第44話 タタロオ、ロッキン砲を初披露
目の前には複数の魔物が立ちはだかっている。
大きな脚の先には、ぶっとい鉤爪。
その顔といったら、頭からトマトソースをかぶってきたばかりみたいに真っ赤でドロドロだ。
キッショ······
っんもう、なんでアナタらはそんなに攻め込んでくるのかな?
あたしゃ、平和をこよなく愛するイヌですよ。
ほら「戌の日」に母子の健康を祈って「帯祝い」もしますよね?
妊婦さんは穏やかなイヌのことが大好きなんですよ(たぶん)。
と魔物に言っても暖簾に腕押しか。
じろりと向ける落ち窪んだ目が、なんとも薄気味わるいぜ。
「アイツはヘルシボブというBランクの魔物で、毒を撒き散らすぞ」
「ほお、よく存じとる。そのメカすごいのぉ」とキング。
「えへへ、拾いもんです。タタロオも拾ったヤツで試してみなよ」
ああ、そういえばさっきおれもガラケーを拾ったな。
ということで操作してみるもよくわからず。
どうも充電が切れてるみたいだ。
おれが弱り果てていると、キングが手を伸ばした。
「どれどれ」
そしてキングはおれのガラケーを手にとって目を閉じた。
その刹那、ボワンと淡い光がガラケーから浮かび上がった。
「獣魔気でいけるみたいじゃの」
おおっ、キング様は獣魔気をお持ちなのですね!
チャウ丸のスマホのものとは少し違うが、たしかに画面にいくつかのアイコンが表示されている。
そう理解できるのも、スマホ大好きジーコの知識によるものだろう。
「で、どのアプリだっけ?」
チャウ丸が万年筆っぽいイラストのアプリを示し、さっそくポチッ。
そして画面を敵に向けてみた。
すると――
ぼわん。
【ブレキンリリ Aランク
尾を振ることで空気中に麻痺の毒粉を撒く】
おおっ!
たしかに敵の情報が浮かび上がったではないか。
ギリリと不気味に歯を打ち鳴らすその獣は、タンニシに多く生息する魔物らしい。
ただAランクはヤバいな。
聞いた話では、訓練された騎士20人でやっと仕留めれるかどうかのレベルみたいだからな。
顔は以前、ジーコが図鑑で見た世界一ブサイクな動物として知られる深海魚のニュウドウカジカを思わせる。
先端が二股に分かれた強靭そうな尾が恐怖をかきたてる。
もちろんだが、このガラケーでジリジリと近づく数体の魔物を攻撃できるわけではない。
鋭い歯を並べた魔物の眼が、鈍色の光をギラリと放つ。
ど、どうする――。
そこでチャウ丸が風呂敷から何かを取り出した。
金の延べ棒? なんでまた?
と思うや、チャウ丸は急接近してきた超ブサイクな魔物をすばやくかわし、金の延べ棒を振り下げた。
次の瞬間、黄金の光が放射状に伸び、敵の胴体をばさりと切り裂いた。
ブシュッとまき散る魔物の体液。
すっげぇ······。
「やはりな。これにも魔力が宿ってると踏んでたんだよ」とドヤ顔のチャウ丸。
またしても能力を上げたってことかよ。
たぶん聴神様の施しによるものなんだろう。
まさか金の延べ棒にも魔力が宿るなんて、やっぱあの半神半木のじいさん、ただ者ではなかったみたいだな。
「タタロオもがんば! ここで男見せないとモテないわよ」
だよね、今こそ勇気凛々のときだもんね。
一寸の虫にも五分の魂じゃないが、おれにだって意地はあるぜ。
となればおれも――
常備していた棒切れを振り下ろして、持ち技を逆から叫んだ。
「ウッポサマンカコッ!!」
その一撃で、ブレキンリリが甲高い声を上げ、よろめきながら倒れた。
「ギュェェェェ!」
よっしゃ! やったぜ!
そこでキングが言った。
「マジックボックスのスティックを使えば、もっと効果的じゃぞ」
ほう、そういうものなんですね。
チャウ丸から受け取り、おれはその棒を掲げて別の魔物へ向かって振り叫んだ。
すると、青白い光がほとばしり、これまで聞いたことのない炸裂音と共に、ヘルシボブの脚に命中し、赤い液体がバッと飛び散った。
すっげ······あきらかに威力が増してる······
おれは調子に乗って、スティックで技を連射。
「ウッポサマンカコッ、ウッポサマンカコッ、ウッポサマンカコッ」
「当てずっぽうじゃいかん、集中して狙いを定めなさい」とキング。
「そういやタタロオも新技が身に付いてなかったっけ?」
ピンク色の閃光を放ちながら戦うシャムりんが、こっちに顔を向けて言った。
ああ、えーっと······
〝ロッキン砲〟だったっけ?
でもどうやって用いるのやら、さっぱりわからん。
「〈ロッキン砲〉は嗅覚エネルギーをふんだんに含んだ嗅魔術じゃ。おぬしはイヌじゃろう。イヌらしくあれば解き放てようの」
あれ? キングはすでに技のことをご存知だったのですか?
もしかすると特殊な能力で読み取っていたのかもしれない。
イヌらしく······
そこでチャウ丸が言った。
「じゃあ、あれじゃねえか。イヌと言やあ、尻尾だろ」
「股関節も柔らかいって聞くわ。あとあたしたちの一部もそうだけど、狼爪があるよね」
「狼だった頃の名残りとも言われる親指な。さあ、タタロオ、それらをまとめてゴーだ!」
いやいやいや、わからんよ。
尻尾······股関節······そして狼爪······。
やけっぱちな気分で、その三つの箇所をおれなりに意識してみる。
「あとイヌは人間みたいに発汗がうまくできず、口の呼吸で体温調整をするよな」
「いわゆる喘ぎ呼吸ね、聞いたことあるわ」
えーっと、三つの箇所を意識する + 呼吸
はあ、はあ、はあ、はあ······
(あの魔物、なんて動きが速いんだ)
「集中して耳を澄ませ鼻を利かせよ。持ち前の動体視力を活かせよ。これは逆側からでなくそのまま名を唱え、エネルギーが飽和したら発動じゃ。聴覚を勃たせるのじゃ」
はあ、はあ、はあ、はあ······
(聴覚をたたせる······?)
「もっとたたせよ」
はあ、はあ、はあ······
すると下腹部あたりがムズムズしてきて、モワッと熱が全身に広がり始めた。
はあ、はあ、はあ······
大量の唾液が口の中を満たす。
鼻から水を吸い込んでしまったときみたいなツンとしたものを感じた。
「タタロオ、今だ!」
ちょうど目の前に、眼光鋭いブレキンリリが牙を剥き出しで迫ってきている。
敵の殺気に本能的に反応し、おれは棒を振り渾身の力で叫んだ。
「ロッキン砲ぅ!」
そのとき、直径五センチほどの球体をとらえた。
同時に放たれた強烈な閃光が、ブレキンリリの頭部の端を削るように炸裂して爆ぜた。
「······ゥ······ウォンッ!!」
3メートルほど離れた場所で、ドサッと前のめりに倒れたブレキンリリは身悶えしている。
やった!
「お見事じゃ」
「タタロオ、鼻血出てるぞ」
チャウ丸から言われ確認――うっ、調子に乗り過ぎたか?
鼻血なんてヒトの姿になってはじめてだ。
たしか人間って、エロいことを考えたら鼻から血が出るんだよね?
おれは純粋潔白、戦闘オンリーだぜ!
これも通過儀礼というか、記念すべき吉事ってことにしとこう(服屋のリンキンさんから借りていた手ぬぐいでゴシゴシ)。
よくわからんが〝ロッキン砲〟はバズーカ級の破壊力じゃなかったか。
もっと磨いていったら、かなり強い持ち技になってくれるはずだ。
なおも迫る魔物たちに対し、チャウ丸とシャムりんは攻撃の手をゆるめることはない。
おれも使い慣れた〝コカン魔殺砲〟で応戦。
光線が命中し、ズサーと滑っていく魔物たち。
どうやらコカン魔殺砲も以前より発動効果が変化しているみたいだ。
前は光線を目でとらえることができなかったもんな。
神経伝達は秒速50メートルほどというが、体内の神経を意識することで、それに比例するように発動速度が上がってる感じがする。
あたりは倒れ伏せた魔物、魔物、魔物。
すでに十体くらいは屠っただろう。
ただ、おれの本能が、この先にいるであろう三桁ほどの敵の気配を捉えた。
もしやこれはステータスで見た「探知能力」というやつか。
じっさい、後ろからは魔物が迫ってきている。
ドドドドドドッ!
「ヴヴゥゥゥッ」と唸りながら跳びかかってきた魔物をギリギリでかわしたところで、キングが何かを放った。
そこで魔物たちは「ヴィヒィィ」とうめき声をあげ、喧嘩に負けた犬みたいな慌てっぷりで逃げていった。
ん? キングは何をやったんだ?
まあ、敵が去って行ったんだから、いっか。
チャウ丸は仕留めた魔物をドラッグ機能で手早くマジックボックスに回収。
「行きましょうぞ」
しばらく進むと、ふわりと舞い降りるものが見えた。
「雪?」
いや、それらはもっといびつで、けしからんものに見えますな。
「タンニシのパラシュート部隊じゃの。やつらは行軍で有名じゃ」
えっ、軍隊すか?
「助けに来てくれたのかしら?」
「その逆ってこともあろうの」
エッ、そうなんですか?
軍を敵に回したところで、良いことなんて一つもないですよね。
んもうっ、こんなの逃げ切れんのかよ。
とほほ······あたしゃ、人間の姿になってはじめて犬小屋に帰りたくなったよ。




