プロローグ
AIを使ってぼちぼち更新。やりたい放題でやっていきたいと思います。
午後六時。 地下鉄の人ごみの中でいつもと変わらない帰宅の途についていた。
中小企業の経理部係長、やることは多いがプレッシャーは少ない。
そこそこの給料で経済的には不自由は感じていなかった。
そんな宮本孝治はどこにでもいる普通の男であり、本人もそう思っていた。
電車が到着し乗客の降車を待っていると足元の感覚がふっと消え、次の瞬間、世界は音も影も奪われていた。
境界も奥行きもなく、区別すら曖昧な、白の世界。
瞬きをすると、その白はわずかに揺れ、まるで生き物のように呼吸している気配を帯びた。
冷たくもなく、温かくもない。ただ「在る」だけの空間。
白の中に、黒く線が浮かび上がる。
ゆっくりと形を変え、漢字やアルファベット、アラビア語、知らない文字となって浮かんだ。
まるで「これならわかるでしょう」とばかりに日本語が目の前に移動してきた。
『世界は分断され、均されます。
それは試練であり平和への道しるべでもあります。
次に太陽が真東から上るとき、我々によって所属を分けます。』
読み上げるように黒い線が文字へと変わっていく。
『あなたには “運命入力(Fate Enter)”の権能が与えます。
来る日に備えてください。』
文字がぼやけていき景色が戻ってくる、体はまだ動かないが感覚が戻ってきた。
「きゃっ」後ろから軽く当たられる。「すみませんでした」
反射的に「いえ、大丈夫です」。さっきまで“白の世界”にいた感覚が頭の裏側に張り付いている。
周囲の乗客は、いつも通りスマホを見たり、無表情で立っていたりする。 誰も異変に気づいていない。 ――いや、本当にあれは“異変”だったのか?
電車が動き出すと同時に、胸の奥で何かが「カチリ」と音を立てた気がした。
(運命入力……?)
意味はわからない。だが、頭のどこかに“機能”のようなものが芽生えた感覚がある。 言葉にできないが、確かに“何かを操作できる”直感だけが残っていた。
次の駅に着いたとき、車内アナウンスが妙に遅れて聞こえた。 音が伸び、空気が歪む。
「……え?」
視界の端に、薄いウィンドウのようなものが浮かんだ。
【Fate Enter:入力待機中】 【対象:任意】 【効果:運命の一部を書き換える】
息を呑んだ。
(……本当に、権能?......ラノベかよ)
試しに、ぶつかってきた女性を“対象”として意識すると、ウィンドウが微かに反応した。
【対象:20代女性/疲労度:高】 【入力欄:______】
(いやいやいや、これは……)
混乱しながらも、指先が勝手に動くような衝動が走る。
“この人が今日だけ少し幸運になる”
そう思った瞬間、入力欄に文字が浮かび上がった。
【入力:本日限定で小さな幸運が訪れる】 【実行しますか? Y/N】
宮本は震える指で、そっと“Y”を選んだ。
次の瞬間、女性のスマホが震えた。
「……え? 当選? ライブいけるやん……!」
驚きと喜びの声。 周囲の乗客がちらりと視線を向ける。
背筋が冷たくなるのを感じた。
(本当に……書き換わった?)
そして、また体の感覚がなくなった。再び白の世界へきてしまったのだ。乗車客だけで来たのか、俺も隣のサラリーマンも座ったままだ。
『世界は分断され、均されます。 次に太陽が真東から上るとき、所属が分けられます。そして、来る日に加護を与えます。』
今回は表記こそ多言語だったがすでに文字としてあり読み終わるとすぐに現実に戻った。
ざわめく車内で高校生達が話しているのが聞こえてくる。
「さっきのお前も見た?白いところで文字浮かんどったやつ」
「俺も今聞こうと思っとってん、一瞬集団転移とか思ったけど。実際、世界は分断とか物騒やな」
「物騒やけど、テンション上がらへん?太陽が真東って春分やん、明後日やん、所属とか加護とか気になるやん」
「わからんでもないけど、当日までなんもわからんやん」
車内のざわめきは、まるで水面に落ちた小石の波紋のように広がっていった。
誰もが“見た”のだ。あの白い世界を。そして、あの文字を。
(俺だけじゃなかった……?)
胸の奥がざわつく。
自分だけが狂ったのではないという安堵と、世界のほうが狂い始めているという恐怖が同時に押し寄せてくる。
高校生たちの会話はさらに続いた。
「てかさ、所属ってなんやろ。国とか宗教とか、そういうんじゃないよな」
「加護ってゲームかよ。スキルとかもらえるんかな」
「いや、でもマジで見たよな?白いとこで文字がさ……」
彼らの言葉は、心臓をじわじわと締めつけた。
(所属……加護……そして“運命入力”)
視界の端に、再び薄いウィンドウがちらつく。
【Fate Enter:入力待機中】
【対象:任意】
【効果:運命の一部を書き換える】
(考えただけでこれ出てくるのか……)
向かいの席のサラリーマンに意識を向ける。
ウィンドウが反応し、淡い光が揺れた。
【対象:30代男性/ストレス:極高】
【入力欄:______】
(やめておこう……これは、軽々しく使って何か代償あっても困る)
さっきの女性のように“幸運”ならまだいい。
だが、もし悪意を持ってしまったら?
あるいは、善意のつもりが取り返しのつかない結果を生む可能性だってある。
(いろいろわかるまでは封印しよう)
電車が最寄り駅に近づくにつれ、ウィンドウは薄れていき、やがて完全に消えた。
改札を抜け、地上に出ると、夕暮れの空が妙に赤く見えた。
街のざわめきはいつも通りなのに、どこか“違う世界”に足を踏み入れたような感覚がつきまとう。
(太陽が真東から昇るとき……春分の日……明後日か)




