4話 ダンナの実力
「ボクッ娘!!俺の剣出してくれッ!!」
「真名じゃなくてもいいから、名前呼んで欲しいさ・・・ダンナに言っても仕方ないけどね。」
趙子龍は投げ飛ばされた反動ですぐには動けない。
ボクッ娘、費緯が馬車から剣を取り出しダンナに渡すのを見守るしかできなかった。
「今まで、手加減されていたのかな?」
「無手も剣もどっちでもいけるぞ?ただ、手合わせだったからこっちにしようかと思っただけだ。」
「納得はいきませぬが、仕切り直しですな・・・参るッ!!」
趙子龍は手に持つ槍の感覚を確認し、新たに剣を持った男との距離を詰める。
先程放った連撃とは違い、一点集中型の突き。
突進により威力も速度も上がるが、離れた場所からの行動のため回避しやすい。
それはどちらも理解しているはずだ。
その行動は愚策の様に見える。
しかし、彼女は愚策としてその行動をしたわけではない。
ダンナの間合いより離れたところで槍を持ち替え、それをストッパー代わりに地面に突きつける。
突進中に行ったそれは彼女を大地より離れさせるのに充分な力。
彼女は槍を引き抜きながら宙を舞い、そのままダンナに槍を穿つ。
曲芸の様な動きに費緯は驚いていたが対峙しているダンナは冷静だった。
空中からの連撃を巧く回避し、彼女の着地地点を予測し、一気に距離をつめる。
着地時にバランスを崩したのか、趙子龍はダンナからの連撃を受け止めるしかできなかった。
『まともに攻撃を受けるのは初めてだったが・・・一撃が速く、重い!!』
体勢を立て直せないまま、彼の攻撃を受けるため防戦一方になっている。
左右満遍なくの切り、払いの連撃は隙を見せることはなく彼の剣の腕が高い水準にあることがわかる。
「そういえば、俺の名前が知りたいんだったな。」
「ッ!!そうですな!教えていただけるのかな!?」
一瞬、ダンナに隙が出来たため、それにあわせて趙子龍は反撃をして距離を取った。
「次で終わらせる・・・『勝ったら』教えてやる。」
「意地悪な方ですな・・・まあ、いいでしょう。勝てばいいのですから・・・なッ!!」
ダンナは構えを解き、右手に持った剣を下ろして無防備な状態になっている。
趙子龍は、それが挑発であり罠であると気付いている。
が、あえてそれに乗っかり彼に挑む。
自分の力に、誇りと絶対の自信を持つ彼女だからこその行動なのだろう。
趙子龍は一直線にダンナへ向かい直槍を突きつけた。
ダンナの姿が一瞬ブレたが趙子龍は気付くことはなかった。
趙子龍の槍がダンナの首に突きつけられていた。
「・・・私の勝ちでよろしいか?」
「あれ?ダンナ、負けたさね?」
「いーや、引き分けだ。」
ダンナはそう言うと槍の先にそっと手を触れた。
そうすると、一直線にダンナの首先に向かっていた刃先がブレ、きれいに地面へと落ちる。
「なッ!!いつの間に!?」
「凄いさ~。いつ切ったの?」
「さてな。いつでもいいだろ?」
「・・・これで何故引き分けで?」
「槍がこうでも、そのまんま突かれたら俺死ぬだろ?武器が壊れたことに気付かなかった白いのにも問題あるしな。まあ、今回はうまくいったし、手合わせだし?こんなもんだろう?」
『手合わせだからの行動、なのか・・・本気でやっていたなら当に切り捨てられていた、と言うことか。』
趙子龍はまだまだ世界は広い、ということを認識させられた出来事であった。
「じゃ、手合わせは終わり・・・ああ、武器を壊しちまったな。」
「あ~、あの武器結構いいものよ?どうするさ。」
「そうだな~。」
趙子龍が物思いに耽っている間、2人の商人は壊してしまった武器の事を話していた。
ダンナは馬車の方へ移動すると中から珍しい型の直槍を趙子龍に投げて渡す。
「!!おっと!!」
「武器壊して済まんな。とりあえず、武器の修理が終わるまでそれ使え。気に入ればそれそのまま使ってもいいからな。」
「珍しい・・・ダンナが他人に武器を『タダ』で渡すなんて。」
「手合わせなのに武器壊したしな。まあ、名前の代わりにお近づきの印って所だ。」
「ふ~ん。」
2人は趙子龍を差し置いて話をしている。
彼女は渡された武器を触りながら思っていた。
『!!何と手に馴染む武器か!!見る限り新品の直槍の筈なのに・・・馬車の中に何個も槍があったがその中でこんな物を渡すとは。』
2人が商売をしてる間、馬車で待機していた彼女は中に用意されていた品物を見ていた。
その中には、多くの武器があり、槍も数本おいてあった。
その中で、一際目に付いたのがこの槍。
一応、商品だと思い触ることはしなかったが、とても気になっていた物だった。
『奇特な男とは思ったが、やはり面白いな。しばらくついて行ってみる、か。』
「すまぬな、お二方?」
「なにさ?」「なんだ?」
趙子龍に呼びかけられ、2人の商人は同時にそちらに顔を向ける。
「しばらく、お主達の商売手伝ってもよろしいか?」
「あ、手伝うって?白いのに払う給金なんて「あるさね!!」っておい!!」
「助かるよ!?ダンナさぼってばっかりだから、少し手がほしかったさ。だいじょ~ぶ!!あんまり多くは出せないけど1人雇うくらいの余裕はあるから!!」
「おいッ、ボクっ娘!!勝手に決めんな!!雇うか雇わないかは俺が決めることだ!!」
「前に『もう1人くらい販売する人がほしい』って言ってたの聞いたさ!いいさね?売り物、最近少しダブついてるし、ここで売る量増えればその分で給金は払えるよ?」
「・・・それを言われると厳しいな。あいつ等の作ったものがダブつくのは申し訳ない。だがなぁ。」
「給金は、この槍を戴けたのでタダで・・・とはいきませぬが、食住を保証していただければそこまでいりませぬ。」
2人がひそひそと内緒話を始めたのを見て、自分の要望を話す趙子龍。
2人の商人はそれを聞いて、一応頷く。
「なら、白いの。お前さんを雇うよ。家は、ボクっ娘のとこ使え。町からそんなに離れてないから不便ではないはずだ。」
「おや?一緒に住んでいるのではないのですか?」
「ボクはこの辺りに住んでるよ?ダンナは益州には住んでないさ。」
「俺は永昌・・・南中から来ている。」
「それはまた遠いところから。」
「まあいろいろあってな・・・仕入先もそこからだし楽だがな。」
そこまで言うと彼は、馬車に荷物を入れ始めた。
どうやら片づけをして帰るつもりのようだ。
「あれ?今日はもう帰るさね?ボクも行くよ!」
「お前は、白いのを、自分の、家へ連れて、くだろう?今回はあいつ等に報告するのは俺だけでいい。」
そう言ってさっさと荷物を片付けて、馬車に乗るダンナ。
趙子龍はその手際の良さに感心していたが自分が置いてきぼりになっていることを知る。
「ダンナ殿!!私はどうすればよろしいか!?」
「とりあえずはボクっ娘に聞いてくれ。ちゃんとしたことはまた改めて話す。」
話もそこそこに彼は馬車と共にその場を離れていった。
あっという間の出来事だったので、趙子龍の置いてきぼり感は尋常ではなかった。
「・・・費緯殿・・・とりあえず、宿に行き荷物を持ってくる故・・・」
「う~ん・・・そうさね。どうせだし、付いてくよ?お姉さんとは色々話が出来そうだし。」
そう言って2人は趙子龍の泊まっている宿へと足を運んでいった。
バカ馴染が読んでいた本はあの日記。
一応、本があることは認識できているようだ。
しかし、肝心の中身については読むことができないようだ。
バカの癖に外国語を何個も理解でき、古代中国の文字も好きだから、という理由である程度は理解できるらしい。
にも、かかわらずこれは読めないそうだ。
・・・まあ、この本があることを認識できているのだから、それで許しておこう。
そんな中でやつも同じような本を手に入れていたようだ。
他人には認識できない本を。
日記のようで、私の持っている日記と同じように『兄』を持つ妹の日記だったそうだ。
それにはどんな事が書いてあるのだろうか?