかけてきた人によると、痕跡から解析の魔法を使って魔法陣の作成者を割り出そうとしているらしい。難航してるらしいけど。
ちなみにわざわざそこへ行ったのは、お騒がせしたお詫びをと思ったからなんだけど、逆に周りの屋台の皆様に無事を喜ばれ、特にドライフルーツを買った店のおかみさんは涙脆かったらしく、良かった良かったと喜ばれながらもおいおい泣かれました。
本人より周りの方が大騒ぎで、困惑というよりは一周回って何やら申し訳ない気持ちになってしまう。
また買いに来てと言われながらその場を後にすると、知らずため息がこぼれた。
「疲れた?」
「じゃなくて、わたしのことのはずなのに、周りの方が大騒ぎになっちゃってて……」
「取り残された感じがするとか?」
「そう、ですね。なんだか自分のことじゃないみたいで」
「困惑してるんだね」
「そんな感じです」
苦笑すると、ライは困ったように眉を下げた。
「仕方がないと思うよ。スラムの子どもが行方不明になるのとはわけが違う。白昼堂々、あんな目立つ方法で攫われたんだ。騒ぎにもなる」
「そんなものなんですかね……」
でも、周りの気持ちもわからないではないから、きっと何かおかしいとしたらわたしの方なんだろうな。
そんなことを話しながらギルドに着くと、直ぐにまた裏の部屋へ連れて行かれた。
部屋に入ると、マスターはまず手の中にあった魔晶石を部屋の四隅に置いて小さく何事かを呟く。
「簡易結界だ。話が話だからな。そのうち然るべき筋から流されるだろうが、今俺が漏らすわけにはいかん」
「はぁ」
「で、だ。黒幕がいる」
「でしょうね」
「あっさりしてんな。なんでそう思う」
「だってわたしの拐かしに使われたのは魔法陣です。しかもご丁寧に外部からの干渉を遮断して、かつ魔力を吸い取る様な機能付き。そんなモノ、一介の……しかも言っちゃなんですが一流でもない冒険者がそうほいほいと手に入れられるはずないでしょう」
そう、あの時ライが解析してたらしいんだけど、あの触手はどうやらそういう感じの機能があった様で、そりゃ触りたくないって本能的に思っても不思議じゃないよね。
「拐かしって……。まぁいい、なんで一流じゃないって言い切れる。アレは確かに性格に難有りだが、そんな奴でも腕だけはピカイチって奴なんざわんさといるぞ」
探る様な言葉に、淡々と答えを返す。
「1つにはあの皮です。あんなにボロボロになるまであちこち切りつけなきゃ仕留められないって言うのは、正直に言って腕が無いとしか言い様がないです。それに自分の得物のお手入れをきちんとしてない。最後に、魔法陣に飲まれた時に『俺は出来損ないなんかじゃない』っていう言葉を聞いたんです。そういうこと言う奴ほど……ってやつですね」
「ぐうの音もでねぇほど正論だ」
マスターが苦々しく唸る。
「他に何か聞いたか?」
「俺にだって使えた、って言ってましたかね。扱えるかどうかわからない程高性能なものだったのか、血筋とかそういった何かが必要なものだったのか……」
「ある意味どちらも当たりだ。それが結界なんてものまで持ち出した理由でもある」
おっと、当てずっぽうがまさかの正解。
「あいつ実は貴族の成れの果てってやつらしくてな。見魔を輩出することで有名な血筋なんだが、その力を上手く伸ばせなかった奴は、出来損ないの烙印を押されて放逐されたらしい。で、済し崩し的に冒険者になったものの、そこでものし上がることができずにいたと」
わぁ、お約束。
「それでも見魔の端くれだ。あんたのその珍しいっていう魔力煌でも見たんだろうよ。自分のものにすれば、実家に戻れるかもしれない。それなりの地位につけるかもしれない。そんなことを考えちまったんだろうな。で、魅魔の出来上がり、と」
「連れてったところで、わたしの力なんて自分のモノでもないのにどうするっていうんでしょうね」
「自分の人形にしちまえばいい。あんたは女だし、犯して言うことを聞く様に調教でもなんでもするだろうよ。人間の心ってのは案外脆い。絶対に折れないなんて奴が居らんとは言わんが、皆が皆そうであるわけじゃない」
ごく稀にいたりするんですね、わかります。
しかしまぁ、純潔でなければならない聖女とかならいざ知らず、多少犯されたくらいで言いなりになるほど脆くはないと思うけどね。
ん? 聖女だからって純潔でなければならないわけではない? ああそう。
「おるはにそういう意味で手を触れてたら、存在ごと消滅させてる」
おっと、ライさんご立腹。
というかわたし以外の全員が殺気立ってる。わたしがノホホンとしているのが異常なのか、そうか。
「綺麗な顔して中々物騒だな。……というかにーちゃんはにーちゃんで何者だ? 走ってる最中にいきなり消えたよな。転移が使える奴なんて数えるほどしか確認されてないんだぞ」
「ずっと隠れて生きてきたからね。おるはに出逢わなかったらこれからもそうしてた筈だし」
隠れてというか何というか。
いくらなんでも神様だから、なんて言うわけには……
「そうだな、神だとでも言ったら信じるか?」
言っちゃったよ!?
「むしろそうとでも言われた方がしっくりくるわな。……え、おい?」
もう知ーらない。
にっこり笑顔でそれ以上を口にしないライと黙るしかないわたし達。
目を皿の様にしていたマスターは、やがて頭を振ると
「はあ、まあ良いさ。お前さん達が何やらとんでもない力を持ってるってことはわかったし、敵に回らないでさえいてくれたらそれでいい」
疲れた様にそう言った。
「僕らを一緒にしないでよー」
とティンが言うのに、何を言ってるんだか、という目で見てやる。マスターも似たような視線を返していた。
犬の聴覚と嗅覚、足の速さを持ってるんだからあんたも十分とんでもないよ。
ルチルは当然闇を見通す猫の目を持ってるし、気配の消し方は本気になれば実はティンよりもえげつない。
「おるはに危害を加えたりしなきゃ、敵に回ることなんてないよ」
ライはライで、しれっとそんなことを口にする。
マスターの目が困惑の色を湛えてわたしに向いた。
いやそんな目で見られましても。
「嬢ちゃんは神の愛し子ってわけか」
「わたしはわたしです」
ライはわたしを愛してると言ってくれているけれど、だからってわたしがライを使えるわけじゃない。そんな風には思えない。……嬉々として使われてくれそうではあるけども、それはちょっと置いとこうか。
そうきっぱりと言ってのけたら、マスターの目がふっと柔らかく細められた。
「あんたはなんだかんだで1人でも生きていけそうだな」
「そんなつもりは無いですが、彼らと出会う前は1人でしたからね」
仲間や遊びに来る子ども達は居たし、雪花という相棒も居たけれど、何十年と基本的には1人だった。
マスターは軽く頷くだけで、それ以上何も言わなかった。
「そうか。で、あいつの使った魔法陣。あれはその家から持ち出したって話なんだが、それが問題でな」
「魔女と関わっている証拠となるからですか」
よくわからないけれど、おそらくこの世界で魅魔や魔女と言った存在はいわゆる裏組織的なものなんじゃないかと思う。その実家の貴族がどの程度の家格なのかによっては、かなりの騒ぎとなるのだろう。
「そうだな。騎士爵とかなら良かったんだが」
もしかしてあいつ、元は結構高い身分だったりしたんだろうか。
「侯爵家だったからなぁ」
「うわぁ……」
思わず呻く。
家格的にも上から数えた方が早く、大臣とかそれなりの要職に着くこともあったりする家系なんだそうだ。
あ、なんかやな予感……。
「わたし一介の猟師ですしー。特に何か損害があったわけでもないですしー。補償とか要らないんでもう帰っても良いですかね?」
「申し訳ないけれど、そういうわけにはいかないのです」
「うぇ?!」
第三者の声がして、思わず声がひっくり返った。
すう、とその輪郭を滲ませるように部屋の隅に現れたのは、これまた長身の女性。まあ道理でティンとルチルがやたらとあの辺りを気にしてたわけだ。
随分と凛々しい出で立ちだけど、線の細さで女性だとわかる。もっとも、本人も特に性別を偽るつもりでそういう格好をしているわけではないようだ。
「……どちら様で?」
自然、声が警戒を帯びて硬くなる。
「こんな現れ方をしておいて、怪しい者ではないと言っても説得力など無いでしょうけれど、本当に怪しい者ではございません。私はアストロフィーラ=アゼツ=ギイ=シバリンガム。シバリンガム家次期当主、というか現在当主代理にしてポデル……あの馬鹿者の姉でございます」
怪しくは無いかもだけど、やっぱりっていうかなんていうかな御方だった。それにしても名前長っ! めちゃくちゃ偉い人なんじゃないかこの人?
「……織葉と申します。そっちはわたしの家族のライ、ティン、ルチル」
「家族、ですか?」
従者でなく? という言外の問いを
「はい、家族です」
一言の下に切り捨てる。
どんな意味であれ、彼らはわたしの家族だもの。
「まあそこは関係ないので今はおいておきましょう。この度は当家のものが大変失礼をいたしました。本日は説明とお詫びの為にこちらに参りました」
「はあ、ご丁寧にどうも……?」
「当家は代々善き魔女……魔導師と関係を持っていたのですが、数代前よりその数を減らしていた魔導師に代わり、魔女と関係を持つようになっていたようなのです。私がこのことを知ったのは、今回の件で調査が入り取り調べを受けたからなのですが、どうせ嫁に出される立場にあったからか諸々を知らされてはおらず……」
おお、わたしが寝てた間に色々あった模様。
「情け無いことに、我が父と後継の兄も魔女と手を結んでおりました。そういったところへポデルが貴女の情報を持ち込み、唆しついでに手に入れようと画策したのでしょう。あの魔法陣を持ち出せた理由もそこにあります。魅魔に堕ちるとは情けないにも程がありますが、今回の黒幕とされるのは確かに当家の頭領たる者達。私は連座を免れたに過ぎない者ですが見魔の能力はございますし、この件にて当主とその後継が捕縛されたものの、現在のところ断絶とまでの沙汰が降りておりませんから、ひとまず当主代理の座についております」
「……はあ」
否応なしに色々と知らされちゃったけど、わたしになんの関係があると。
「貴女が望めば、厳罰に処することもできます。私も含めて」
「別に。犯人にはそれなりの罰をとは思うけど、こうしてわたしは無事でいるし、特に厳罰化する必要もないでしょう。無関係の人にまで罰を与えようとも思いません」
「寛大なお言葉ありがとうございます」
「政治的判断はわたしにはわかりませんから、そうする必要があってのことなら、そこに口を挟むつもりもありませんが」
そういうと、彼女は静かに頷いた。
「わかりました。伝えましょう」
「用件はこれだけですか?」
尋ねると、彼女は一瞬だけ視線を彷徨わせた。
ん? と思う間もあったか、再び口を開く。
「あと、この件に絡んで興味を持たれたらしく、王が是非会いた」
「嫌です。お断りします」
脊髄反射でぶった切る。
相手の言葉を遮るのは失礼にはなるけど、知ったこっちゃ無い。
「呼び付けて、会って、何をするっていうんです? わたしはただの猟師ですよ」
「いえあの、ただのと言うには」
「……無理強いするというのなら、こちらにも考えがある」
おろおろと言葉を重ねようとするのを再び遮って、低い声が響く。
ライがこんなこと言うと、彼の正体を知ってるわたし達には冷や汗モノなんだけど、彼女は虚を突かれたように瞬いた。
「考え、とは」
「おるはは精霊にこの上なく愛されている。彼女が望めば、この国から精霊の加護を奪うくらいのこと、簡単にできるだろうね」
わぁ、明確な脅し来た! いややらないけどね?!
ライ自ら天罰とか発動することもできるんだろうけど、正体を一応隠している今はそれを口にはできないし、そもそも以前聞いた話からしてこちらの方が脅しとしては効きそうだ。
果たして、2人の顔色がはっきりと変わった。
「そ、れは……」
「冗談でも口にするのは問題だぞ」
「冗談なんかじゃないよ。おるはは嫌だと言った。精霊の愛し子に無理を強いて無事でいられるなんて思うな」
ライの眼光に気圧されたように、息を飲む2人。
ややあって、こくりと何かを飲み下した彼女がようやく口を開いた。
「……わかりました。類稀なる魔導師となる可能性をお持ちでいらっしゃるだけに勿体無いですが」
「見えもしないのにどうしろって言うのさ。わたしはただ平穏に生きる為にここに来たんだ。それを乱そうって言うなら、相手が誰であれ容赦しないよ」
丁寧語が抜け落ちる。けど、流石にそれを咎め立てされることは無かった。
「訓練次第で使うのはどうとでもなりますが、無理強いはできませんね。確と伝えましょう」
ま、使うのはどうとでもなるよね。知ってる。言わないけど。
「頼みますよ」
重ねて言うと、キリッとした表情で頷いた。やれやれ。
「……で、今度こそ用件は終わりですか?」
「ええと、何か聞きたいことが有れば、答えられる範囲でですがお答えしますけれど」
……魔女と魔導師の違いとか気にはなるけど、後でシディルさんにでも聞こうかな。その方が良いような気がする。
「今は、特に思いつかない、ですね……」
そう言葉を濁すと、彼女はまた頷いた。
「左様ですか。何かありましたら、ギルド経由で連絡をくださいませ。ご説明に上がります」
「わかりました」
とは言っておこう。社交辞令って大事だよね。
お読みいただきありがとうございました。




