第六十一話トカゲって尻尾切った後割と死ぬらしい
捕虜の傭兵団を尋問した結果、やはり有力な情報は無かった。
特に雇い主に関しては、その存在自体を知らされずに命令されていたということだった。
もっと落ち着ける場所なら8人個別で尋問して、嘘を吐いていないか確認する所だがそれができるような人も場所も無い。
「大体の事柄は聞いた、後はどうする?コイツ等、そんな長いこと連れ回せるような準備無いだろ?」
ロミへ質問すると、悩むように顎に手を当てて考え始める。
「とりあえず、一番近い集落まで連れて行こう、その後についてはこの辺りの領主に任せよう」
ひとまず命の危機が去ったことで傭兵達がホッとする。
だが……全団員で100名を越える大所帯だ、多分この辺りで物資の為に略奪行為をしている可能性が高い。
そんな奴等の一部が無力されて引き渡されるのだ、よくて縛り首、悪ければその集落の人間に私刑されるだろう。――もしくは両方か――
「あのー……それなんですが、やめておいた方がよろしいかと」
尋問中ずっと黙っていたネリーが手を挙げる。
全員の視線がそちらを向く。
「ここの領主様……へスレ家の方々は完全な第3王女派です、このまま順当に第1王女が王位を継げばフェルセブスミー、港湾都市の権益はそのままですが……不利な第3王女に王位を継がせることができれば港湾都市の権益を奪えると考えているようです」
宿場町でネリーから聞いた話と併せて考える、王位継承についてのゴタゴタを思えば白髪のお姫様の情報をどこかの派閥へ教えることになりかねない。
「そこまで知っているのか……確かにそうだ、うーむ……どうすべきか……」
ロミが唸りながら考える。
空は藍色から黒に染まり始めており、そろそろ完全に日が落ちて暗闇となる、考えるのはまた明日にするべきか――
そう考え、ロミへ声をかけようとした時。
「アルファ、あれは傭兵団の生き残りか?」
レミが鋭い視線を傭兵達の死体のある方向へ向けていた。
その言葉で即座にAK-47の安全装置を単射にして、レミの視線の先を確認する。
コチラから見れば緩やかな坂道、その頂点部分からフラフラと何人かの人が歩いて来ている。
生きていた者を見逃した可能性は十分考えられるが……
その歩き方が奇妙だった、虚ろな真っ青の顔でこちらを見ているが両腕をダランと垂らしたまま、足を引き摺るように歩いている。
そして……そんな異様な奴等が続々と丘の向こうからやって来る。
10人はいるが、その全てが虚ろな青い顔をしており生気を感じさせなかった。
「おいおいおい、なんかヘンだぞ!止まれ!お前等!」
異様な雰囲気に銃を構えながら止まるように叫ぶ。
俺の声に反応したのか、丘の上にいる奴等が一斉にこちらを向く。
「あああああっ――!!」
突然叫んだと思ったら突然走り出してこちらへ向かって来る。
即座に射撃する、それと同時にレミが剣を抜いて俺の横で立っていた。
放たれた弾丸が走る傭兵達へ当たるが――
「あああああ――!!」
当たった衝撃で転ける者はいたが、どいつも弾丸が効いていないかのように駆けてくる。
なんだ!?これじゃまるで――
「死霊術か!?アルファ!頭を狙え!死ななくても目と耳が無くなればこちらを認識できん!」
ロミが叫ぶ、頭が弱点なのは異世界でも同じか……死ぬわけではないようだが。
もう50メートルを切ろうかという距離まで来ているゾンビの頭を撃つ。
7.62x39mm弾が頭に命中すると、弾丸が一気に頭蓋骨内で踊り、内圧を上げて頭が砕ける。
流石そんな状態になれば動かなくなるらしく、倒せるが……
「アルファ!アタシが頭を斬り飛ばす!撃つなよ!」
俺がフラフラと動く頭部への射撃に苦戦しているのを見て、レミが飛び出す。
「キエエエエエッ――!」
すぐ様3体の首が飛ぶ。
これなら大丈夫か、と思った瞬間、丘の上から更に大量のゾンビが走ってきた。
クソが!
レミの剣が届かない範囲のゾンビの頭を狙う。
「馬車を出せ!逃げるぞ!」
ロミが逃走を決断するが、ゾンビの動きが変わる。
殆ど全てのゾンビがレミへ纏わりつく、近付いてくる奴等をぶった斬っているのでレミは大丈夫みたいだが……
丘の向こうから、新手が来た。
その新手達はどいつも大きく太ったように膨れ上がっており、ゾンビの中でも一際異形だった。
太ったよう、と評したのは胴体だけがパンパンに膨らんでおり、それ以外の四肢が折れてしまいそうなど細い為だ。
「あああああ――!」
先程までと明らかに動きが違う、頭を大きく左右に振りながら走ってくる。
頭を狙わせないように動いてやがるのか!?
だが、冷静に動く頭部を狙い引き金を引く。
FPSに於いて、ヘッドショットなんてのは基本の技術なんだよ!
一番近い太ゾンビの頭を吹き飛ばす。
それと同時に――
ボンッと凄まじい音と共に太ゾンビが爆発して白煙を上げる。
「うおっ!?爆発!?」
コイツ等もしかして自爆するのか!
拙い!煙で敵が見えない!
太ゾンビが飛び出してくる――ヤバ!死――
ドドドと飛び出してきた太ゾンビ達は俺を無視して駆けていく。
――なんで?
「団長!ネリー!捕虜から離れて!コイツ等の狙いは――」
ルミが殆ど悲鳴のように叫ぶ。
振り返ると、太ゾンビ達が鎖で縛られ動けない捕虜の傭兵達へ飛びかかった。
コイツ等――
ボンッボンッボンッと何度も爆発が発生してモクモクと白煙と土煙が舞い上がる。
風が吹き、煙が晴れると、捕虜達がいた場所に小さなクレーターができており、生きている者はいなかった。
「あああ……」
レミを取り囲んでいた他のゾンビ達が突然力を失って倒れる。
先程まで響いていた戦いの音は完全に消え、太陽が完全にその姿を地平線の向こうへ落とし……
暗闇に静寂だけが残った。
「口封じ……か」
力無く呆然と呟く……
俺が呆然自失状態で立っていると、レミがやって来た。
「アルファ、気持ちは分かるが、先ずは移動しよう……新手が来ないとも限らない」
「あぁ……そうだな、ロミ達と合流しよう」
レミの冷静な声に応えて、皆が集まっている馬車へ向かう。
「まさか、こんなことが……」
ロミが呟くが流石にショックだったのか、俺を含めて全員顔色が悪い。
ネリーだけはニコニコ顔を崩さないが、その顔色は青かった。
「兎にも角にも移動しよう、このままココにいるのは拙い」
ロミとルミが馬車の御者台へ登り、俺はネリーが連れていたアシヌスへ跨り、ネリーも馬へ乗る。
そして暗闇の中、月明かりを頼りに駆け出す。
どこまで行けばいいのかは、多分全員が分からなかった。




