いつか
「どーせお前、このままいなくなるつもりだっただろ」
「…それは…」
「涼珂湖(自分)がなくなったから、いる必要はない。居場所がないとか…不毛なことを考えてただろ」
「………」
全く。
この神様は何でこんなに自己犠牲心が強いのか。
「お前を埋め立てたのは人間の勝手さだろ」
「ちがっ…ボクは…。浄化がボクの役目だし、この町の人が好きだから…っ」
「そうだな。じゃあオレももちろんみんなも…お前が好きだ」
「…!?」
「当たり前だろ。お前がずっと守ってくれてた。お前は昔からオレと遊んでくれた。オレは昔から友達だと思ってた」
涼珂が面白いくらいにうろたえている。
何かいいたそうにしているが言葉にまとまっていない。
「友達好きで何が悪い?友達がいなくなるの悲しくて何が悪い?人が勝手したんだ。だから今度はお前が勝手にすればいい」
「……え…?」
ちょっと待てこいつにぶい。
ここまで言ってまだオレが何を言いたいのかわからないんだな。
「お前がオレを勝手に居場所にしちまえばいーだろ」
そういってオレは離れた涼珂に近づいていく。
涼珂は視線をふらふらと彷徨わせながらオレと見たり空を見たり地面を見たり忙しない。
オレは彼の言葉を静かに待った。
そして、暫くして彼は何事か俯いて呟いた。
「ん?ごめん、聞こえなかった…」
「なんでっ…ボクにそんな、こと…っ」
「あー?友達引き止めちゃ駄目なのか?」
「そうじゃなくてボク、人じゃないのにっ…」
「…じゃあお前…。オレは人間で神なんてすげーもんじゃねえよ?それでもお前はオレと遊んでくれたじゃんか」
「だって、ボクみんなのこと好きだから…」
「それだよ、オレもおんなじ」
まだわからないといった顔をしてやがる。こんなにある意味頑固だったなんて知らなかった。どうしてコイツは自分で言っていることを自分に当てはめることができないのだろうか。
「いい加減わかれ!お前が何者だろうとオレはお前を友達だと思ってる。それでいいだろ!」
オレはそう言って涼珂の手を掴んだ。
はずだった。
「………!?」
手から砂が零れ落ちるように。水がつかめないように。
涼珂の手を掴んだはずなのに掴めなかった。
否、涼珂の手が解けるように掴んだところから消えた。
「あ、は…ごめん…」
「ちょ、それ!どういうことだよ!」
「…ボクはもう、自分を保っていられるほど力がないんだ…」
涼珂湖の全ての力を使って悪霊を封じた。
守り神である自分にももう力は残っていないという。
守り神だから石碑がある限りそこで眠り続け悪霊を封じ続けるらしい。
「……やっぱ会えてよかったな。ボクはもう友達、だったんだね…」
「…ああっ」
何か、無性に悔しかった。
オレはコイツの居場所になりたかった。
友達を、助けたかった。
「友達で…いいんだね」
「当たり前だろ!今も昔も、これからも友達だっ!」
「……」
少し驚いた顔をして、そして次の瞬間には今度こそ、涼珂の目から綺麗な透明な涙が溢れる。
けれどもとても嬉しそうに綺麗に笑っている。
つられてオレも微笑んだ。笑えた。
やっと、伝わっただろうか。
オレがずっと覚えてる。そう伝わったなら、オレたちはいつまでも友達でいられるから。
なんて、終わらせられるわけがない。
「……いつか、」
「……?」
「力が回復したら。真っ先にオレのところに来い」
「…え?」
「今は、力がなくて自分を保ってられないんだろ?だったら…いつか、力が戻ったらまたお前は自分でいられるんだろ!それまで絶対オレが覚えてる…から、ぜったい…」
戻って来い。
そう、気付いたら言っていた。
確証も何もない。
けれどこのままさよならは嫌だった。
何か、そういえば、いつかまた会える日が来るって希望に出来るから。
「オレも…力が戻る方法を絶対探す…!いや、封じられた悪霊を倒す方法を…!だからそれまで安心して眠ってろ!」
「………うん」
小さな、けれどはっきりとその透き通った声はオレの耳に響いた。
あれから暫くの時が経った。
オレは大学には行かず、神社の神主さんを訪ね、頼んで頼んで、見習いとして神社に住み込みで働くことになった。
不思議な力が満ちた神社で、いつか悪霊を倒せるくらい力をつけるために。
「おーいショウ!」
「………」
「無視かよ。ってショウ…似合わね…」
「五月蠅いワタル。お前は一体何しに来たんだ」
「何しにって…お参りだよ」
そういってワタルはすたすたオレの横を通り過ぎていく。
「お前がまさか神職につくなんて…思っても見なかった」
「…オレもだ」
「あははっそういえばさ、俺思い出したんだよ」
手を合わせていたワタルがにんまり…どこかいたずら小僧っぽい笑顔を浮かべている。
「ここで、誰かと遊んでた。なんとなくだけど、あの子は人間なんかじゃなくってもっと神聖な…精霊とか、神様とか、そういうものだったんだって」
「…ワタル…」
「関係してるんだろ。お前がこんな一生懸命何かに頑張る時がこようとは…俺泣いちゃう」
「…ほっとけ。お前はオレの母ちゃんか」
「水臭いじゃねえか!俺にも言ってくれれば良いのに!」
「…邪念だらけのお前には無理だ」
「ひでー」
オレたちは笑いあった。
卒業してからなんとなく会ってなかったけど、あの頃と同じで何も変わらなかった。
「たまに俺も来るよ。お前がちゃんとやってるか。それに、俺もあの子にもっかい会いたい。…それに実は俺んちのじーちゃんとばーちゃんち寺なんだ。だから…」
「…お前それ違う」
「え!?違うの!?」
「………バカだろ」
いつか、涼珂が戻ってきたら驚くだろうな。
こんな、バカが増えてて。
そう考えると、これからにも楽しみが出来て。
オレはきらきらと眩しい空を見上げる。
透き通った淡く優しい空はあいつと同じ髪の色をしてた。




