第49話 フクロウの森
ろぼみの平和な日常は戻り、強硬ビルにも穏やかな空気が漂っていました。
ろぼみは家に帰ると同時に、強硬ビルへの立ち入りも解禁になった。
今日はマーガレットと静香の収録のお供として強硬ビルを訪れていた。
二人が収録している間、ろぼみは例によって一人でぶらりとオペレーションルームへ足を運ぶ。
前にここへ来た時は「邪魔をするな」と軽くあしらわれたものだが、
英雄視される身となった今では、電話応対中の者も待機中の者も、
彼女の姿を見ると嬉しそうに会釈を返してくる。
オペレーションルームの隣の配送センターでは、今日もサクサクと発注書が作成されていた。
「やあ、みなさん、こんにちはなのです」
「あら、ろぼみちゃん久しぶり。またここに来れるようになってよかったね」
「うん、みんなは相変わらずなのかななのです」
「ろぼみちゃんのために、貴重なお得情報を全国から集めているよ」
最近ではオペレーター全員が雑談を交えながら電話応対しているようで、
その雑談の中で追加情報が集まるらしい。
「それって油を売りながら仕事してるってことでしょ?
ばれたら旦那様にあたいがまた怒られるなのです。
だからやり過ぎないようにみんなには言っておいてなのです」
ろぼみは集まったお得情報を見てみることにした。
そのほとんどは取るに足らない情報ばかりだったが──
イルカ町のフクロウの森
不思議スポットとして最近有名になっている。出るのか出ないのか──
「イルカ町のフクロウの森……あたいは行ってみたい?」
ふと、そんな気持ちが芽生えた。
しかしすぐに時計を見て、
「そろそろ戻らないと……じゃあまたなのです」
ろぼみは第1スタジオへと踵を返した。
◆第1スタジオ
第1スタジオでは午前の収録が終わろうとしていた。
「よっし、休憩にしよう!」
ディレクターの掛け声とほぼ同時に──
「お弁当でーす」
弁当屋の男は、美咲がいる収録現場ではしばらく様子を見ることにしていたが、
今日は美咲たち三姉妹はいない。
すぐに帰ろうとしたが、ふとテーブルの上のチラシに目が止まった。
「ディレクターさん、これは?」
「ん?次回の『美咲が行く』の撮影予定地だよ」
「イルカ町のフクロウの森、ここは確か……収録日はいつ頃?」
「来月だよ」
「そうか、まだ時間があるな……(これは美咲ちゃんに知らせておいた方が良さそうだ)」
◆ファミレスにて
その日の夕方、美咲たちがファミレスに集合していたところへ弁当屋が現れた。
「やあ、みなさん」
「こんにちは」
弁当屋は店内を見まわし、作家先生がいないのを確認すると──
「美咲ちゃん、今日、聞いた話なんだけれど……」
そう言ってテーブルの上に地図を置いた。
「これは?」
「次回の『美咲が行く』の収録予定地だそうだ」
「ふーん、イルカ町のフクロウの森か……」
「収録は来月だという話だから、一度下見しておいた方がいい」
「ええ?まさか出るとか……そういうのじゃないよね?」
「うーん、怪しいことは確かだ」
「イルカ町のフクロウの森にはあたいも行ってみたいなのです?」
「何それ?あたしは怖いのは苦手なんだけれど……」
メアリは地図を眺めながら言った。
「ここなら電車とバスで近くまで行けそうだね。
美咲ちゃん、ヘレンさんに連れて行ってもらおうよ。私、頼んでみる」
美咲の意志とは裏腹に、美咲一行は行くことになりそうであった。
◆イルカ町へ
そしてその週末、美咲たちはイルカ町を訪れた。
駅前には小さな商店街と、それに連なるように民家がちらほらと並んでいる。
バスで30分ほど進むと、鬱蒼と木々が生い茂る場所に着いた。
「ここからは歩いて移動だね」
森に差し掛かろうとした空き地に来たところで、
日中には珍しく一羽のフクロウが飛んできて一行の前を塞いだ。
フクロウは紺の姿を見ると、森の長老のような落ち着いた声で話し始めた。
「ワタシはふくろうのぽろすけと申します。
有名なみなさんがこのような辺鄙な場所に何用でございますか?」
「わざわざ出迎え感謝する。この森に少しばかりの用があって訪れたわけなのじゃ」
「それならばワタシが森の中をご案内いたしましょう」
ぽろすけの案内で森の中へ進むと、やがて洞窟が見えてきた。
洞窟の入口からは、かすかに青白い光が漏れている。
「あ、洞窟なのです。入ってみたいなのです」
ろぼみが身を乗り出すと──
「あの洞窟は最近様子がおかしいとみんなが噂しています。
中に入るのはやめておいた方がいいでしょう」
ぽろすけはろぼみを諫めた。
(助かった……)
大勢連れて来ているとはいえ、怖い思いはしたくない美咲だった。
一行は立ち止まり、ヘレンはサーチマンを起動。
おりずはミエールくんで周辺を撮影し始めた。
「こ、これは!」
ヘレンとおりずは顔を見合わせ、洞窟内部の状況を悟った。
宇宙ボタルの大規模な群れだった。
「至急、本部に報告しましょう」
「わかりました。ですが、この規模は……」
自分たちでは処理できないと言いかけたおりず。
「どうしよう……また大変なことになりそうだね……」
美咲は不安げに呟いた。
◆翌日・強硬ビル社長室
翌日、ヘレンは強硬ビルの社長室に急ぎ出向いた。
「君の方から出向いて来るとは珍しい。いったい何事だ?」
「お兄様、これを見てください」
「こ、これは!随分規模が大きいな。
イルカ町のフクロウの森……ここは前に調査した時は何の兆候もなかったはずだが……
穏健派の探査能力は流石だと言わざるを得んな」
「それが今回の情報元は例のお弁当屋さんなんです」
「ほう、弁当屋が……ところで、これをどうする気だ?」
「この規模は穏健派の手には負えません。ですから強硬派にお願いしたいのです」
「了解した。我々が駆除しよう」
「ですがその……穏健派も何かお手伝いを……」
「この規模の群れを発見できただけでもお手柄だと言いたいところだが、
それならば駆除は強硬派で行い、穏健派には事後処理と調査でどうだろうか」
「異存ありませんわ」
「良かった。マーガレットには私から話しておく」
こうして、強硬派が駆除を、穏健派が事後処理を行うことが決まった。
共通の脅威を前に、強硬派と穏健派は互いに歩み寄りました。




