第69話 風変わりな人間たち
シャムりんが先に行ったあと、チャウ丸はヤメーメで売却する分のガラクタをスーツケースに入れ、おれたちは犬小屋へ向かった。
にしても、さっきのメンツはなかなかのインパクトだったな。
そのことを伝えるとチャウ丸が言った。
「みんな変わりもんさ。レトリばっちゃんはカラオケ好きで歌ってばっかだし、ブル仲本はアイドルの追っかけをやってるアニオタってところかな」
カラオケ好きにアニオタかぁ。
こっちもヤメーメの民に劣らず、個性派ぞろいって感じだな。
「さっきはいなかったがビーグル先輩はスポーツマニアで、プードル博士はやたら虫に詳しい変態だ。ヒマさえあれば虫の標本ばかり作ってるからな」
「みんな人間の文化に詳しいんだね」
イヌがふつうに暮らしてて、アイドルを好きになる場面ってあるのか。
「たぶん飼い主の影響だろうな。ビーグル先輩はスポーツバーにも出入りしてるとか言ってたし、飼い主に連れて行ってもらってんじゃないの? ほれ、これはビーグル先輩からもらったトレーディングカードだ」
アメフトの選手が、道頓堀のグ○コサインみたいなポーズを決めている。
「おれもこれくらいマッチョになりてえなあ」と遠い目をするチャウ丸。
ふーん、みんな愚痴を言いながらも、人間とうまいことやってんだなあ。
「イヌではないけど、ミケ姫子って子もいるよね?」
そこでチャウ丸がシュンと黙り込んだ。
「どうした?」
そのあと、チャウ丸が真剣な顔をつくって驚くべき発言。
「あれはおいらの未来の嫁さんさ」
「えっ、そうなのっ?」
「まあ、まだ気持ちを伝えちゃおらんがな」
おお、荒野のガキ大将のチャウ丸に、こんなウブな一面があるなんて――。
ここにも、猫に心がなびくイヌがいたわ。
そうか、そうか――。
チャウ丸に好きな相手がいたんだね。
だったらおれも応援してあげないとね。
◆◇◆◇◆◇
路地裏を歩いているとき「よお、メシいるか?」と声をかけられた。
もちろん相手は人間だ。
げっ、このパターンはマズくないか?
ただ見ると、チャウ丸は作務衣を着た男に近づき、なんと干し肉をもらっているではないか。
男が去ったあとに、おれは言った。
「ずいぶん顔が広いね」
「べつにふつうさ。まあ、人間とはうまくやっといたほうが、なにかと得だからな」
チャウ丸はそう言って干し肉をわけてくれたので、ありがたくいただく。
おお、うっま! さすが地球メシ!
さらに路地を歩いているあいだも、何度か人間から声をかけられた。
「さっきの太っちょはコンビニの店長で、チョビひげは副船長さ」
「副船長?」
「船乗りだったらしいんだが、腰を痛めてからはヨットスクールで働いてる」
「よく知ってるね」
「みんなおしゃべりだからな。人間ってのは、動物相手だといろいろ話してくれるもんさ」
たしかに村山家の彼らも、おれにはバンバン愚痴ってくるからな。
しかもジーコにいたっては、恋の悩み相談ときたもんだ。
にしても、チャウ丸の顔の広さは想像以上かもね。
世渡り上手なところも、路上生活で身につけたのだろう。
そんな器用なことはできないおれは、ジーコと似た者同士ってとこか。
チャウ丸はこう続ける。
「でも人間もいろいろと大変みたいだな。低賃金で好きでもない仕事をやらされたり、店に客が来なくて売上が立たないと未来に怯えたり。彼らはヘラヘラ笑ってるけど、あんがいストレスを溜め込んでいるのさ。そんな話ばかり聞いてると、こっちの世界で人間でいるのは、ほとんど地獄としか思えないな」
自ら不安を生み出せるのは人間だけだっていうし、人間でいることも必ずしも良いことばかりじゃないのかもね。
だったら地球においては、このままイヌでいたほうがお気楽なのかな。
コンビニの店長の店とヨットスクールは近くの商店街にあるらしく、店長は賞味期限切れの商品を平気な顔で販売し、ヨットスクールはかなりのスパルタでちょっとした事件を起こしたこともあるんだとか。
なんじゃそりゃ?
どんな理由であれ、暴力はアカンですぞ。
とかなんとか、おれもあっちの世界では魔物相手にエネルギー弾放ってるけどさ。
まああれは、やらなきゃやられる正当防衛だもんな。
むしろ自然の摂理ってところか。
おれは安穏な環境で飼い犬をやってきたけど、サバンナじゃ動物同士の殺り合いなんて茶飯事だし。
「けっこう変な人多いんだね」
「人間は誰しも多少は変態で、なんとか理性で抑えてるだけなんだよ」とチャウ丸。
ふーん······じっさい、そうなんですか?
まあ、いききった天才科学者も、言ってみれば変態みたいなところあるもんね。
猛毒の研究にのめりこむあまり、自分を実験台にしてぶっ倒れる学者とかさ。
なんにせよ、ふつうの人は日々忙しくて、イヌに声をかける余裕もなさそうだな。
村山家のパパはたしか自営で配管の仕事をしてるみたいだが、ほとんど受注がないから家で寝てばっかだ。
そんなパパの姿にうんざりしたママは、商店街のスーパーでレジ打ちのバイト。
でも最近は、セルフレジの普及で仕事が奪われるんじゃないかとソワソワしているらしい。
そんな両親をそばで見ているジーコは、自分もバイトしようかと迷うことはあっても、いかんせん腰の重い性格だから、スマホで求人見るよりラノベサイトをひらいて時間を潰すってわけだな。
まあジーコがハンバーガー屋でバイトしたとて、あの鈍臭さならパンにスリッパ挟んですぐに解雇されるのがオチだろうけど。
犬小屋に着いてまったりしてると、シャムりんが塀の上を歩いてやって来た。
ちょうどそのタイミングで、村山ファミリーが家から出てきた。
「なんだ、あのノラ猫は?」とボサボサ髪のパパ。
シャムりんは「ふん」といった調子で尻尾を立てる。
「首輪をしてるから飼い主はいるんじゃないの? カバンなんてくわえて、かわいいじゃない」とにこやかなママ。
「なんか盗みそうだから、追い返してよ」と臆病な声を出すジーコ。
「だったら自分でやるんだな。動物にやさしくしないと痛い目にあうぞ」とパパ。
そのまま村山ファミリーは出かけて行った。
そしてシャムりんがピョンと塀からジャンプして敷地の中へ。
「口に生クリームついてるよ?」
「誕生日パーティーにも顔を出してきたから」
「おいらは誕生日なんてものはないけどな」とチャウ丸。
そういやおれも、誕生日がいつなのかはわからないな。
「あたしは15月キラキラ日よ」と、よくわからないことを言うシャムりんは、おれに顔を向ける。
「あなたのパパ、いいヤツじゃない」
正確にはおれのパパではないが「まあね」と答える。
ろくに仕事はしないが、おれにはわりと親切だもんな。
腰をフリフリしながら犬小屋に入るシャムりん。
「ひさびさ帰ると、こっちもいいものね」
「でもやっぱ向こうで冒険してお宝を探すほうがたのしいな」
チャウ丸が言うように、こっちのぬるま湯の暮らしよりは、あっちのほうが刺激的なのはたしかだ。
ということで、タンニシ王国で買ったジーコへのお土産のカードケースを置いとくことにした。
ジーコよ、人生はつまらんかもしれんが、元気だせよ!
よく見ると、シャムりんはバッチリ化粧をしている。
そうか、イヌはともかく猫は化粧をするもんな。
ん? そうだっけ?
ま、いいや。
さてと、そろそろあっちに戻りますか。
失踪した七人娘や、残り三つの神具のことも気になるし、明日から気合いを入れてマガハラ大陸の探索を再開しないとな。
今夜はぐっすり眠って、また大好きな人間様の姿に戻るぜ。
そしておれたちは真っ暗闇の中でスヤスヤひと眠り。
目覚めたら、犬小屋からマガハラ大陸にあるヤメーメの宿へ向かったのだった。




