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希 スピンオフ「みな」  作者: 森 神奈


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3/3

後編 晴れた日の名前


次の週、授業参観の日がやってきた。


朝から教室はどこか落ち着かない。


机の中を何度も確認する子、髪を整える子、親が来るのを楽しみにしてそわそわしている子。


みなも少しだけ緊張していた。


教室の後ろには、希とかんなの姿がある。


並んで立つ二人を見て、みなは少しだけ安心した。


父は優しく微笑み、母は少しだけ真剣な顔で教室全体を見ている。


その視線の先には、もちろん雨音もいた。




一時間目は作文の発表だった。


テーマは


「最近、心に残ったこと」


先生が順番に名前を呼んでいく。


そして。


「次、小森みなさん」


みなはゆっくり立ち上がった。


手に持った原稿用紙が、少しだけ震えている。


けれど、教室の後ろで希が小さくうなずいたのが見えた。


それだけで、不思議と声が出た。




『雨が止んだ教室で』




教室で一人になると、雨みたいな気持ちになることがあります。


誰も悪くないように見えて、でも少しだけ冷たくて、さみしい雨です。




わたしのクラスには、前まで一人でいることが多い子がいました。


その子は絵が上手で、傘の絵をたくさん描いていました。




最初、わたしは見ているだけでした。


声をかけたら、自分にも雨が降るかもしれないと思ったからです。




でも、お父さんが言っていました。


『隣にいるって、すごく強いことなんだよ』




だから、わたしはその子の隣に行きました。




そしたら、雨はすぐには止まらなかったけど、少しだけ弱くなりました。




お母さんは言いました。


『守る方法を一緒に考えよう』




だからわたしは、一人でがんばらなくてもいいんだと思いました。




雨の日は、傘に入ればいい。


一人じゃなくて、二人なら歩ける。




わたしは、そういう人になりたいです。




読み終わった瞬間、教室は静かになった。


いつものざわめきも、鉛筆の音もない。


先生が最初に拍手をした。


それに続いて、ぽつ、ぽつ、と音が広がっていく。


後ろを見ると、希が目を細めて笑っていた。


かんなは少しだけ目元を押さえている。


雨音も、小さく拍手していた。


そして――ゆいも。


みなは、その姿を見て少しだけ驚いた。




休み時間。


ゆいが、珍しく一人で雨音の席に来た。


少し気まずそうに、でも真っ直ぐに。


「……あのさ」


雨音が顔を上げる。


「絵、また見せてよ」


教室の空気が、一瞬止まる。


でも、その言葉に悪意はなかった。


雨音は少し戸惑ってから、ノートを開いた。


そこには、前よりもたくさんの傘が描かれていた。


青空模様の傘。


虹色の傘。


そして、二人で入れる大きな傘。


「……すご」


ゆいが思わず呟く。


その後ろから、他の子たちも少しずつ集まってきた。


「ほんとに上手」


「私も描いてほしい」


「次、図工で一緒にやろうよ」


教室の空気が、少しずつ変わっていく。


みなはその様子を見ながら、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。




放課後。


空は綺麗に晴れていた。


雨上がりの校庭には、水たまりが小さく光っている。


みなと雨音は並んで歩いていた。


「ありがとう」


雨音が言う。


「え?」


「みなちゃんが、最初に声かけてくれたから」


みなは少し照れて笑う。


「私も、ちょっと怖かったよ」


「うん」


「でも、一人じゃなかったから」


雨音は小さくうなずく。


その時、空にうっすらと虹がかかった。


「あ、見て」


みなが指をさす。


雨音が空を見上げて、ふっと笑った。


その笑顔は、最初に見た寂しそうな顔とはまるで違っていた。


明るくて、やわらかくて、春の光みたいだった。




校門の前では、希とかんなが待っていた。


「おかえり、みな」


その声に、みなは元気よく駆け寄る。


「ただいま!」


かんながみなの頭を撫でながら、雨音にも優しく笑いかけた。


「よかったら今度、おうちで一緒におやつ食べる?」


雨音は少し驚いてから、小さく笑った。


「……はい」


その瞬間、みなは思った。


昔、父と母が見つけた“雨宿り”は、


ちゃんと次の誰かを守る場所になっている。


雨は止んだ。


でも、もしまた降っても大丈夫。


今度は、自分が傘を差し出せるから。


春の空は、どこまでも青く晴れていた。

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