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いつかお花見を
ユーディと別れたわたし達は、再び市場へと戻ってきていた。
え、仕立て屋さんの所は、って?
いや、そこへ行くまでに市場通るんだもん。
今度の目的は果物。リムンだけじゃなくて、他にも何か見つかるといいな。
考えてみれば、森には柿に似た実がなってたし、アルフェはリンゴと梨のミックスみたいな感じだし、他にも地球の果物に似たものがあったっておかしくない。
さっき食べたのはスモモみたいな味だったけど、半径を見るに、グレープフルーツくらいのサイズがありそうだったっけ。あれもあったら買って帰りたいし、苺とかベリーっぽい何かがあったら嬉しいな。
わくわくしていると、やっぱりライに手を繋がれた。
気にせずその手をぐいぐい引きながら果物系の露店を物色していたわたしは、とある店の前で急ブレーキをかけた。
ライがつんのめってたけど、転んだわけじゃないし気にしない。
わたしの大好物、ツヤツヤ光るさくらんぼっぽい山が目に入ったのだ。足を止めないわけがない。
よく見ればその店には他にも苺や桃に似た果物や、ザボンみたいな大きさの、何かわからない実が並んでいた。さらに当初の目的であるリムンも積んである。バナナとかパイナップルみたいな南国フルーツ系はなさそう。この辺りは冬が割としっかり寒いらしいし、だからかな。
ブルーベリーやラズベリーみたいな他のベリー系を期待したのだけど、それも見当たらなかった。夏や秋に実るものもあるとのことで、季節を変えれば品揃えも変わるかな。
因みにさくらんぼはケレス、苺はプレシェ、桃はキーニャ、大きい実はプルナというらしい。
リムンも含めて一盛りずつ、鞄屋さんのとこで追加購入した袋に入れて貰い、プルナはお試しで1つ、お買い上げ。すぐに食べてみたいけど、傷むのは嫌なので、わたしのポーチに仕舞う。
中が見えないわけじゃないけど、なんか容量的に見えなくなるものがあるかもしれないし、何を入れたか忘れないようにしなくちゃね。
「たくさん買ってくれてありがとうね! お使いかい? 小さいのに偉いねぇ」
おかみさんには、金持ちの家の子が、お供を連れてお使いに来たように見えたらしい。
吹き出したライの足をやんわり踵で踏みつけつつ、にこー、と笑った。
「いいえー。わたし20歳ですからー」
なんとなく棒読みになったのは気のせい。気のせいったら気のせい。
「えっ?!」
目に見えて動揺するおかみさん。
しかし、小人族が居るこの世界で、なんだって小さいってだけで子供扱いされなきゃいけないんだ。やっぱりあれか。抱っことか手繋いでるのが原因か。
「ご、ごめんよ? お供みたいなのも居るし、てっきり……」
「慣れてるんでー。大丈夫ですよー」
うん、ホントにね。……ダメージが無いわけではないが。
「良かったね織葉さん。さくらんぼ大好物だもんね」
「うん。ていうかさくらんぼがあるなら桜もあるのかな」
ライを見上げてみる。
「さくら?」
こてん、と首を傾げるライ。桜、では流石に通じないらしい。
「日本で一番愛されてると言っても過言じゃないかもってくらいの花なんだけど、こう、薄い淡いピンクで、基本は5枚花弁で……ええと」
困った、イメージははっきりしてるのに、いざ言葉で説明しようとするとすごく難しい。
「遠くから見ると、薄紅の雲がかかってるみたいにも見えるくらい、みっしり咲いて……」
「ちょっとごめんね」
言葉を探すわたしをひょいと抱き上げると、額同士を重ね合わせた。
「そのまま思い浮かべてて。……ああなるほど、こういう樹なんだ」
「今のは何をしたんです?」
「おるはの思い浮かべてる映像を見せてもらっただけ。ちょっと違うかもしれないけど、似たものはあるよ。今度見に行こうか」
「ホント?!」
日本人なのでね。春とくればお花見でしょう。
「お弁当作るんで、お花見しましょう! 約束ですよ!」
「ピクニックじゃないんだ」
「うーん……。実質はピクニックみたいなものなんですけど、桜にはお花見と言う方が似合うというか……」
「何か違うの?」
「花を愛でながら飲み食いするんですよ。ピクニックは、なんか『どこかに行く』っていうのがメインっていう風な気がするんですが、お花見はあくまでも花が主体なんですよね。気持ちの違いって言っちゃそこまでですが」
「色々と拘りが強いんだねぇ」
「そうかも」
わたしの住んでいた山には、それはそれは見事な桜の木があって、ソメイヨシノとはまた違う、山桜ならではの風情をもった古木だった。
春になると、子供達がよくおやつを持ち寄っては花見に行こうと誘いに来たものだ。山に入るには、わたしの許可が要るということをよくわかっていた。休みの日なんかには、わたしも簡単な弁当を作ったりしてね。
わたしが居なくなって、山には入れなくなっただろうし、残念がってるかもなぁ。
まぁ、わたしも卒寿を迎えてたことだし、あの子達だって、覚悟はしてただろうけどね。
久しぶりに思い出してしまった日本での暮らしに、ほんの少しだけ懐かしさと寂しさを覚える。
抱き上げたままだったライが、そっとわたしの頭に頬をすり寄せた。
「じゃあ、帰ったら今度はそのお花見? だね。楽しみにしていて良いかな」
慰撫するようなやわらかい声に、
「たいしたものは作れませんが」
とまぜっ返す。
「でも織葉さんのお弁当、子供達すごく喜んでたよね」
「家とは違う、変わったものが食べられるからじゃないかい?」
猪やら鹿やらが一般家庭でそうホイホイ食べられているとは思わない。
炊き込みご飯とか卵焼きとか普通の物ももちろん作ってはいたけど、猪の味噌焼きとか鹿の唐揚げとかの方が食いつきは良かったし。アレは絶対、物珍しさが先に立ってるよね。
そういえば、醤油とか買ったとこでも、こんにゃくって見なかったなぁ。食べなきゃ死ぬってわけじゃないんだけど、玉こんにゃくの煮付けがやたらと好きな子が居たんだよね。
なんだか色々思い出しちゃったなぁ。
まぁ、ここにはここの食材があるんだし。また自分なりに美味しくご飯が食べられるように研究しなきゃ。
差しあたってはこの果物達かな。そのまま食べるだけじゃなくて、どんな風に加工すれば美味しいか調べてみようっと。
うん、楽しみだ。




