15 笑うプリエステス
背後霊の一件から一週間ほど、俺は身を謹んで過ごした。
起床、塔での狩り、魔石の売却、就寝。規則正しい生活である。受付嬢が変わらずに接してくれていることは、精神的に救われた心地がする。
【久視】のスキルも慣れた。早い動きをじっと見つめると効果がより強くなるーーゆっくり見えるーーこともわかった。戦闘のときには役に立つスキルだ。メガネがないとスキルが発現しないので、予備も買った。服を買い足したりもしたので、それほど貯金は溜まっていない。
やっとプリエステスが帰ってきた。魔石の売却が終わってエクレシアに戻る途中でバッタリとあった。あとで聞くと、プリエステスは俺を驚かそうと企んでいたようだが、心の用意もなく突然出会ってしまったので、逆に驚いてしまったらしい。群衆の中で生じる孤独を味わった俺は、やっと俺の味方ができたという思いで、心の中は泣きそうであった。もちろん態度には出さないが。
「久しぶりだな。プリエステス」
「え、それだけですか? 会いたかったとか、寂しかったとか、ありませんか?」
「なにを言ってるんだか。俺はいつでも俺だよ」
言ったあとに、ごまかすのが下手な自分を発見した。
「そうですよね。プリンスはプリンスですもんね」
俺は声をひそめる。
「ここは往来だ。プリンスは死んだことになってるし、俺も名前を変えたんだ」
「あっ、そうですよね。すいません、つい。部屋に戻ってお話ししましょう」
そうプリエステスは言うが、顔がニヤついている。なにか考えてるな。
エクレシアの俺の部屋に入って、プリエステスから報告を受ける。
「王もプリンセスもとても喜んでいました。ハイエリクサーについても、よく使ったと王よりお褒めの言葉をいただきました。もー、ほっとしました。お金は大金貨で300枚いただいて来ました。辺境のトリアルだったら、二人で一生贅沢に遊んで暮らせます!」
「300枚かー。それはよくやった。えらいぞ、プリエステス!」
近頃盛り上がることがなかったから、つい、お金の額で盛り上がってしまった。でも、うれしい。お金なくて、なんだかつらかったからな。
「それから、プリンスの剣とナイフと探索者用衣服一式も一緒に持って来ています。重いので馬車に置いてありますが、明日届きます。私も装備一式いただいちゃいました」
俺はうんうんとうなづく。
「俺からも二つ、話があるんだ。一つは、『真理』からスキルを得た。【久視】というもので、ゆっくりものが見える効果がある。もう一つは探索者の登録をしたんだ」
プリエステスはニヤリとした。
「スキルの取得、おめでとうございます。よかったですね」
「探索者の登録をするとき、名前はどうされましたか?」
「うむ。名前を教えるので、プリエステスの名前も教えてくれ」
プリエステスはさらにニヤリとした。どうしてそんなにニヤニヤしている?
「名前の当てっこをしませんか? 私が当てたら、私の欲しいものをご褒美にください」
なるほど、そうきたか。当てられるわけがないが、久しぶりに会って、きっと会話を楽しみたいのだろう。わかる……俺も会話を楽しみたい……寂しかったんだ……
「いいだろう、それでは新しい俺の名前を当ててみろ」
プリエステスは、笑いを堪えながら、
「いいんですか? ……名前は……リンス……でしょう?」
なんで、わかるんだ? まさか、協会の受付嬢から聞いたのか? 二人は友人だった?
人と人とのつながりはわからない……