第十四章 星に願いを、神に怒りを
ゴブリンの目を見事欺いて薄闇の部屋を突破した俺は、そそくさと服を身にまといながら、辿り着いた新たな部屋の様子を見ていた。
「何だかずいぶん、雰囲気が変わったとでもいいますか……」
今までいかにも城っぽい感じな石造りの空間が続いていたというのに、ここはまるで洞窟の中でひっそりと湧く癒しの泉じゃないか。
「いかにもイベントがありそうな感じだな」
これを見て連想するのはそう、イベント。こんな素敵な空間には、何かしらの強化イベントが用意されているものなのだ。
例えばそう、魔王クージャを打ち倒すための最強武器のが手に入る……だとか。
「もしかしたら、マジでそんな話になるかも」
これはもう、調べ回るより他はない。早速、探索開始だ!
「本当、きれいな空間だよなあ」
静かに湧き出る泉の水は澄んでいて、見ているだけで魔王城に入ってからずっとすさみっぱなしの俺の心を癒してくれる。その周囲には青々とした草花まで生えていて、これで蝶でも飛んでいれば楽園そのものといった感じだ。
泉の奥には、洞窟のような空間にはふさわしくない、ゴテゴテとした装飾が施され、物々しい雰囲気を放つ扉がある。
「錠前がついてるな。やっぱり、鍵がかかってるみたいだ」
今はまだその先に何があるのかを把握することは叶わないようだ。
でも、これは多分、魔王が控えている間に続く扉なのではないだろうか。
何だか、それっぽい雰囲気を醸し出しているようだし。いかにも「この先、魔王戦」って感じがしまくっている。
「それにしても、すごいところだよなあ」
ふと目線を上の方に向けてみると、そこには何故か星が瞬く夜空が。闇の中に宝石が散りばめられたかのようにキラキラと光っていて、何とも美しい。
この部屋には天井が存在していないのか。それとも、これは魔王が来訪者を油断させるために見せている幻影なのか。俺にはとても判断がつかない。
「おっ」
ぼんやりと空を見上げながら探索を続けていると、足元に何かがコツンと当たった。
おそるおそる確認すると、そこには古びた石版の欠片らしきものが転がっていた。
「何だこれ。何か書いてあるぞ」
この字は、魔王の弱点を記した石碑に書いてあった奴によく似ている。もしかして、同じ奴が書いたのか?
「……てことはまた、即死トラップが? ひいっ!」
警戒してすぐさま飛びのいた俺だったが、罠が発動するだとかいう事態が巻き起こる気配は全くもってなかった。
どうやらこれは、単純にそこらに転がっていたものにすぎないらしい。
「でも、これだけじゃ何が書いてあるのかわからねえな。もしかして、そこらを調べたらまだあるんじゃ」
そう直感した俺は、片っ端からそこらの地面を這いずるようにして徹底的に調べ回った。
すると、まあ石版の欠片が出るわ出るわ。
「すげえ量だな。でも、くっつけたらどうにか読めそうだな」
ただ、並のジグソーパズルよりも遥かにおぞましい難易度を誇る代物のような気がするけどな。
「でも、これにはさぞかし素晴らしい情報が……」
きっとこれは、魔王が砕いて処分しようとした石版か何かなのだろう。これを復元すれば、きっと重要な情報が転がり込んでくるはず。そう、例えば……最強の武器のこととか。
「さっきから最強の武器のことしか考えてねえな、俺。でも、これが本心なんだから仕方ねえよな」
仮にも勇者なのだから、一刻も早く強くなりたい。本心というか、もはや願望なんだよな。
……何せ、魔法を手に入れてもまともに戦えないくらい弱いし。せめて武器くらい欲しいんだよなあ。
「よっし、いっちょやるか!」
これを復元したところで何を得られるのかはさっぱりわからない。武器に関する情報が入るという保証も、全くもってない。
でも、目の前にあるからには興味というものが湧いちゃうんだよなあ。
俺は指をパキポキ鳴らしてから、一人パズル大会を始めたのだった。
数時間の死闘の末、俺はとうとう魔王に砕かれたと思われる石版の復元に成功した。
「はあ……はあ……で、出来たぜ」
その石版には、どうにか読める古びた文字でこう刻まれていた。
『星の光をまといし剣は、いかなるものもたやすく切り裂く。星の欠片に祈りを込めて、剣にはめ込むべし。凍てつく泉にその刃を浸し、星の瞬きを受け止めさせよ。さすれば、闇を払う剣が蘇る』
俺の勘、死の予感以外で久々にビンゴ!
「これ、絶対伝説の剣の作り方じゃねえか。うわ、すっげえ。意味わかんない文章だけど、間違いなくすげえな」
星っていうのは、多分ここから見える空に瞬いている奴のだろう。欠片ってのがよくわからないが、流れ星が降ってくるのでも待てってことなのか?
いやいやいや。いくらこの城が理不尽まみれだったとしても、それはないよな。
「凍てつく泉っていうのは……あの泉のことだろうな。きっとクージャの奴、これを潰そうとしても聖なる力で守られているだとかでどうにもできなかったんだな。だから、自分の監視下において……うん、その線が濃厚だ」
そうでもないと、この泉が魔王城の中に存在していることの理由づけができない。ましてや、自身の弱点を記した石碑を即死トラップとして使った魔王だ。そうまでしてこじつけないと、俺の中では納得できない。
「とにかく、星の欠片とやらをはめ込んだ剣をこの泉に浸せばいいわけだな。そんなアイテムあったかなあ」
魔王の間の直前に泉が存在していることから判断するに、今までの旅路の中に星の欠片とやらがあったはずだ。しかし今のところ、手元にあるのはキマイラ退治の時に何の役にも立たなかった剣のみ。星の欠片などという、素敵なお名前の代物は持ち合わせていなかったはずだ。
「でも、見落としていたって可能性もあるしな」
今までさんざんやらかしてきたせいで、どれほど時間を損してきたことか。
俺は早速、道具袋をぶちまけて中身を確認し始めた。
「まあ、色々ごちゃごちゃと」
まずは、何の役にも立たない本が多数。一回読んで不必要な情報しかなかったことが証明済みだから、再び開いてみようという気にはなれない。
次に、剣の他にも手に入れていた、うまく使いこなせない武器達。これが果たして、日の目を見る日があるのだろうか。
あとは、台所からやけになって持ち出した物品の数々。この中で役に立ってるのは、魔界の塩だけだ。
「うーん」
この後もしばらく道具の吟味を続けたが、星の欠片らしきものは一向に見つからない。やっぱり、どこかで探し損ねてしまったのだろうか……。
「んっ」
あきらめかけていたその時、道具袋からポロッと何かがこぼれ出てきた。
それは、いつぞやに拾った使用用途が一切不明な玉だった。
「これは、確か魔王愛用のグラビア本があった部屋で見つけた……んん?」
あの時は「うえっ。きったねえ玉だなあ」程度の感想しか抱かなかったのだが、よくよく観察してみるとちょっぴり光っているように見える。
おもむろに玉を手に取り、服の端でこすってみる。すると、汚れていた表面が段々と輝きを取り戻した。
「これは……」
まさしく、上空遥か彼方に光り輝く星の光に等しい輝き。そうか、そうだったんだ。これこそが、星の欠片なんだ。
「くうーっ! あやうく見落とすところだったぜ。でも、これで最強の武器が手に入る。そして、もう少しで俺の冒険も」
最強の武器を手に入れれば、あの扉を強引に破って先に進むことも可能だろう。でもって、最強の武器を使って魔王を倒せば一件落着。でもって、最強の武器のお陰で世界は平和に……って、これじゃあ俺が頑張ってるんじゃなくて、最強の武器が世界を救った感じになっちゃうような。
まあ、いいんだ。その最強の武器を蘇らせるのは勇者であるこの俺なのだから。すごいのは、武器じゃない。ここまで本当の意味で死に物狂いに頑張ってきた俺なんだ!
「よし、そろそろ最強の武器とやらを拝ませていただくとするか」
早速、重くてうまく扱えない剣を取り出して星の欠片をはめ込もうと試みる。
しかし、ここで重大な問題にぶち当たった。
「えーっと。あれ?」
ない。星の欠片をはめ込む場所が、俺が持ってる剣のどこにも存在していない。
これじゃあ、石版に刻まれた方法を実行できないじゃないか。
「おかしいな。あれ? ええっ? あれあれあれ?」
ここで最強の武器を華麗に入手して、魔王戦に直行という流れのはずなのだから絶対にどうにかできるはずなのだが。しかし、どこをどうやっても剣に星の欠片をはめ込むことができない。
いやいやいや、おかしいって。次が最終決戦であるというこの状況において、この展開は確実にありえないって。
「こうなったら……」
俺は剣と星の欠片を手に持つと、泉に向かってその二つを強引にぶち込んだ。
この二つを組み合わせていないにしても、一緒に投げ込めば結果はきっと同じなんだ。ほら、何か食べ物を二つ食べたとしても、腹の中に入れば一つになるしさ。
……今の例えはちょっとずれてるような気もするけど、まあいいか。こういう時こそポジティブシンキングってことで。
「さ、祈ろう祈ろう!」
ん? 祈るタイミングって泉に投げ込んだ後だったっけ。まあいいか。順番が違っても、結果が一緒なら問題はないだろう。やっぱり、こういう時はポジティブシンキングだな。
「さあ、星の瞬きよ。泉に降り注げ!」
さあさあさあさあ! 空で瞬く星達よ、この俺の思いを受け止めてくれ!
これだけポジティブシンキングをしてるんだから、気持ちくらい汲み取ってくれ!
「……あれ?」
それからしばらく熱心に祈り続けた俺だったが、どれだけ時間が経っても何かが起こる気配は全くもって起きない。
「ありゃあ?」
確かに、ちょいとばかし手順は間違ってたかもしれない。でも、何の反応がないっていうのはちょっと。
「いや、来いよ。星の瞬き。早いとこ降り注いで、最強の武器に宿ってくれよ」
そもそも、次が最後の扉なんだからここでイベントが起こるのがセオリーってもんだよな。ここで何も起こらなかったら、俺はどうやって魔王に挑めばいいんだよ。
「やっぱり、やり方が悪かったかな」
いくらポジティブシンキングで気張ってみたところで、所詮不正解は不正解か。仕方がない。どうにかして剣に星の欠片をはめ込む場所を作って投げ込み直すとするか。
がっかりした俺は、溜め息をつきながら泉に向かって手を伸ばした。その時。
「ひっ!」
何だ、この水。つ、つ、冷たっ……。
「うおあっ!」
あまりの水の冷たさに、俺は驚いてそのまま泉に向かって足を滑らせてしまった。
凍てつく寒さが身体を包み込み、すっかり自由が効かなくなる。こ、このままじゃ……。
「がぼっ……ごぼごぼ」
そういえば、この泉の名前って『凍てつく泉』とかいうんだっけ。ああなるほど。水温が、凍てつくぐらい低いからそういう名前なんだね。
そんなどうでもいいことに納得しながら、俺は推定水深五十センチメートルの泉に顔を突っ込んだまま、まもなくしてその水温と同じくらいの冷たさになった。
「うう、あんな浅い泉で溺れるとか情けねえ」
城の前に強制送還された俺は、ガタガタ震えながら呟いた。
別に、まだ寒いってわけじゃないんだが、何となくあの水温の感覚が肌に残っている気がする。あの冷たさは、はっきり言って異常だぞ。
「でも、さっきのは俺のやり方が悪かったに違いないんだ。もう一度、ちゃんとやり直せば……」
例えるなら、今は物語でいう終盤って奴だと思われる。そう、さらに言うならば最終回の一個手前、みたいな……って、何か俺、今回は例え話ばっかりしてるような。
ま、それはさておき。ここで頑張ればきっと報われるはずなんだ。さっきの自爆だって、なかったことになるに違いないんだ!
「よーし、早速……」
そう意気込んで、魔王城に向かって足を進めようとした。だが。
「タカシ、ちょっと待て」
「ん?」
人のやる気を絶妙に削いでくれる、例の自称神の声が響いてきた。
心なしか、今回は呆れ気味のトーンでしゃべっているように聞こえる。まあ、いつもそうと言えばそうなのだが。
「何だよ。人がせっかく最終局面を迎えようって時に」
「あのさあ、何が最終局面だって? 自滅王子君」
「変なあだ名をつけんなよ! ほら、これから最強の武器を手に入れて、魔王をぶっ倒すんだよ。そうしたら、俺の冒険も終わるってわけで」
「だから、何でそこまで物語が急展開する感じになっちゃってるわけ? 私、君の発想がいまいち理解できないんですけども」
「はあ?」
大丈夫か、この神は。俺が頑張ってる間に、ボケちまったんじゃねえのか。
「だって、意味ありげな泉が湧いてる部屋に辿り着いて、その奥には魔王が控える間に続く扉。ほら、どう考えても最終局面を迎える展開じゃねえか。それくらい、ガキでもわかることだろうよ」
「うーん。タカシ君は、重大な勘違いをしているようだねえ。ここは一つ、神様としてガツーンと言ってやらねばならないようだ」
空のどこからか、湿っぽい嘆息が漏れ出してくる。その次に飛び出してきたのは、思わず耳を疑うような一言だった。
「タカシよ、お前の冒険はまだ終わらないぞ。だって、あの扉の先には魔王クージャはいないから」
「……は?」
ソレ、ドウイウイミデスカー?
何か今、脳内でショートが起きて心の声が片言になっちまったんだけど。
い、いやそれより。魔王がいないってどういうことだ。全くもってわけがわからない。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て。あ、あの扉の先にいないだと? う、嘘だろ!」
あんな「こだわりにこだわり抜いて作りました」的な装飾の扉の先に魔王が待ちかまえていないとか、考えられねえんだけど。いや、むしろそうでないとおかしいって。もうエンディングまで直行ルートって感じだったじゃねえか!
……ん? また何か変なことを考えちまったような。まあいっか。
そうこう悩んでいるうちに、空からふたたび自称神の嘆息がこぼれる。また、人の神経を逆なでする言い回しで攻め倒す気なんだろうな。
まあいい。それに関しては段々と慣れてきたし。さあ来い! 神の嫌味スペシャル!
「あのー。前々から思ってたんだけど、タカシって思い込みが残念な方向に強いよね。そもそもさ、魔王が趣味の悪い扉の先に待ちかまえてるとか、何が出典の情報なわけ? あのさ、解説するとだね。あそこでは確かにイベントは起こるんだけれども、まだ早いの。ぶっちゃけたことを言うと、城をもっと探索してからじゃないと最強の武器は手に入らないの。あの扉を破ってだね、先に進んでからじゃないとイベントは起きないわけ。そんなことも知らないでえんえんと四苦八苦した挙句に溺れ死ぬって……ああもう、口に出すだけで残念だよ」
「あ、あの扉。破れるのかよ」
あれには錠前もついてたし、物々しい雰囲気も兼ね備えていやがった。それを、鍵もなしに破れっていうのかよ。嘘だろう?
「しかも、まだ完全にアイテムがそろってない状態で強引に最強の武器を生み出そうとするとか考えられないんだけれども。本当、お前ってアホなの? それとも、アホを通り越して天才の領域に足突っ込んじゃった? そのどちらだったとしても、私はお前を理解できない。本当に全く、さっぱりわからない。お前の心情を理解するよりも、逆立ちしながら牛乳飲み干す方がうんと簡単だから。実行はしないけどね」
「はあ?」
何か一気にまくし立てられたが、かろうじてこれだけはわかる。このおっさんは、めっちゃ俺のことを馬鹿にしやがった。これは絶対に許さねえ!
「おい、さっきからろくな説明もなしに馬鹿にしやがって。偉そうに言いやがるけどさ、解説が雑なんだよ。俺は鍵なんて持ってねえし、星の欠片とか剣は既に手に入れてた。そんな条件がそろってるっていうのに、アホ呼ばわりするなよ。そんなに言うなら、俺が納得できるような解説を今すぐここでしてみろよ。一から十まで、きっちり説明してみろよ。ほら、いくらでも聞いてやる。ほら、ほら、ほら!」
「あーあ。そうやってすぐにキレるんだから。戦いも魔法もいまいちのくせに、口とキレ芸だけは達者なんだから嫌になっちゃうよ。じゃあね、まずは持っている道具についてお話しましょうね」
「そうやって、赤ん坊をあやすみたいな口調で言われたら余計ムカつくからやめろ」
「はいはい。じゃあ……コホン。あのさ、お前が持ってる剣って、そこらの武器庫から適当にパクった安い剣だよねえ? そんな安物の剣に、星の瞬きが宿ると本気で考えたのかなあ」
「う」
い、言われてみればそうかも。
俺の心に、グサリと何かが突き刺さった。
「次に、星の欠片のことだけども。あの床に転がっていた汚い玉が星の欠片だと気づいたまでは、正直鋭いなって不覚にも思った。でも、祈りを込めるのくだりがすっ飛んでんじゃん。しかも、あの石版に書いてあった祈りっていうのはいわゆる例えって奴だから。まあ、かわいそうなタカシ君に答えをこっそり教えてしまうとだねえ、これから『女神の祈り』っていうアイテムを探し出さなきゃいけないわけよ。そして、それと星の欠片を組み合わせないといけないってわけよ。でもって、それをこのダークキャッスル城のどこかに眠る、星の光を失った剣にはめ込んで、さっきの泉に放り込めば完成。それなのに、まだ何の条件もそろってない状態で……うう、こんなアホの極みの勇者は嫌だ。涙なしでは見られない超大作の映画よりも、ものすんごく泣けてくる」
「何気に毒舌が過ぎるぞ! 俺を勇者としてここに呼びつけたのはてめえだってことを忘れんなよ!」
「はいはい、そうだったね。で、じゃあ道具についてはもういいね。次は、もっとガミガミ言わせていただきたい扉の方だけれども」
心に刺さる何かの量が増えつつある俺に対し、神はまたもや嘆息を浴びせる。
そして、一呼吸置いてから再びまくし立て始めた。
「だいぶ序盤の方にさ、錠前の破り方教えなかったっけ? それを覚えていればさあ、あっさり先に進むこともできたんじゃないの?」
「……」
え、ま、まさか。それって、アレのことですか。
心から、ピキッという音が聞こえた気がする。だが、ここでくじけるわけにはいかない。
もしかしてと思いつつ、俺は口を開く。
「あ、あのさ。ひょっとして、あの錠前に塩水かけてぶち破れって言ってるのか?」
以前、城の入口からそう遠くないところにあった青い扉を、塩水を駆使して開けたことがあった。
いや、だからって。あの扉と今回巡り合ったすっごい感じの扉じゃ風格というものが。あれが塩水如きでどうにかなるとは……ええっ?
「ピンポーン。大正解だよ! 扉は大きかろうが小さかろうが、はたまた派手だろうが地味だろうが扉に違いなからね。それについてる錠前にも、たいした差はないってわけだね。それをすっかり忘れて、見た目に騙されてこの先に魔王が……って、単純というかねえ。ずーっと一部始終をこっそり見させていただいていたけれども、悲しいといいますか、滑稽といいますか。あーあ、これだからタカシは凡人の粋を……」
ブチっ。ブチブチっ。ブチブチブチっ。
あれ? 何かいつぞやにも聞いた音がどこからか響いてきたような。でもって、全身に怒りという怒りが沸々と込み上げてくる。
「この、神野郎……」
うん、これは耐えられないな。このままだったら、俺はストレスで憤死するな。
あれをやってみても奴に通用するかどうかはわからないが、少なくともこれを実行すれば気が晴れるに違いない。よし、やってやる。やってやるからな!
「一部始終を見てたんだったら、それ見て笑ってないで正しい道に俺を導けよ! 食らえ……ライトニング!」
辺りに轟く激しい雷撃音。そして、「おおおっ! タ、タカシ。何をするのだっ」という神のひっくり返った間の抜けた声。
あわてふためく姿こそ拝めなかったものの、ほんのちょっぴり胸がスッとした。




