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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第7章 新学期編

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第121話 持ち直し

 ニャルラトホテプの襲来によって図らずも語られた、この世界の真実の一端。それを聞いた所で浬達だけではなく、煌士にもほとんど理解は出来なかった。出来なかったが、唯一理解出来る事があった。それを、煌士が指摘する。


「ということは、だ。つまり貴殿らは変な事をしてカイト殿の勘気を買いたくない、ということで良いのか?」

「私は勘気ではなく悋気を買いたくないですねー」

「うっせぇ、黙れ」


 ニャルラトホテプ(中)の言葉に対して、カイトが睨みつける。残念ながらカイトも正体不明の存在と男女の仲になってやるつもりは存在していない。存在していなくても忍び込みそうなのがニャルラトホテプの怖い所である。


「よよよ・・・この身体、真王様の為の身体なのに・・・」

「だーら『真王』なんぞになってやるつもりなんぞねぇよ・・・後、パンツは見てやらんぞ」


 わざわざ着物――しかも丈が超短い着物――に早着替えしてその裾で涙を拭う動作を行うニャルラトホテプ(中)に、カイトは非常にやる気なさげだった。

 どうやら、彼の側は本当に『真王』とやらになるつもりはないのだろう。あだ名が覇王だろうと、その素養があろうとやる気がなければ一緒だ。


「よよよ・・・折角の白なのに・・・まぁ、そこらは好きにしてください。我々は勝手に貴方に従うだけですから」

「やれやれ・・・って、ちょいと待った。なんでお前がオレの為なんだ?」

「はい?」


 ニャルラトホテプ(中)がカイトの問いかけに首を傾げる。カイトの最初の反応を見ればわかるだろうが、実はこのニャルラトホテプ(中)は見たことがない。所詮群体なのでどこかから飛来した、と言ってもカイトも納得するが、どうにも話している話を聞いていると新規製造された新個体らしいと察したのである。


「あぁ、それは簡単簡単。3年程調査して君の性癖及び性格の癖をプロファイリングしたから、あまり睨まれない様に君との交渉役として一個体作った、というだけさ。これは全員同意の上で、権限も一つ上にしているよ」


 ニャルラトホテプ(大)が笑いながら明言する。どうやら、カイトの危険度等を考慮して万が一に喧嘩にならない様にカイト好みの性格を持つニャルラトホテプを製造した、と言うところなのだろう。

 群体なので最終的な性質は同じなのだが、表面的な性格はカイト好みに仕立て上げられる。そしてカイトとて気に入った人物であれば、邪険にはしない。

 そしてその気に入る気に入らないは性格に依るものが大きい。しかもその性質とて彼女ら曰く、意図的に、仕事上で、だ。彼らのプロファイリングが正確であるのなら、ニャルラトホテプ(中)は邪険にされないのだろう。そこら彼は人が良いのだ。どうやら、そこを見通されたという事なのだろう。


「ちっ・・・」

「ふふふ・・・これがニャルラトホテプ流男の落とし方なのです」

「やっぱ消すか」

「あいやまたれい! 殿中でござる! 殿中でござる!」


 呆れ具合に消し飛ばそうと考えたらしいカイトに対して、ニャルラトホテプ(中)が大慌てで制止を掛ける。そしてそんな様子に、カイトはもう呆れて物が言えない様子だった。


「はぁ・・・もう良いや。付き合うだけ無駄だ・・・そこら後は本体に任せるから、本題に戻せよ、もう・・・」


 非常に疲れた様子でカイトが姿を小鳥に変える。更には面倒なので意識を切った様子だ。モルガンとヴィヴィアンの椅子に早変わりしていた。


「あ、放置プレイ確定・・・というわけで、改めまして本題に戻る事にしましょう。あ、この姿だとパンツ見えそうなので戻しますねー」


 カイトが逃げた、もしくは放置を決めた事でニャルラトホテプ(中)も本題に戻るつもりになったようだ。先程までの着物から、制服姿に戻った。それでもスカートの裾はかなり短いが、そこは指摘すべきではないのだろう。


「で、改めまして自己紹介を。ニャルラトホテプの一体・・・と言うのはまぁ、皆さんがお呼びなだけの名ですが、この際他と分別を付ける為にもナイアーラトテップからナイアとお呼びくださいな。基本的には私が真王様との折衝を行う事になっています」


 ニャルラトホテプ(中)改めナイアがおふざけを終えて神として名乗る。そもそもナイアーラトテップもニャルラトホテプも全て、地球人類がそう名付けただけの名だ。これが本当の彼女の神としての名なのかどうかは非常に怪しい所だろう。

 まぁ、ニャルラトホテプの事だから人に化けて敢えて自分の名を名付けた可能性もある。そこは、彼女らのみぞ知る、という所なのだろう。が、今は通りが良いしかわいいので、という事でこの名を名乗る事にしたようだ。


「まぁ、後二体は居ても面倒なので消えてもらう事にしまして・・・」

「じゃあ、また」

「じゃあねー」


 ナイアの言葉を受けて、残る二人のニャルラトホテプが何処かへと引っ込む。どうやら自分でも居たら場が混乱する事はわかっているらしい。そして今は混乱しても困る。妥当な判断だ。

 それに基本的に彼女らもカイトとの折衝役になっているらしいが、それ故に今は必要がない。彼女らはカイトが居てこそ初めて仕事になるのだ。ここに居るのは使い魔だ。カイトが居ないのに彼女らが居ても仕方がない。使い魔を混沌へと引きずり込む為に三人で出たが、本来は一人だけで十分なのだ。


「さて、で、改めまして皆さんへと伝えるべき事を伝える事にしましょう。まず、皆さんが聞きたいだろう『パーパ』について、ですね」


 ナイアはそう言うと、フリップに一枚の蛇の写真を映し出す。それは単なる蛇ではなく、燃えるような三つ目の蛇だった。それに、煌士が感心した。語られる通りの姿だったからだ。


「おぉ、ニャルラトホテプだ・・・」

「はい、ニャルラトホテプです・・・いえ、私もニャルラトホテプですが。あ、一応燃える三つ目にもなれますけど、この機能だと見た目的な受けが悪いんでオミットしてます。あしからず」


 ナイアは煌士に対してそう明言しておく。ニャルラトホテプの特徴として挙げられるのが、今回も見えた燃えるような三つ目だ。ナイアには無いがやろうとすれば出来るのだろう。


「意味は無いのか」

「はい、無いです。と言うか燃えようと萌えようと三つ目とかバランス悪いんで。三つ目からビィィムとか出るわきゃないです。怪光線も出ません」

「脱線してる脱線してる」

「おや、これは失敬・・・」


 ヴィヴィアンの指摘にナイアがぺちん、と額を叩く。脱線し続けては一向に話が進まない。


「で、この三つ目の蛇が祢々の『パーパ』とやらですね。あ、これは蛇の姿を取っている時の姿ですので、人の姿もとれます・・・が、基本的にあの個体は不定形の姿ですねー。どうにも引っ掻き回したりする事そのものを楽しんでいる様子で・・・まぁ、地球としては有り難くない限り、なのでしょうけどねー」

「ということはこの写真にも意味はないと?」

「ええ、無いです」


 煌士の指摘を認める。写真の中では三つ目の蛇の姿だが、実際に会ってみない事にはどんな姿なのかは不明だそうだ。が、一つだけわかっている事があった。


「彼は謂わば地球担当官の者と考えて良いですよ。地球に試練を下し、審判を下す者。それが祢々の『パーパ』です」

「担当官? そんな者が居るのか?」

「ええ。そりゃ、誰もが好き勝手に試練与えられちゃ地球人類とてたまったもんじゃないでしょ。戦乱と平穏は共に歴史の両輪。戦乱で技術は加速し、平穏で技術は普及する。平穏無くば意味がないのですよ。試練のみではそんなの試練になりゃしない。地球人類に正式な試練として与える場合は、きちんと上司達の同意を得た上でやらないといけませんしね」


 煌士の問いかけにナイアが頷いた。ニャルラトホテプ達は各個人自由にやる事を明言しているが、本当に好き勝手にやっていれば今頃世界は崩壊しかねない。そしてそれは試練でもなんでもないだろう。

 喩え名目上だろうとニャルラトホテプの神としての今の仕事は試練を与える事なのだ。そしてその試練は星の命運をも左右しかねないものだ。

 彼女の言う通り無闇矢鱈に試練を乱発しては成長させるどころか、成長を阻害する要因になってしまう。それを考えれば、担当する者が居た所で何ら不思議はない。


「こう見えてニャルラトホテプとて色々と役割があるんですよ。貴方方へご褒美を与える者、貴方方を調査する者、貴方方へ試練を与える者、貴方方を滅ぼすもの、という具合に」

「じゃあ、ナイアちゃんは?」

「お、浬ちゃん。その呼び方ベストです」


 浬に対してナイアがご機嫌に笑顔を見せる。それは女性から見てもなんら裏のない気持ちのよい明るい笑顔だった。これだけを見れば、彼女が物語に語られるニャルラトホテプとは誰も思わない程だろう。ニャルラトホテプ(小)よりも遥かに悪意のない良い笑顔だった。


「で、私ですが所謂私は調査官と執政官になりますかねー。調査官としての担当は真王様個人。彼が本当に真王候補なり得るか、というのを調査する調査官ですか。私が筆頭という形ですね。で、執政官というのはこの星の担当者が変に真王様にちょっかいを掛けた場合に掣肘する権限を持っている、という所」

「お兄ちゃんの調査?」


 兄の調査、と言われて浬が首をかしげる。調査されている所は聞いたことも見たこともなかった。と言うかされていたら少しでも可怪しいと思うだろう。


「はい、真王様の調査です。調査といっても別に何かインタビューを取ったりするわけではなく、普通に影から彼の行動を見守るだけです。職業ストーカーと言うところですかね」

「ぶ、ぶっちゃけちゃうとなんか怖いわね・・・」

「た、探偵とかじゃないんだ・・・」


 ナイアの言葉に浬と海瑠が頬を引き攣らせる。非常に危うい匂いがしていた。とはいえ、やってる事だけを言えば非常に危うかった。ストーカー紛いというのも頷ける。


「いえ、これでも大変なんですよー。真王様のベッドに忍び込んで性癖を把握したり色仕掛けしたりもしないといけないんで・・・」

「・・・」

『睨むな。無実だ』


 浬から睨まれて、カイトが復帰する。そもそも忍び込んでいる時点で彼の意図ではない。


「いえ、そーでもないですよ? 実際ほぼ常に誰かと一緒にベッド入ってらっしゃいますし・・・」

「・・・」

『・・・ぴぃぴぃ』

「都合の良い時ばっか小鳥の真似すんな!」

『ぎゃあ! 潰れる潰れる!』


 暫くの見つめ合いの後、浬がカイトを引っ掴む。上でモルガンがピースしていたので丸わかりである。そしてやはり相性という物はあるのだろう。千方を瞬殺してみせたはずのカイトが圧倒的に負けていた。

 そうして少しのじゃれ合いの後、浬がカイトを手放した。彼が若干潰れているような感じなのは、気の所為ではないかもしれない。


「・・・はぁ・・・超幻滅・・・する必要もないか。お兄ちゃんだし」

『うぅ・・・ひどい・・・兄に人権は無いのか・・・』

「そっちある?」

「ウチには無い」


 浬に投げかけられた鳴海が即座に首を振る。勿論、横向きにである。彼女にも兄がいるらしいが、この様子では扱いはカイトと大差ないのだろう。まぁ、無条件に敬われる兄というのも珍しいだろう。リアル妹が居る場合の家の現実なぞこんなものである。


『うぅ・・・』

「よしよし」

「そんなんだからお姉ちゃんが怒るんじゃないかなー」


 しずしずと涙を流すようなカイトとそれを甘やかすヴィヴィアンの姿に、海瑠が苦い笑みを浮かべる。海瑠としては浬が兄にかまって欲しいだけなのではないか、と思っていた。所謂嫉妬とも取れる。そしてその一方、ナイアは何かをメモのような何かに書き込んでいた。


「ふむ・・・妹キャラでも行けそうですね・・・良し。今後のプレイの参考に・・・」

「何を書いているんだ?」


 そんなナイアにふと、侑子が興味を持って横から覗き込む。が、それにナイアもすぐに気付いて隠したが、少し見られた様子だった。


「おっと・・・これは調査票なんであしからず・・・」

「・・・今の、字?」

「あはは・・・別の星の字ですよ。地球人類じゃ読めないですからね。隠蔽が楽で済むんです」

「なんだとぉ!?」


 ナイアの言葉に煌士が俄然興味を持つ。まぁ、未知の言語だ。彼にとってみれば興味がない方が可怪しかった。が、そんな煌士に対してナイアが即座に逃げ出した。


「おっと、いけませんね。これはまだ貴方達地球人類には早すぎる文字・・・見せるわけにはいかんのです!」

「詩乃! そちらから挟み込め!」

「はぁ・・・かしこまりました」


 俄に騒然となり始める室内。それは暫くの間続くことになる。が、そんな彼らに対して密かに、ランスロットや御門、フェルが少しの笑みを浮かべていた。


「・・・なんとか、ですかね」

「ちっ・・・上手い野郎だ」


 沈んでいた気持ちを持ち直した様子の浬達に、二人の教師が少しだけ安堵の表情を見せる。どちらも少し苦々しい物は浮かんでいたが、それでも先程までよりも遥かに良い雰囲気にはなっていた。少なくとも今の彼女らには悲壮感はない。

 確かに、現状が何か変わったわけではない。変わったわけではないが、沈んだ所で変わる事はないのだ。前向きに進まないと何も変えられない。


「恩か媚を売っただけだろう。カイトが気を揉むからな」

「それでも、少なくとも沈み込む事はなくなりましたよ」


 フェルの指摘にランスロットが言葉を返す。そこだけは、素直にカイトもナイア達に感謝するだろう。これで少なくともカイト本体が帰還したとて、邪険には扱われないはずだ。

 彼は意外と恩義を受けると忘れない。受けた恩義は忘れず、売った恩義は掃き捨てる。そういう男だった。だからこそ、喩えニャルラトホテプだと言おうと、この恩義は忘れない。自らの側から叩き出そうとはしないだろう。そうして、ランスロットが御門へと告げる。


「・・・では、こちらはしっかりと前を見据えてどうすべきかを考える事にしましょうか、インドラ殿」

「そうだな・・・こっちはとりあえずアルジュナやカルナを呼び寄せる。徹底的に技術を磨かせる必要があるはずだ」

「では・・・こちらはアーサーに連絡を取りましょう。どうにせよイギリスへは行かねばならない。そちらも忘れてはいけませんからね。運が良ければ大精霊様のお力をお借り出来る可能性もあります」

「わかった。そちらは任せた」


 御門はランスロットへと修学旅行の対策は任せる。どうにせよ今回の一件が始まるのはまずは光の大精霊とやらを見つけ出さない事にはどうしようもないのだ。その為には、どうしてもイギリスのアーサー王へと助力を頼まねばならない。

 そこらでの打ち合わせも必要だろう。そうして、なんとか持ち直した浬達の裏で、ランスロットと御門も密かに動き始めるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。次回は来週土曜日21時です。

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