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こどもは世界の宝物
現在、壁を向いて体操座りをするトライン様とそれを宥めるニーアを横目に、ティンになぜか膝詰め説教をされております。
「あのね織葉さん。そろそろ自分が『そういう目』で見られてるってことくらいは、自覚して?」
等々。
要約すると、無理強いしたり襲ったりはしないけど、わたしとの未来を思い描くくらいには愛されていることを理解しろ、と言いたいらしい。
「そろそろって言われても、こっち来てまだ1週か……」
「それでも」
食い気味どころでなく即答された。
……善処する、と答えたのだけども、ものすごい不信な目をされた。
うん、わたしがティンの立場でも、同じ目をしたかもしれないな。
だって、善処するって何回言ったことやら。
「そう言えばトライン様、さっきニーアを『生み出したうちの1人』って言ってましたけど、どういう意味ですか?」
「……忘れてるかもしれないけど、私、この世界の創造神なんだよね」
「忘れてはいませんが」
「だったらいいけど。だからこの世界の礎は私が作ったし、精霊たちの長たる存在はその中のひとつだね」
「てことはニーアって」
「地の精霊の長だよ」
単なる上位精霊だと思ってた」
「主を主と呼んだり、色々気付く要素は有ったかとも思えますけれど、オルハさまですものね」
……何気に失礼なことを言われている気がするのは気のせいだろうか。
「じゃあ、他の精霊の長さんは?」
「風のは気まぐれですから、そのうち来ると思いますわ。水のはそれに巻き込まれて来るかも知れませんわね。火のは、守護する場所の関係上、あまり出て来れません。光のと闇のは……人の前に姿を現わすことは、ありません」
まさかの引き篭りさん?
「いえ、そうではなく。彼らは自然を司るあたくし達とは違い、光と闇は、昼と夜を担う特殊な存在ですから、世界の根幹に関わることもあって、迂闊に姿を現せませんの」
「それは精霊魔法の使い手さんに対しても?」
「ええ。人に直接力を貸すことはございません。あたくし達ですら、数えるほどしか会ったことがないんですもの」
「へぇ……」
ん? えーと、あれ?
「ねえ、この子」
「はい、ものすごくものすごくものすごーーーく特殊事例ですのよ?」
今更そんな全力で強調されてもね。しれっと紹介されたから流してたよ。
この子、光の子って言ってたよね?
なんでこんなところに居るのかな?
ぱっちりした大きな瞳で見上げてくるその子は、確かに昼日中でもわかる、仄かな光を纏っている。
しゃがみ込んで視線を合わせると、にこっと笑う。無垢な笑みは、何物にも代えがたい宝物だと思えた。
「君は、ここに居たいんだよね?」
こくり。
それを確認してから、トライン様を振り返る。
「だそうですけど、どうしましょう」
あら、渋い顔。
「この子がいることで、何か問題が起きる可能性はありますか?」
光の精霊が昼を担う存在だとすると、いくらまだ子供だとしても、いや、もしかしたら不安定な子供であれば尚のこと、危険があるかもしれない。
「……危険は、無いと思うよ。ここには私とイアル、2つの世界の神の力を織り込んだ結界があるからね」
「ならなんでそんな渋い顔されてるんです?」
「面白くない」
「子どもにまでやきもち焼くようなココロの狭い人はモテませんよ?」
「君以外からモテようとは思わないから大丈夫」
「何が大丈夫なんですか。仮にも神様とは思えないセリフですね。あと、わたしも心の狭い人は好きじゃないです」
「君に嫌われるのは嫌だけど、事実だから仕方がない」
「開き直らないでください」
ああ言えばこう言うトライン様。
呆れはするのだけれど、不思議と嫌な気持ちにはならない。
わたし達が言い合うのを聞いていたティンの
「……トライン様って、織葉さんが絡んだ途端、ホント残念になるよねえ」
という呟きは、幸いにして耳に入らなかった。
さて、どうしたものか。
「ニーア。精霊の長としての見立ては?」
「そう……ですね。ここに居る限りは何の問題もないと思いますわ。先程主のおっしゃられたように、ここは2つの世界の神の力で織り上げられた結界が張られておりす。それに加えて、主もこちらで過ごされることがほとんどなのですから、万が一、この結界に綻びができるようなことがあったとしても、即時に対処していただけることでしょう」
「ほとんどって」
「あら違いますの?」
顎に指先を当てて首を傾げるニーア。
「……違わない、気がする」
「ですわよね。ただ……」
「ただ?」
「光の子はあたくしも初めて接しますので、どういう存在なのかわからないのです」
なるほど。
「そんなの、わかりきったことだよ」
「え?」
「子供は世界の宝物。未来への希望そのものだ。正面から向き合って、ただ慈しめばいいんだよ。ものの道理がわからないのであれば、いいことはいい、悪いことは悪いと教えればいい」
向こうの世界で、特別甘やかすわけでもないわたしに子供達が懐いてくれていたのは、この辺りも関係してるかもしれない。
わたしは決して子供を侮らない。
自分の方が歳を重ねた分、知識も経験も多い。けれども、新しい物事は子供達の方がよく知っているし、驚くほど詳しい子がいれば、教えるのが上手い子もいて、散々お世話になったものだ。
その最たる物がパソコン、次点がスマホだったっけな。
あんな複雑怪奇な代物、よくわたしに扱えたものだと思わなくもないけれど、それだって、つきっきりで教えてくれた子がいたからだ。
あ、マンガとかラノベもそうかも知れない。
「ね」
笑いかけると、きらきらした笑みが返って来る。それは向こうの世界もこちらの世界もやっぱり同じで、そこでふと気付く。
「君、名前は?」
首を傾げて問いかけると、鏡のように首を傾げて、きょとんとしている。
埒が明かないので、視線をニーアへと横滑りさせた。
「ニーアの名前って、トライン様が付けたの?」
「ええと、なんといえばいいか……。あたくしこの姿で生まれてきたんですけれども」
「そうなの?」
「はい。それで、生まれた時には既に、名前は知っていたんですの」
「へぇ…」
「けれど、生まれたばかりのこの子はまだ自我も薄いでしょうし、たとえ己の名があったとしても、恐らく理解できてはいないでしょう。もしよろしければ、オルハさまが名付けてやってくださいませんこと?」
「付けちゃっていいの? その言い方だと、自分の名前って生まれながらにあるんじゃないの?」
「あたくしは最初から自我を持った上で名前がありましたけれど、そもそもすべての精霊に名前があるわけではございませんの。この子に名前があるかはこの子にしかわかりません。でも、ここに居るのに名無しのままでは困りますでしょう?」
それは確かに。
名無しのごんべと呼ぶのはあんまりだ。
「じゃあ、つけるのはあくまでもこの子が自分の名前を思い出すまでの呼び名だね」
「それがこの子の本当の名前になるかもしれないけどね」
混ぜっ返す雪花。
「そうなってもいいように、可愛い名前にしようね」
光の精霊。
きらきらした瞳で見上げてくる可愛い……
「男の子? 女の子?」
「それはまだわかりませんし、どちらともつかないまま成長する者もおりますわ」
「あ、そうなんだ」
まぁいいや。ティンやルチルも、どっちだって通用するような名前だものね。
……光。きらきら光るもの。
「・・・グローシュ」
呟いた、その瞬間。
その子の体が、ぱあっと強い光を放った。
辺りを染める光の中、その姿が一回り程大きくなる。3〜4歳の体格だったのが、5〜6歳の体格に。
オーロラをまぶした金の髪は少し色味を強くして、瞳は淡い春の空。
「……ママ」
「ふぉっ?!」
あ、変な声でた。




