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勇者の弟妹 ~~Tales of the new Legends~~  作者: ヒマジン
第6章 藤原千方 決着編

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第116話 翻弄

 カイトの参戦によって瞬く間に討伐された千方と金鬼の二人は、その後にすぐ、モルガンの魔術によって氷の中に閉じ込められた。それを見て、一同はようやく、戦いが終わったのだ、と理解した。


「・・・終わった・・・の?」


 全員が足を止めたまま、一瞬の間に終わった出来事を見守っていた。それ故、まだ実感が湧いていなかった。が、その次の瞬間。何かを答えるよりも先に、カイトは何時もの小鳥の姿に戻った。


『ふぅ』


 ぽん、というコミカルな音と共に小鳥になったカイトを見て、一同は本当に戦いが終わった事を理解する。そうでなければこの姿は取らないだろう事ぐらい浬達にも理解出来たのだ。


「おわったー・・・」

「はぁー・・・結局何も聞けなかったけど・・・まぁ、なんとかなったから良いかなぁ・・・」


 浬達は一斉に、その場に腰を下ろす。珍しい事に詩乃でさえ、腰を落としていた。どうやら緊張していたらしい。顔には安堵が滲んでいた。と、そうして一息吐いたからか、ふと、煌士が疑問を得た。


「・・・あの・・・カイト殿」

『んぁ?』

「殺した・・・のか・・・?」


 おそらく殺されたのだろうな、と覚悟はしていた。煌士はそれでも、問いかけねばならなかったようだ。そしてその問いかけで、今の一幕の正確な意味が理解出来て、浬達の視線もカイトへと集まった。が、答えは、どこか呆れを含んでいた。


『まさか。いくらオレでも弟と妹の前で殺しはやらねぇよ。ボロボロになっちゃいるが、金鬼も千方も気絶してるだけだ。まぁ、当分は身動き一つ取れねぇだろうが、その程度だ。生きてるよ』


 カイトは笑いながら最後にはっきりと、生きている事を明言する。彼とて兄としての沽券がある。別に殺す事に躊躇いも無いが、浬と海瑠の前でだけは、殺す所を見せたくなかったらしい。それに、一同が何処かほっとした様子だった。


「そっか・・・」


 やはり、浬達は中学生だ。それ故、敵といえど、殺されそうになったと言えど、目の前で殺される事には抵抗があったらしい。安堵を浮かべていた。そしてだからこそ、カイトも殺さなかったのだ。と、そんな所に、フェルが姿を現した。


「おい、そんな姿で格好をつける馬鹿がいるか。さっさと帰ってこい」

『あ、悪い悪い・・・何時もすまんのぅ・・・』

「どこの爺さまだ、貴様は」


 小鳥形態のカイトを手のひらに乗せたフェルがため息を吐いた。カイトは言っている事が何処かじじむさかった。そうしてそんなフェルは、再度ため息を吐いた。


「はぁ・・・10%で5分だったが・・・この様子だと5分も保ちそうにないな」

『だな・・・』


 フェルの言葉をカイトも認める。どうやらかなり魔力を消費してしまったらしい。そして戦闘らしい戦闘も今回が初だ。一応茨木童子とも遊びに近いレベルで戦ったが、あれは今程の力は使っていない。そこから、目測違いを把握したのだろう。その分、持久力には優れているというのだ。仕方がない事だったのだろう。と、そんなカイトの様子に、浬が少し不安げに問いかけた。


「大丈夫なの?」

「何のために私が居ると思っている。こいつの魔力補給・・・の為ではないがな。それでも、魔力の補給ぐらいはしてやれる」

『男として情けない事この上ないが・・・そもそも、使い魔だからな。諦めるしかない』

「帰還すれば、話が早いのだがな」

『できりゃやってるよ』


 二人はいつもの様に会話を行う。結局はそこに行き着く。それしか無いのだから、仕方がない。そうして、少し休憩した所で、一同は立ち上がる。囚われたままの綾音を救わねばならないのだ。と、そこで浬が気付いた。


「さて・・・じゃあ、行こっか・・・って、そういえば・・・私達が行って大丈夫なの?」

『そこらは、記憶弄る。そうするしかないんだから、しょうがない。お前らも母さん達に心配は掛けたくないだろ?』

「うん、まぁ・・・」


 カイトの問いかけに、浬も海瑠も同意する。心配をさせないで済むのなら、それの方が良かった。というわけで、仕方がないが記憶を操作させてもらう事にして、移動を開始する。


「・・・と言うか、何処に居るんだろ・・・」

『っと・・・ちょっと待ってろ。どうせだ。やられた仕返ししてやるか』


 カイトはそう言うと、千方が封じられている結晶へと近づいていく。そうして、彼の目を見つめて問いかけた。


『さて、答えてもらおうか。か・・・人質はどこに閉じ込めた?』

『・・・職員達の使う用具入れの様な場所に閉じ込めた・・・』


 カイトの問いかけを受けて、千方が答える。勿論、これは千方の意思ではない。海瑠にやったのと同じ様に、カイトが強引に意識を乗っ取って答えさせたのだ。こういう意趣返しをするあたり、彼も相当に怒っていたのだろう。


「えぇっと・・・掃除の人用の建物の中に閉じ込めた、っていう話だから・・・」


 浬はとりあえず周囲を見回して、倉庫かなにかが無いか確かめる。おそらく近くにどこかに清掃用の道具を入れる倉庫かなにかがあり、そこに閉じ込めたのだろう。そして千方がここで待ち受けていたのを考えれば、そう遠くに監禁しているとは思えなかった。というわけで、カイト、モルガン、ヴィヴィアンの三人が飛び上がって捜索を開始した。


『えーっと・・・』


 カイト達浮遊出来る組三人は周囲を飛び回って、国立公園の中を確認する。どうやら浬達が連れてこられたのは海沿いの大きな公園の森林区画らしい。少し離れた所になるが、一般客向けの順路が見えた。


『順路があるな』

「他になにか見える?」

『んー・・・まぁ、おそらく順路の近くだとは思うが・・・結界を展開しているか、眠らせるかしていると思うんだが・・・』


 カイトは周囲を見回しながら、浬の問いかけに答える。いくら実力者である千方と言えども綾音をそのまま囚えておく事はしないだろう。確実に、身動きはさせないはずだ。

 となると、空間を隔離して閉じ込めたか、眠らせて黙らせたかはしているはずだ。そうしないと逃げられたり、周囲に異変を気付かれたりしてしまう。が、逆に言えばそこから、異変を見つけられるということでもある。なのでそうしたのだが、おかしな事に何も見つからない。


『可怪しいな・・・』

「無いのか?」

『ああ・・・ヴィヴィ、モルガン、そっちどうだ?』


 フェルの問いかけに何か釈然としない物を感じながらも、カイトは同じく周囲を捜索する二人へと問いかける。


『こっちも何も無いね・・・』

『こっちは一応倉庫みたいなのは見付けたけど・・・何も感じないかな』


 ヴィヴィアンはカイトと同じく梨の礫、モルガンはどうやら倉庫らしい物は見付けたらしい。


『うーん・・・もしかしたら、単発で効果時間の長い魔術で眠らせて、居場所はさとられない様にしているのかも』

「それがあり得る可能性、か・・・」


 モルガンの推測に、フェルがそれがあり得るか、と同意する。眠りに陥らせる魔術と一言で言っても、幾つもの種類がある。一度眠らせれば後は放置しておける物や、常に魔術を展開しなければ目をさましてしまう物等様々だ。

 前者は目覚められる可能性もある変わりに対象の居場所を悟られる可能性が低く、後者は魔術を使い続けている限り目覚める事は無いが、代わりに魔術の兆候から対象を発見される可能性がある。どちらを選ぶかは、その人の考え方やその時の状況によりけりだ。この様子だと、千方は後者を選んだのだろう。


『一度、モルガンの倉庫に集まろう。もしかしたら、その中かも』

『一応トラップ警戒しておくね』

『頼む・・・ルイス、案内頼む』

「わかった・・・ついて来い」


 カイトからの言葉を受けて、フェルが一同の案内を行う。そうして、10分程歩くと、遊歩道の少し離れた所に職員達が使っているのだろう掃除道具を入れているらしい少し大きめの倉庫が見えた。そこには、モルガンとヴィヴィアンが既に到着していた。


「あ、着いた着いた」

「カイトは周囲を警戒中。下手に声出したくないんだってさ」


 ヴィヴィアンが空を見るのに合わせて一同が空を見ると、そこにはカイトが浮かんで警戒していた。どうやら、自分の声を聞かせたくなかったのだろう。

 浬と海瑠にしてもカイトが懸念している事は良く理解出来る。今の彼は物凄い特殊な状況だ。下手に混乱させたり不安になられても困るだろう。


「そっか・・・とりあえず、罠とかはどうだったの?」

「問題無いよ。そこらで気付かれるの嫌だったんだろうね。一応、中に誰かが居る事だけは確認したよ。このぐらいだったら、多分普通の人じゃないかな。忍者とかは無いよ」


 浬の問いかけを受けて、モルガンは全部問題無い事を明言する。ちなみに、まだ扉は開いていない。だが、生命反応と言うか魔力の有無などで誰かが居るかどうかはわかるらしい。

 とは言え、残念ながら誰が居るか、まではわからないらしい。最悪職員であってもそれはそれで良しだ。良しなのだが、その可能性があるので二人は開かなかったのだ。下手に妖精の姿を晒して混乱を招きたくはないらしい。魔術で隠蔽出来るからといって、安易にすべきではないのだ。


「じゃあ、お願いして良い?」

「わかった・・・えっと・・・」


 ヴィヴィアンの求めを受けて、浬が扉に手を掛ける。罠が無い事は確認済みらしいし、中が戦闘能力がある程の者で無い事も確認済みらしいのだ。なのでフェルは手を挙げる事はなかった。


「誰か・・・お母さん!?」

「・・・ほえ? あれ、浬ちゃん?」


 浬は扉をゆっくりと開いて、中に居た綾音の姿を確認して思い切り扉を開いた。どうやら、丁度目が覚めたタイミングだったらしい。状況が理解出来ず綾音は困惑を浮かべていた。


「あれ? ここ・・・どこ・・・? 彩斗くんの声が聞こえて振り返ったんだけど・・・」

「っ!」


 困惑する様子の綾音の言葉で、浬がその場を一気に飛び退く。そして、一気にカードを手に取った。そしてそれは、海瑠も一緒だった。


「・・・どうしたの?」

「あんた、誰?」


 いきなりの出来事に困惑する周囲を他所に、浬が綾音を睨みつける。見た感じは、綾音にしか見えない。声も綾音だし、仕草も綾音だ。

 どこからどう見ても綾音だが、姉弟には何か違和感が感じられている様子だった。そして、違和感を感じているのは彼女らだけではなかった。上空を警戒していたはずのカイトもまた、気付いて一気に舞い降りてきた。


「誰だ、お前は。母さんはどこにやった?」

「そうか」


 カイトまで警戒をしている事に気付いて、フェルが剣を取り出す。それとほぼ同時に、モルガンとヴィヴィアンも戦闘態勢を整えた。


「・・・あれ。何か間違えちゃったかなー」


 綾音が、決して綾音が浮かべないだろうどこか悪辣にも見える笑みを浮かべる。どうやら、観念したらしい。そして『誰か』は笑いながら立ち上がった。


「この様子だと千方やられちゃったかー。せっかくここでじっとしてたのに・・・」


 『誰か』は綾音の姿で綾音の声のまま、千方の事を語る。どうやら、始めから囚えられていたのは偽物だったのだろう。


「本物のお母さんはどこ!?」

「ああ、君たちのお母さん? それなら今も映画館で映画見てるんじゃないかな。ちょっと意識は操作させてもらったけどね。それぐらいだよ」

「・・・はい?」


 綾音の姿を借りた『誰か』の言葉に、浬と海瑠が目を瞬かせる。確かに、綾音は今日は観光でも行こうかな、と言った事は覚えている。浬も海瑠から聞いて知っていた。と言うか、拐われる前にSNSで映画に行く、と言っていたのを彼女らはきちんと見ていた。


「あはは。映画館の中だと、携帯は切っておくでしょう? 今もまだスマホ失ったのに気付いていないんじゃないかな」


 『誰か』は笑いながら、綾音がどうやら映画館に入っていく様子を撮影した写真を見せる。それは綾音のスマホではなかった。そしてこの今の会話の間の仕草だけだと、本当に綾音にしか見えない仕草だった。フェル達とて、カイト達が警戒していなければわからなかっただろう。


「ああ、それでこれ、君たちから返しておいて。君たちのお母さんから拝借した物だからね」

「きゃ」


 浬は『誰か』から投げ渡された綾音のスマホを受け取る。どうやら、スマホだけ盗み取ったのだろう。そこから、彩斗や浬らへメールを送信したと考えるのが妥当だ。


「どうやって開けたの? これ、指紋認証なのに・・・」

「今の私は君たちのお母さんと同じだよ。指紋も勿論、彼女の物。使えるよ?・・・で、そろそろ教えて欲しいかな。どうやって、私が偽物だと見破ったの?」


 『誰か』は興味深げに、浬へと問いかける。一瞬だ。一瞬でこちらを警戒したのだ。何がミスだったのか、と疑問になるのも仕方がない。


「あんたは、お父さんの事を彩斗くん、って言った」

「あれ? 違う?」

「お母さんはお父さんの事さーくん、って呼ぶ」

「あー・・・それかー・・・スマホには彩斗くん、って書いてあったからそう呼んでるんだ、って思ったのがミスかー。調査不足だったかなー」


 どうやら、『誰か』も何を失敗したのか理解したらしい。綾音らしくいじける様に落ち込んでいた。調査は殆どしていなかったらしいのだが、それ故、夫への呼び方は調査不足だった様だ。

 一応スマホのSNSでの呼び名から判断していた様子だが、それ故、間違えてしまったのだろう。とは言え、それでここまで真似られるのだから、物凄い能力を持っているのだろう。


「ウチの両親なめないでよ! これでも何時また弟か妹が生まれるか、って不安になるぐらいのバカップルなんだから! で、あんた誰よ! どうしてこんなことしたの!?」


 そんな『誰か』に向けて、浬が何処か自慢げに胸を張る。威張れる事ではないのかもしれないが、この場合両親のバカップルぶりのお陰で助けられたのだ。これで良いのだろう。


「私が誰か、か。うん、まあ良いかな。じゃ、教えてあげる」


 『誰か』は笑いながら、両手を広げる。その仕草は綾音らしくて、しかしやはり綾音ではなかった。


「私は鵺。ああ、今は女だから祢々切丸から取って祢々でも良いかもね。どちらにせよ鵺は種族を表している単語だしね。まぁ、私以外に鵺が誰か居るかしらないんだけど」


 鵺、もしくは祢々と名乗った綾音の姿を取る人物は、うやうやしく一礼をする。そうして、浬達は祢々との初会合を果たす事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。完全に踊らされていた様子。この理由は追々。

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