第43話 地底で戦闘祭り
「あれって、魔物だよな」とチャウ丸。
そうだね、観光客の老人団体には見えないよね。
右側にいるヤツなんて、涎垂らしながら尖った歯を剥き出しにして、めちゃんこ凶暴そうだし。
変な虫の次は魔物なんて、弱り目に祟り目じゃんかよ。
「あんなにいたら、あたしたちムリなんじゃない?」
シャムりんの意見におれも一票。
だって鋭い爪と牙をもつ四足歩行の野蛮そうな獣が、ざっと10体はいるもんね。
たぶんこういうのって、どんなに注意深く扱っても必ず指に付く瞬間接着剤みたいに、避けられないんだろうな。
て、ジーコは瞬間接着剤にそんな心苦しいイメージがあるんだな。
あれ? キング様は何処へ······
こんな大事なときに、まさかおれたち、はぐれちゃった系?
「グルルルゥゥゥ!」
いかにも獰猛そうな低い威嚇声が、空気とおれの肝をぶるりと震わせる。
たぶんサバンナの肉食動物の種を全部足してアップグレードしたら、あんな感じになるんじゃないか。
イヌだったおれは、とてもサバンナじゃやってけないことはーーはい、認めるよ。
無意識ながら、じりじりと後ずさりする。
おれ、落ち着け、落ち着け。
とそこで、チャウ丸が風呂敷をあさりだした。
そしてスマホを取り出し、なにやらポチポチ。
おいおい、魔物が取り囲むこんな地獄絵図で、フォロワーからコメントメッセージでも届いたか。
するとチャウ丸は、そのスマホを敵に向けたではないか。
そして驚くべき次の言葉。
「ヤツらはマラダイスボアという魔物で、ランクはCだから見かけほどたいしたことはないぞ」
?? なんでそんなことわかるの??
まさか――
そこでチャウ丸がおれたちに画面を見せる。
そこにはたしかに魔物の情報が表示されてある。
「どうやらこのスマホ、魔物を鑑定できるみたいだな」
おー、マジすか!
「どうやったの?」
「アプリって言うの? よくわからんが、コレを押せばいけるみたい」
そこにはターコイズブルーの色が混ざったアイコン。
それは万年筆のイラストに「小」という文字に見えなくもない。
そのアプリを開けば鑑定できるってこと?
だとしたら、とんでもねえな。
もちろんどこかのベンチャー企業が魔物鑑定のためのアプリを開発したとは思えないから、こっちの世界に来たことで魔波か何かの影響で変異しているのだろう。
「ということで、やっちまいますか」
そう言うや、チャウ丸はサッと両手に銃を構え、発射。
バンバンバンバンッ!
「アガァァ!!」
「ゴビャァ!!」
地面でのたうち回る魔物たち。
チャウ丸、もしや以前よりも犬銃の威力が増してる?
続いてシャムりんもヒラリと回転して叫ぶ。
「セクシーバタフライX!」
次の瞬間、あたりを満たした光がマラダイスボアを取り囲み、数体が宙高く吹っ飛んだ。
すっげぇ······
シャムりんは、さらにセクシーになってないか。
しかもその滑らかな動きは、なんだか美少女戦士やプ○キュアに見えなくもなかったぞ。
そんなシャムりんの色気に惹かれるかのように近づいたところを放射発動で吹っ飛ばす。
敵はグァァァとうめき、弧を描きながら宙を舞う。
と、攻撃を逃れた残党のマラダイスボアが、鋭い牙を剥き出しにしておれに向かって突進してきた。
おれは動物的勘でとっさにからだを捻ってかわすも、転倒してしまった。
さらにべつの魔物がおれの頭に喰いつかんばかりに迫ってきた。
そこで激烈な衝撃が全身を走った。
くっ、やられたか!!
いや――
迫って来ていた魔物がピクピクと痙攣している。
どうやらさっきの衝撃は、チャウ丸に跳ね飛ばされたものだったらしい。
すかさずチャウ丸が放った砲撃でとどめを刺し、ビチャッと肉が弾ける。
魔物の尻尾が鍵盤ハーモニカのホースみたいにひしゃげている。
「タタロオ、だいじょうぶか?」
寸前のところでチャウ丸に助けてもらったようだ。
手を持ってもらい、なんとか立ち上がる。
さっきのはほんとに危なかったな。
恩人のチャウ丸様には、もう足を向けて寝られんよ。
てか、転んだときにつき指したっぽい。
人間のつき指、めっちゃ痛いんだけど。
チャウ丸は“いっちょあがり”とばかりに、すみやかにマラダイスボアの死骸をマジックボックスに回収。
出発すると、さらに新たな魔物が現れた。
「あれはメリケンブルで、あっちはコカドリーユ、ともにBランクだ。おいらの前にノコノコ姿を現すなんて、飛んで火に入るアホンダラってか」
さすがは鋼の肝っ玉を持つチャウ丸。
二種類の魔物×10ほどを前にしても、ちっとも怯えてないみたいだ。
メリケンブルはだんだら模様をした筋肉質の牛のような姿で、コカドリーユは鶏と大ミミズを足したみたいに見える。
発生源がどいつかわからないが、鼻が曲がりそうなほどひどく生臭い。
腐った牛乳を拭いて放置した雑巾みたいなニオイだと感じたのは、飼い主ジーコの記憶によるものか。
そして敵との距離は十メートルってところだ。
「グリョョワ!」
「ビグァァ!!」
チャウ丸は野太い雄叫びにもひるむことなく、犬銃をバンバンぶっ放し掃討に出た。
ただ相手がすばやいせいか、弾が逸れてるのも目立つ。
しかもスパイスアントもガサガサガサと接近しているのが見える。
「こりゃアカンな、突破するぞ」
こうなってくると、いくら弾丸を放っても、降って湧いたような虫まで一掃するのはムリだ。
そこでパッとあたりは真っ暗に――
だれかがブレーカーを落としたみたいに世界から光が消えた。
「これじゃなにも見えない!」
「耳を澄まそうぞ」
あっ、キング様ぁぁぁ!
ようやくおれたちのことを見つけてくださったんですね!!
「仕留めた魔物を回収したいであろう?」
ただ暗くてそれは不可能だ。
「マジックボックスにはドラッグ機能がある。集中して匂いを嗅ぎ取った分をまとめて収めることができますぞ」
おお、そんな機能がそなわっているのか。
チャウ丸は言われたとおりに取りかかる。
クンクンクンクンクンクンクン――
ここぞとばかりに、イヌだった頃の鼻息が暗闇に響く。
「おっ、たしかにいけたっぽいぞ!」
さすが鼻のいいチャウ丸!
「行きましょうぞ」
ただそのあと聴こえてくるのは、ガサガサガサガサという不気味な音。
スパイスアント、気色わるすぎるぜ!
そこで斜め前方に亀裂が走った。
ドドーッン!
どこからともなく稲妻が落下している。
エグいな、この場所。
さっきまで雲とかなかったじゃないですか。
もはやここは地獄の一丁目だよ。
「こっちよ!」
聴覚のすぐれたシャムりんの声のほうへ向かう。
だがすでにおれたちは離れている。
なんとか気配を読み取ろうとするが、ガサガサも気になって集中できない。
もちろん暗闇で全力疾走なんて、できるはずがない。
そこでおれはポッケから車の発煙筒を取り出した。
ヤメーメで売るつもりで、村山家からくすねてきたものだ。
それを操作したら明るい煙があがり、みんなの姿がようやく見えた。
それでなんとか合流。
まだスパイスアントは追ってきているのか?
とにかく聖火リレーのランナーみたいに、おれが発煙筒をにぎって先頭を走る。
ったく人間の姿になったことで、とんでもない事態に巻き込まれちまったな。
こうなったら人間様の勇ましさとイヌとしてのプライドを駆使して、気合いでしのぐしかないぜ!
そう思ったのもつかの間、前方にさらなる問題がノコノコと現れたのでした。




