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「再生数2の底辺フリーター、SNSが武器になる異能都市で成り上がる」 ―― ヴァルドギア:FUKUOKA LOSTLINK ――  作者: DD22


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19/24

第十九話:借りた注目



 朝の通知は、思ったより少なかった。


> SHARE:1

>

> FOLLOWER:1,007 → 1,008


 大きな波ではない。


 昨日足を止めた一人が、誰か一人に渡した。


 それだけ。


 けれど凪は、その `1` をすぐに閉じられなかった。


 数字の向こうに、片方だけイヤホンを外した顔が見える。


 その顔が、誰かへ曲を送った。


 届いたものが、また届いた。


 スマホに、白い文字が短く浮かぶ。


 普通の通知とも、VALDGEARのログとも違う。


 音もなく、画面の上に直接置かれる、yuiだけの文字。


> @yui_musubi

>

> 渡ったね


「……見とったんか」


 凪はスマホを伏せた。


 嬉しい。


 それは認める。


 でも、その気分は長く続かなかった。


 すぐに別の通知が重なる。


 それは、白い文字ではない。


 yuiの通知ではない、VALDGEAR側の黒いログ。


 UNKNOWN USER。


 FOLLOWER:6,014。


『場を取れ』


 凪は眉を寄せた。


『TENJIN CORE。Nexus Square。今夜』


 続けて、もう一行。


『朝倉帆乃香を連れてこい』


「……は?」


 凪は声を出した。


 昨日は連れてくるなと言った。


 今度は連れてこい。


 意味が分からない。


 ただ、ひとつだけ分かった。


 相手は、凪が一人で歌ったことも、ほのかが来なかったことも知っている。


 見ていた。


 どこかから。


 凪はすぐにほのかへ送った。


> 凪

>

> 知らん奴からまた来た


 返信は早かった。


> ほのか

>

> 何て?


 凪はスクショを送る。


 少し間が空く。


> ほのか

>

> 感じ悪


> 凪

>

> そればっかりやな


> ほのか

>

> だって感じ悪いもん

>

> でも行く


 凪は画面を見つめた。


> 凪

>

> ええんか


> ほのか

>

> 連れてこいって言われてるなら、あたしも当事者じゃん

>

> それに

>

> 場を取るなら、あたしを避けては通れないでしょ


 凪は返事を打てなかった。


 ほのかの言うことは正しい。


 凪は一人で足を止めた。


 一人が誰かへ渡した。


 でも、VALDGEARヴァルドギアで「場」を取るなら、視線を扱うほのかの存在は避けられない。


 ただし、ほのかに場を作ってもらえば、また同じだ。


 借りた注目。


 yuiの言葉が胸に戻る。


 凪は短く返した。


> 凪

>

> 借りへん


> ほのか

>

> 貸さない

>

> でも隣には立つ


 その返事を見て、凪は少しだけ息を吐いた。


---


 夜のNexus Square(ネクサス広場)は、いつもより静かだった。


 いや、音はある。


 広告の残響。


 通行人の足音。


 配信の笑い声。


 けれど、VALDGEARに入った瞬間、そこに薄い膜がかかった。


 凪とほのかは、広場の中央から少し外れた場所に立っていた。


 ほのかはSPARKLEスパークルの姿だった。


 バトルウェア。


 補助装備のついた脚。


 背中の小さな加速ブースター。


 ピンクの髪が光を拾う。


 いつもなら、それだけで視線が流れる。


 でも今夜は違った。


 視線が集まらない。


 観客はいる。


 通行人もいる。


 なのに、誰もほのかを見ていない。


「……変」


 ほのかが小さく言った。


「見られてない?」


「見えてるのに、見てない」


 凪は周囲を見る。


 広場のあちこちに、薄い黒い窓のようなものが浮かんでいた。


 そこに、短い投稿が流れている。


『SPARKLEだ』


『隣の男、昨日のやつ?』


『また二人で来た』


『SPARKLEの相方だっけ』


 凪の喉が詰まる。


 コメントは、凪だけを見ていない。


 まず、ほのかの名前が出る。


 次に、ほのかの隣にいる男として凪が拾われる。


 凪本人の曲でも、昨日止まった一人でもない。


 この広場では、まだSPARKLEの方が先に見られている。


「見られ方は、まだ変わっていないな」


 広場の奥から声がした。


 凪は顔を上げる。


 黒いコートの男が立っていた。


 長身。


 整った姿勢。


 余計な動きがない。


 顔は見える。


 でも、最初に目に入ったのは顔ではなかった。


 頭上の表示。


> SUMIYA MIKADO

>

> RANK:KNIGHTナイト

>

> FOLLOWER:6,014


 凪の背中に、冷たいものが走った。


 昨日のUNKNOWN USERと同じ数字。


 ほのかより、さらに上。


 そして、前に見た御門の数字より増えている。


 向こうも止まっていたわけではない。


 男は一歩前へ出る。


御門澄也みかど・すみや


 名前が、広場に落ちた。


 ほのかの顔が少し強張る。


「御門……」


「知っとるんか」


「名前だけ。KNIGHTの中でも、場の扱いがうまいって」


 御門はほのかを一瞥した。


「SPARKLE。お前の場作りは派手だ。分かりやすく、人を集める」


 ほのかは笑わない。


「褒めてる?」


「まさか」


 御門の視線が凪へ戻る。


「天沢凪。お前はその派手さに乗った」


 凪は黙った。


「FOLLOWER 1,000。KNIGHT昇格。現実投稿の伸び。全部、お前一人の力だと思っているなら、ここで終わりだ」


「思ってへん」


「なら証明しろ」


 御門が指を鳴らした。


 広場の黒い窓が、一斉に凪へ向く。


 コメントが流れる。


『SPARKLEの隣にいる』


『さっきの男、何をする気だ』


『歌うのか?』


『ペンを持ってる』


 凪の指が、首元のボールペンに触れる。


 ほのかが一歩前へ出ようとした。


「待て」


 凪が言った。


 ほのかが止まる。


「借りへんって言うた」


「でも」


「隣にはおれ」


 ほのかの目が揺れる。


 凪は御門を見る。


「オレ一人でやる。でも、ほのかを消すな」


 御門の口元がわずかに動いた。


「面白い矛盾だ」


「知るか」


「一人で立つと言いながら、隣にいる女を消すなと言う」


「一人で届かせることと、誰も横におらんことは違うやろ」


 その瞬間、白い文字が凪のスマホに浮かんだ。


> @yui_musubi

>

> そう


 短い。


 それだけで、凪の背中が少し伸びた。


 御門が目を細める。


 凪のスマホから浮いた白い文字は、すぐに消えた。


 けれど、消えた後も、空中に細い白い糸のような残光が残っている。


 普通のVALDGEARログではない。


 黒いコメント窓でも、システム表示でもない。


 御門の視線は、その残光を追っていた。


「……白い通知持ちか」


 凪の喉が止まる。


 御門は笑わない。


「噂では聞いていた。通常ログに混ざらない、白い接続通知。持ち主は少ない」


「何の話や」


「やはり、お前は数字だけではないらしい」


 広場の床に、円形のラインが走った。


 VALDGEARの戦闘領域。


 観客の視線が、今度こそ集まる。


 ほのかへ。


 御門へ。


 そして、凪へ。


> FIELD SET

>

> CONDITION:NAGI SOLO CONTROL

>

> SUPPORT:VISIBLE / INTERFERENCE LIMITED


 ほのかが表示を見る。


「あたし、見えてるけど干渉制限?」


 御門が答える。


「お前が動けば、その時点で天沢凪の負けだ」


「感じ悪」


「それはもう聞いた」


 凪は思わずほのかを見た。


 ほのかも同じタイミングで凪を見る。


 一瞬だけ、笑いそうになる。


 でもすぐに、場の重さが戻った。


 御門は右手を上げる。


 黒い窓が、凪の周囲に並ぶ。


「まずは見せろ」


 御門の声が、広場の音を押し下げる。


「SPARKLEの視線を使わず、俺の場で、誰の足を止める」


 凪はボールペンを握った。


 ギターはない。


 配達バッグもない。


 あるのは、安物のボールペンと、自分の言葉だけ。


「上等や」


 凪は一歩前へ出た。


 Nexus Squareの空気が、黒いコメントで満ちていく。


 御門澄也との初めての戦いが、始まった。


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