35 番外編 ベアトリクスの趣味嗜好と実益が一致した件(2)
エティエンヌは、意気揚々とモランルーセル王宮の広い庭園にベアトリクスと俺達を案内した。
そこには四季折々の花々が咲き誇り、真ん中に小さな池があった。
その池の上にせりだした、丸いテラスがあり、そこに食事の用意がされていた。
席に着くと、次々に料理が運ばれてくるのだが、運んでくる侍女達は皆モランルーセルの民族衣裳を着飾った見目麗しい美女ばかり。
エティエンヌが自慢気に彼女達を紹介していく。
「どうです。我が国の美女は? ベアトリクス嬢の美女図鑑に記載されるべき美女でしょう?」
ああ、なるほど!
この国に美女が多いと知れば、ベアトリクスが永住を決めるのではないかと、淡い期待をしているんだな・・。
俺はベアトリクスの反応が見る。
「確かに、容姿は大変よろしいです・・」
どうも、ベアトリクスの顔が固い。
いつもは、「美女美女」と煩いのに、全く無反応なのだ。
「エティエンヌ殿下・・あなたは美しい女性という者の真髄を分かっていない」
ベアトリクスの発言に俺は驚き、要らぬ一言を言ってしまう。
「え? 皆美しい女性ばかりじゃないか? 何が不服なのだ?」
「アレクシス殿下は、異国情緒溢れる女性が好みなのですか?」
俺が言い終わると同時に、被せるようにルーナが問うてきた。
目が笑っていない微笑みで・・・。
余計な言葉を言ってしまったと後悔。
俺の警報が鳴り響いている。
ピー!! ピー!!
危険!! 危険!!
「おお俺のいい意見じゃないぞ!! せ、せ世間一般的認識で言ったまでだ。分かっていると思うが、俺が一番美しいと思っているのは・・その・・ルーナだ。いや、俺が女として見ているのはルーナだけだ」
「ほんと?」
「ああ、俺はルーナしか見えていない」
ここでイチャイチャタイムが開始。
なんて、ベアトリクスがいてそんなことになるわけがない。
ベアトリクスがすぐに俺のルーナを我が物顔で抱き上げ、エティエンヌに自慢気に見せつける。
「あなたがここに集めている女性は、腹黒い野心を抱いている者ばかりだ。それに比べ、私のルーナ様の神々しい美しさと澄み渡る冬の空気の如く清々しい清らかな心。これぞまさに『美麗!!』」
歌い上げるようにルーナの美しさを語るベアトリクスに、思わず共感してしまった。
「うんうん。確かに・・確かにルーナの美しさを言葉で語ればそのようになる。言い得て妙とはこのことだな」
ルーナの存在を表現する言葉を俺自身も語りたいと、考え込んでいたら着飾った女が俺にすり寄ってきた。
「アレクシス殿下、どうぞ」
そう言いながら、飲み物をグラスに注ぎながらも分かりやすくボディタッチ。
「まあ、それなら私も!」
急に女達が浅ましく俺とエティエンヌにすり寄り、しなだれ掛かる。
聖女の冷気が!!
これはダメだ!!
俺が女達を払い除けようとするより早く、エティエンヌが女達を制した。
「皆のもの下がれ。我が客人に対し無礼な行いは許さぬ!」
その声があまりにも張り詰めていたため、女達の撤退は素早かった。
その後、本来の給仕係の侍女達により、滞りなく食事は進んだのだが、ベアトリクスをこの国に残ってもらおうと、見栄えの良い女性を集めたエティエンヌの思惑は失敗に終わった。
しかも、見た目重視で内面まで見抜けなかった事で、ベアトリクスに人を見る目がない烙印を押されてしまったのではと落ち込んでいる。
そこは、口だし出来なかった。なにせ、俺も人を見る目を言える立場ではないからな・・。
数日後、俺はルーナを連れてモランルーセル王国の南西にあるサニール山に来た。
とは言っても高々標高約270メートルの低い山だ。
この山に来た理由は、ルーナが好きな星形の小花の群生地があるのだ。
このサニール山の頂上付近の土壌が特殊なために、ここにだけ咲いている。
それを知った俺はルーナに秘密で、ハイキングに誘った。
二人っきり(護衛はいる)で、最高の雰囲気の中ルーナの喜ぶ姿を堪能したい。
だから、俺達のスケジュールをベアトリクスには秘密にしていた。だが、彼女は些細なルーナの変化も見逃さなかった。
俺達がハイキングコース入り口に到着すると、「遅かったわね」と微笑んでいたのだ。
「なんで、バレた?」
俺の絞り出した声に、「ああ、ルーナ様の匂いの変化に気付いたから、何かあるって見張ってたのよ」と言ってのける。
鼻が利くとは言うが、勘だけではなく、本当に匂いを嗅ぎ分けたのだ。
ルーナには少し無理を言って、ベアトリクスには内緒で行こうとお願いをしていたのだ。
優しいルーナは、内緒にしておく事に抵抗があったようなんだ。
そして、ベアトリクスを前にした時に罪悪感で体温が上がり、そこでルーナの匂いが強く香った・・というのが真相である。
「私を出し抜こうなんて思わないことね」
・・・ああ、そうだな。変態に勝とうなんて思わない方がいいみたいだ。
それで、いつもどおり、俺、女神、変態、エティエンヌの4人でハイキングをすることになった。
顔ぶれはまあ、・・あれだが道中楽しかった。そして、頂上に到達し、星形の小花の群生地に着いた時のルーナの驚きと笑顔!
最高に可愛いいじゃないか!
「まあ・・こんなにも沢山のお花なんて・・!アレクありがとうございます!」
目を見開き一面の花畑の光景に見入るルーナの表情で、俺はここに来て良かったと心から思った。
ベアトリクスも珍しく花を摘んで、女性らしい事をしていたので忠告した。
「その花は食用にはならんぞ」
「私も女性だ。部屋にこの花を飾る為に摘んでいるの。ルーナ様が好きと言う花を飾りながら眠れば、美少女達の夢を堪能出来るはず・・ふふふ、良いアイテムを手にしたわ」
そうだ・・。これとまともに話しをすると、頭痛が酷くなるのを忘れてたな。
うっかりだ。
ベアトリクスの話を聞いたはずの、エティエンヌが「それは是非私にもお手伝いさせて下さい」と一緒に並んで花を摘む。
とまあ、こんな感じでハイキングは終わり、宿への道を歩いていたら、『殺気』を感じた。
俺とベアトリクスとエティエンヌが急に立ち止まったので、ルーナが不安そうにしている。
「ルーナ大丈夫だ。人数は多いが、俺達の敵ではない」
ヒュンッ
矢が飛んで来たが、剣で払い落とせる。
ダメだと思ったのか、20人ほどの黒い服の男達が飛び出し向かってきた。
予想通り、敵は弱かった。
武装しているとは言い難いほどの装備。
俺は、エティエンヌに戦いながらも提案する。
「エティエンヌ殿下、この者達は全て生け捕りにしたい」
「はい、そうですね。私も暗殺者ではないと確信しているので、そうします」
「おい、ベアトリクス嬢も聞いているか?」
ベアトリクスにも釘を刺した。
俺の指図が気に障ったのか、「チッ」と返事の代わりに舌打ちを返した。
その戦闘最中、1本の矢がベアトリクスに向けられた。
だが、対応が遅れたベアトリクスの頭に矢が迫り、あわや! というところで、エティエンヌが矢を叩き落とす。
「ベアトリクス嬢、大丈夫ですか? あなたへの危険は全て取り除きます!」
力強くベアトリクスの前に立つエティエンヌは、いつもの優しいだけの王子ではなかった。
おお、これは!!
命の危機を救ってくれた美しい王子を前にして、恋に落ちるパターン!!
「助けて頂き感謝する。しかも今の言葉、私グッときましたわ。ありがとうございます。エティエンヌ殿下」
ベアトリクスが、目をキラキラさせてエティエンヌに礼を言う。
これは、もうフォーリンLOVEか?
誰しもそう思う流れで、ベアトリクスが、なぜか俺が守っているルーナの近くに凄い形相で走ってきて・・。
そして、告げた。
「ルーナ様! あなたへ迫る危険はこのベアトリクスが全て取り除きます! ご安心下さい!」
エティエンヌの言葉を丸ぱくりしやがった!!
しかも、それ、ここに居る全員が、前のエティエンヌの言葉だと知っているのに、平然と言ってのける当たり、やはり大物。
しかも、ルーナを近くにしたベアトリクスの強いこと。俺の存在が霞んじゃう・・。
入学当初、俺より断然強かったベアトリクスに、俺のプライドが潰された当時を思い出した。
ルーナに『私、強い人が好きなの』と言われ、ベアトリクスに寝取られる最悪の夢まで見たんだぞ。
あれから、俺は毎日鍛練を欠かさずした結果、今では俺の方が強くなった。努力と愛の勝利。
それで、俺とベアトリクスが張り合ったので、襲ってきた連中をあっという間にのしていき、解決した。
全て生け捕り。
弱いこの者達がボロボロの剣で俺達を襲ってきた理由は、すぐに自白したので分かった。
以前バデウースが仕出かした、飲み水に腐澱魔草を混入した事件があったが、それよりもずっと前に、あいつはまず、モランルーセル王国から遠い村でその実験を行ったのだ。
何も知らない村人は腐澱魔草の投げ込まれた井戸水を飲み、多くの者が今も後遺症と戦いながら懸命に生活をしている。
しかし、遠く離れた小さな村では、バデウースが犯人だと伝えられず、いつの間にか事件の犯人は、エティエンヌに変わって伝えられていた。
しかも、地方の役人がいる所まで出向いて、病人の薬すらない惨状を訴えても、その役人が動かず放置されたままになっていた。
だが、そんな時に憎いエティエンヌ王子が呑気にハイキングに来るという情報を聞き付け、一矢報おうと村人で襲ったのだった。
縄で縛られた村人を前に、エティエンヌは、頭を下げる。
「あの事件からもう1年以上たった今も、行政からの支援もなく苦しんでいたなんて・・本当に悪かった」
素直に謝罪する王子の姿に、20人は戸惑う。
俺が補足説明をしてやるか、と口出す前にベアトリクスが吠えた!!
「あなた達は間違っている。あの事件を起こしたのはこのエティエンヌ王子ではない! 王子の兄であるバデウースが犯した事であって、怒りをぶつける相手を間違えている。苦しいのは、分かるわ。だが、確かめもせず、この国を守るために命を掛けて我が国に助けを求めてきた人を殺そうとしたのだ。それはおまえ達の状況を見にも来なかった地方役人と同じではないのか?」
ベアトリクスの言葉に項垂れる20人に向かって更に、話す。
「しかしだ、決死の覚悟で私達を襲ったのは、残った村人を救う最後の手段だったのだろう? 現に私に向けられた矢も当たれば少々怪我をする程度の矢じりにしてあった。おまえ達の覚悟は私に伝わったわ。安心しろ、私の聖女であるルーナ様が村人を浄化し、救ってくれるであろう」
いつの間にか、ルーナを抱き上げて、触れ伏す村人に崇められていたベアトリクスだった。




