異世界野菜はじめました
ごめんなさい短いです(汗)
翌日。
「さあ、畑作るぞー!」
鍬を片手に意気揚々と宣言する。
「織葉さん、今日はなんでまたそんなにヤル気漲ってるの」
「だって初対面だよ異世界野菜!これが張り切らずに居られるかい?」
いや居れない!(反語)
耐えられずにまにまするわたしを苦笑交じりに眺めるティン。ルチルは無表情ながら若干引いている……ぽい。
うん、慣れて。
ここ数日、暇さえあれば雪花が解してくれていた地面はさらにふかふかになっている。もとよりよく肥えた土なだけに、良い畑になりそうだ。さくりと容易く鍬が入る。
土を起こし、畝を作り、溝を切る。
「それにしても似合わないねぇ」
「何が」
「トライン様。見慣れていないって言うのを差し引いても、似合わないにもほどがあると思うんだよ」
わたしが街へ行くときには絶対に一緒に行くと言い張ったトライン様は、市井に紛れる訓練が必要だとシディルさんに突っ込まれ、只今ティンやルチル同様、この世界における一般的な男性の服装をしているのだ。
「織葉さんも人のこと言えないと思うよ?」
「そう?」
「とんでもない美少女に鍬が似合うとでも?」
「農家に美女は居ないと?」
「そうは言ってない」
うん、わかってる。
居る居ないと似合う似合わないは別問題だわな。
ちなみに今朝、日本で野良仕事の時にしていた服装に着替えて髪を纏めていると、とてももの言いたげな視線にさらされた。黙殺したけど。
だって真っ直ぐな髪だからさ、しっかり結い上げておかないと邪魔になっちゃうじゃないか。とはいえ三つ編みにしてお団子にしただけなんだから、別におかしくないだろうに。
ほっかむりしないだけましだと思うんだ。
さて、と。
2mくらいの短い畝を10本。テラスにほど近い場所に囲いを1つ。
畝1本につき1種類ずつ種を撒き、囲いの中に果樹の苗木を植える。
「織葉さん、こっちオッケーだよ」
「こちらも埋められた」
「ルチルさん、土被せ過ぎちゃダメだよ」
「大丈夫だと思うが」
「いいよ、多少なら問題ないから」
慣れた手つきで土を被せるティンと首を傾げるルチル。
2人に声を掛けて座り込んだわたしは、手のひらをぺたりと地面につける。
「では、いきます」
軽く目を伏せて、集中。
ゆっくりと大地の中を探るように、魔力に乗せて意識を広げていく。
その片端が、種に触れた。
教えて。知りたいの。あなたたちが一番理想とする姿を見せて。わたしの力を使っていいから。
脳裏で呼びかけると、瞼の裏で淡い光がちらつく。
不意に、すぅ、と軽い貧血を起こした時のような感覚が背筋を駆け下りた。
一瞬くらりとしたのを悟られないように深く息をして、大地に置いた手のひらに力を籠める。
先に座り込んでおいてよかった。
少なくとも体を支えられずに倒れることはない。
前の時には自分が脳裏に描いた映像に合わせて魔力の放出を止めたけれど、今回はあくまでも相手任せ。気力とか色々ごっそり持っていかれている気がする。
どれくらいそうしていただろう。
突然、放出し続けていた魔力が止まった。
同時に何かが頬に触れた気がして、伏せていた瞼を押し上げる。
「?!」
黄金色の瞳が、視界を占領していた。
「君ね、どこまで無茶するつもり?」
……ええと、この声は怒っていらっしゃる?
「怒りもするよね。ていうか僕も怒りたい」
え、ティン?
「あきれてものが言えぬ」
「怒りはしませんが、寿命が縮みました」
ルチル、言ってるからね。シディルさんまでどうした?
ん、あれ?
「なんか、トライン様大きくなりました?」
って、あれ? 声がなんか甲高い?
「私が大きくなったんじゃなくなくて、君が小さくなったの!」
抱きしめられて、確かにわたしの体が一回り小さくなっていることを理解する。
「ええと、なんで?」
「いくら君の魔力が膨大な量だって言っても、大地に繋がってるっていっても、一度に使える量は無限ではないんだよ?」
「そうでしょうね」
「じゃあなんであんなマネするかな」
そう言ってトライン様はちらりとわたしの背後に視線を流す。
その視線を追いかけて振り返って……。
絶句した。
そこに佇むのは、リンゴっぽい実を鈴なりに実らせた、大変立派な果樹。
「えと……?」
確かあそこには苗木を植えたよね? なのにそこに立つのは控えめに見ても樹齢30年とかいきそうな巨木。
なんでこんなことになってるんだ?
「で? 何したの?」
「何したと言われましても、前回同様わたしの魔力を大地に流して成長促進しただけなんですが」
「少なくとも『前回同様』じゃないよね?」
「……どんな野菜かわからないから、理想の姿を見せてってお願いしました」
「「「「それだ」」」」
全員そろって突っ込まなくていいから。
それくらいしか原因になりそうにないことくらいわたしにもわかってるから。
「果樹が理想的な姿になるまで育とうと思ったら何十年かかると思っているのかな? 幾ら何でも無理があると思わない?」
「いえ、そっちは意識してなかったんです。野菜だけのつもりで……」
正直にそう申告すると、わたしを抱きしめる腕の力がまた強くなった。
「……本当に君、私をどうするつもりなの」
「いえあのどうするつもりもないんですけど」
「絶対なにか企んでるでしょ。この世界滅ぼすつもりじゃないだろうね」
「何が悲しくて自分と一蓮托生になってる世界滅ぼさなきゃいけないんですか」
「じゃあもう私の寿命縮めるのやめてよね」
「神様に寿命ってあるんですか」
「ないけど」
ないんかい!
「ないはずの寿命が縮むような気がするんだよ。本当に君と言う子は……」
ため息つきながら抱きしめてくる腕の力が強くて、思わず背中をタップする。
「苦しいです」
「黙んなさい」
バッサリ切り捨てられたけれど、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくる腕は強張ってる。
意図しないでやったこととはいえ、そしてわたし自身も目茶苦茶びっくりしたとはいえ、流石に罪悪感めいたものが湧いてきて、背中に回した腕にそっと力を籠める。
ぴく、と震えたトライン様が、深く抱きしめなおしてくれた。
「……織葉さん、元に戻るんですか?」
どこか恐る恐る、ティンが尋ねる。
「一時的に魔力の調整がつかなくなっただけだろう。でも今日はもう魔力を使うようなことはしないこと」
「えー」
反射的に声が出てしまって、全員からじろりと睨まれる。
「文句があるの?」
「えー、じゃないでしょ」
「戻らなかったらどうするつもりだ」
「一日くらい何もせずに居ても罰は当たらないかと」
「……はい」
YES以外の返答を封じられたわたしはその後、トライン様はじめ全員の監視の元、テラスで日向ぼっこをする羽目になった。
あ、野菜の収穫はシディルさんとティンが主導して全部済ませてくれましたよ。
つまんなーい。
「……ん、あれ?」
不貞腐れているうちに、いつの間にか転寝してしまっていたらしい。
太陽はすっかり高く昇っている。
すぐ隣にはグローシュが丸くなっていて、気持ちよさそうに寝息を立てている。
……精霊も眠るのね。
「あ、起きた?」
ティンの声で、テラスの前で野菜の仕分けをしていた皆が振り返った。
「気持ちよさそうに寝てるからどうしようかと思ったんだけど、起きたならご飯にしよっか」
そう言われた途端、くぅ、とお腹が自己主張した。
え、なんで? 朝食べてからそんなに作業してないよ?
でも確かにお腹は空いている。
「あれだけ魔力を放出すれば、お腹も空くかと思いますよ」
「え、そうなの?」
「はい、魔力も生命力の一部ですから」
ほぇー。
「ということは、魔力の使いすぎで死ぬこともあるんですか?」
「ない、とは言い切れませんね。普通に使っている分には生命維持が最優先ですから、使い切るということはありません。魔力切れを起こして魔法が不発に終わったり、気を失ったり、そういう結果となるでしょう」
「自己防衛反応がきちんと働くんですね」
「そうです。ただ……そうですね、例えば己の分をわきまえず、その手に余るような大魔法を使ったりしますと、起動時に魔力の全てを持っていかれて死亡することもありますし、魔法陣や何人もの術者を用意しなければならないような大掛かりな魔法を発動させる場合もまた然り。禁止事項とされてはおりますが、魔法陣に全ての魔力を使用すると書き加えることもできますし、そういう効果を持つ魔道具も、闇の中には存在しています」
「つまるところ、非人道的な手段をとれば起こり得ると」
「そう、ですね。普通に生活しているだけなら魔力枯渇で死亡することはない、とだけ覚えておいてください」
苦いものを含んだその表情で、わかった。
きっとシディルさんはそういう物を詳しく知ってる。
でもその過去に触れるのは、本人だけで十分だろう。わたしは、今のシディルさんしか知らない。それでいい。
「うん、わかった。でも、だったらなんでわたしは縮んだんだろう」
「『縮んだ』って、あのね」
「いや若返ったって言うのもなんか違う気がして」
ただでさえここに来る時点で若返ってんだから、更に年が下がった場合、なんで言えばいいんだろう。……幼児化? なんかヤバい臭いがするな。
「まぁ、一晩もすれば戻ると思いますよ。今日のところはしっかり食べて、ゆっくり休んでください」
「ぅぬう」
呻いてみるけれど、全員にスルーされた。
お昼ご飯は野菜スープにイノシシ焼肉と野菜のクレープロールもどき。あと鈴なりになったリンゴっぽい果物。
アーフェルというらしい。見た目や食感はリンゴっぽいんだけど、水分が多くて梨っぽくもある。
わたしの魔力を思いっきり吸い上げて育っただけあって、味がいい。
魔力と味の因果関係?
知らないよ。でもそうとでも思わなきゃ悔しいんだもんよ。
でもこれ、ジャムとかジュースにしてもおいしそうだな。
「ティン、アーフェル籠に一盛くらい採ってくれない?」
「いいけど、何するの?」
「ジャム炊いてみようかと」
その瞬間、全員からじっとりとした視線が飛んでくる。
「「「「今日やらなくても、いいよね?」」」」
「……ハイ」
この過保護集団っ!!!
織葉の扱いがどんどん雑になっているような……。
うん、彩瀬のプロットなんて狂うの前提だもんね!(一応そんなことはない、はず)
今回もお読みいただきありがとうございました。




