第十三話 ここは単なる洞窟じゃない?
“Phantom Menace”と“鑑定”のおかげでなんとかひどいけがを負うことはなく生存し、一週間ほどが経った。腹が減ると光る鉱石が所々あるものの薄暗い道とも言えないような道を慎重に歩き魔物を視認するなり“Phantom Menace”の能力である神経侵入により、神経締めの状態にし、その魔物の革をはぎ、骨を抜き取り、捌くというよりは解剖するといった手順で肉を得て食い漁った。さすがに大腸やその周辺は残したが、ほかの内臓、特に肝臓などは糖分補給もかねてしっかりと食った。
そして一週間ほぼ“Phantom Menace”に頼り切って生活してきたために司は“Phantom”が“Phantom Menace”となったことで新たに得た力を少しづつ実感してきていた。
まずは射程の延長。今までは2m強程度の範囲までしか行けなかったが、“Phantom Menace”一体のみにつき10m近い遠隔操作が可能になった。
次に物理攻撃が可能になった。これまた条件があり“Phantom Menace”に少し多めの魔力を注ぐことで可能になる。
そしてザ・竜の力的スキル:“竜の宝物庫”。魔力を消費してあらゆる武具を作り出し、魔方陣から召喚することができる。魔力次第で特殊効果を持つものも作れるようだが今のところ無理だ。また、この宝物庫からはドラゴンブレスも何故か吐ける。
最後に知能。司の考えに同調しサポートする能力である。これに関しては分身体に関しても2体までなら適応される。だから司は一人でも実質相対した相手から見れば4人を相手にしているような状況に陥るというわけである。
今のところわかっているのはこれくらいだ。“Phantom Menace”を鑑定したりしてみたが、これ以上の能力はわからなかった。
そんな司と“Phantom Menace”だが、現在かなりの数のゴブリンと戦っていた。司は“宝物庫”から召喚した1mほどの棒を持ち“鑑定”で赤く光るゴブリンの弱点目掛け寸分たがわぬ攻撃を繰り出していく。
一方、“Phantom Menace”は神経侵入やブレスを使ってサイドから司へ襲いかかるゴブリンを屠っていく。
「っらぁ!!“Menace”!!俺の前一直線以外全部消せ!!!」
「「「O.K.」」」
司の命令に呼応し、司の前方以外のゴブリンはブレスにより消え去る。そして司は棒に精いっぱい魔力を込め、自分自身にも身体強化を発動し棒をぶん投げる。そして周辺に落ちていた石にも魔力を込め、飛ばす。
司は基本的に暗殺スタイルで生き延びていたが直接戦闘を完全に避けきれない場合もあった。その際に編み出したのが物体に魔力を込めて相手にぶつけるスタイルだった。ぶつけたものはその地点で魔力波を起こし物体の限界まで込めればそれはもう爆弾と相違ない威力となる。要はガンビットをまねしたのである。ただトランプがないため石と身に着けている棒に魔力を込めるだけだが。
司の棒と石により木っ端みじんになったゴブリン、“Phantom Menace”達の攻撃で黒焦げやらきれいなまま死んでいるゴブリンたち。それを尻目に”Phantom Menace”と分身体をしまい、ヴぁるき出そうとした。その時ゴブリンが急に動き出した。死体から血が溢れ出す。そしてその地は宙に浮き、魔方陣を形成。液体である血にこんな表現はおかしいのかもしれないがそのまま壁の魔方陣にかっちりはまり込んだ。
「おいおいおいおい…。まさか…。」
司は思わずつぶやき“Phantom Menace”と分身体を最大展開。
「防御を固めろ!!!!」
「「「Y.E.S!! わかりました、マスター。」」」
極度の緊張感。そんな中で“Phantom Menace”は新しい能力を開花させた。ドラゴンの魔法陣を展開。分身体がその魔法陣をくぐりドラゴンのうろこを身にまとっていく。
「「「竜闘術、防御ノ型“竜鱗”!!」」」
「俺にもしろ!?しかも勝手にかっこいい名前つけてんの!?もしかしてそれ正式名称!?かっこいいなぁ!!」
少し遅れて司も魔法陣を通り抜け、体に竜鱗を纏う。
司たちがいろいろとやっている中で血の魔法陣から2mくらいの巨大なゴブリンが現れかけていた。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
完全に現れきる前に一斉攻撃を仕掛ける司。石に魔力を込め爆発させるがかなり頑丈だ。傷一つつかない。
「まじかよ…。まあ、ルール違反っちゃルール違反ではあるかそこは寛容になってくれませんかね…。」
司がそうつぶやくが完全なる責任転嫁である。自分がパワープレイできるほど強ければ問題なかったのであるから。
デカゴブリンが完全に現れた。
「UAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
その身に応じたバカデカい咆哮が響き渡る。魔力とともに発せられた咆哮だったため、“Phantom Menace”と分身体二体を残してすべての分身体が消失する。
「くそ…。」
デカゴブリンは悔しがっている暇など与えてくれない。奴は“Phantom Menace”達が消失した司に向けてすぐさま大剣を振り下ろす。とっさに横っとびに回避。自分の姿を模した“Phantom”を召喚。攪乱する。
―くそ…。神経侵入は難しいか…。
―体中が魔力に包まれており難しいです、マスター。
―くそ…。脳筋系魔法使いタイプかよ…。暴走会長より理性がまだあるぶん戦いづらいぞ。あいつらもいねぇし…。
今更ながら明日人と洋一郎がいないことを再認識し奥歯を強く噛む。その思いを振り切るように棒を強く握る。
―行くぞ!!
“Phantom”に攪乱されているデカゴブリンの背後をとり奴の背中を駆け上がる。同時に正面から”Phantom Menace”によるブレスが放射される。
「GUAAAA…。」
ブレスに怯みを見せるが有効打ではない。続けて司が脳天に棒を振り下ろし込めた魔力を放出する。しかしこれも有効打とはならない。
―なら…。
「“Phantom Rush”!!!クラクラクラクラクラクラァシュ!!」
―マスター言い方変えました??
―なんかしっかり来るのが無くて探し中。
“Phantom”のラッシュに加え、司自身もデカゴブリンを殴りつける。
「くっそ!?」
これまた効かず、そして手の竜鱗がはがれる。
「どれだけ固いんだよ!?」
体勢を崩した司にデカゴブリンの拳がぶちこまれる。
「ぐぁっ!?」
「「「マスター!!」」」
“Phantom Menace”達は司にデカゴブリンを近づけさせないようブレスを一斉に放射する。そして”Phantom”達は何とか神経侵入できないかとがむしゃらに突撃していく。
「GUAAAA…。」
ダメージはあまり通っていないようだったが司が体勢を整える時間は稼げた。立ち上がり“鑑定”を発動。だが、デカゴブリンに赤く光る部分は見えない。ならば魔力の薄いところはないか、と再度“鑑定”してみるがそれもない。
「くそゴブリンが…。」
―マスター。弱点属性などは??
―それがあったか。
“Phantom Menace”の助言をもとに再度“鑑定”。すると、弱点:始原五大属性と出た。なんだこれは。始原五大属性を“鑑定”してみるもエラーが出る。
―いったん置いておこう。現状で俺たちは…。
―マスター!!口の中は!?
そこからはほぼ反射だ。石に魔力を込め棒でノックする。
「GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」
効果があったらしい。やっとあのデカゴブリンが苦悶の声を上げた。
―よし!!
―全員口をねらうんだ!!
脳内での会話を起点に司、そして“Phantom Menace”、”Phantom”達が血を垂らしているデカゴブリンの口に向かって攻撃を繰り出す。
「GUAAAA…!!!!」
デカゴブリンの方も負けじと再び魔力波攻撃。“Phantom”達が消えうせる。作り出した隙を逃さず司本体に大剣を振り下ろす。
間にあわねぇ!?
魔力波に軽いスタン効果もあったようで回避が間に合わず必死に防御態勢をとる司。その時不思議なことが起こった。
司の体表にあった竜鱗が宙に浮き集まり巨大な盾となった。それが大剣を受け止める。
「GUA…?」
思いもよらない反撃だったのかデカゴブリンが間抜け面をさらす。
「死ね。」
“Phantom Menace”が口の中に炎属性を持たせたブレスをお見舞いし、デカゴブリンは体内から燃え上がった。
血が司たちにも飛び散る。
―んなこともできたのか…。あれ…?急に眠い…。
“Phantom Menace”、”Phantom”達が消え、司の体から力が抜け血の海の中に倒れる。
―挨拶が遅れてすまない。私はこの洞窟の主とでもいうべき存在だ。異界より舞い降りた竜の力を持つ少年よ。よくここまでたどり着いた。私はこの洞窟の最終地点で待っている。すすんでくるといい。この世界を説明しよう。そして帰る方法もな。気になっているんだろう??
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