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電妖のフェアリーテイル  作者: 双星天魚


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1/3

フェアリーテイルは突然に

 帝歴2048年、高度に発達した科学技術と、ダンジョンと呼ばれる異世界技術が交差するこの世界は、ある種の戦乱に満ち溢れていた。


 ダンジョンという異世界の物質が産み出す、それまでの地球には存在しなかった鉱石や様々な生物素材、魔法技術は人という存在を遥か別の存在へと昇華させ、そしてそれを高度に発達した科学によって先鋭化していく。その技術発展はまさしく戦争時のそれよりも激しく、だがとてつもない速さで進化していった。


 だが、そのことで人類は大きく二つの派閥へと分かれることになった。


 一つは異世界の技術をそのまま使い、人類と融合させることによって自然的に進化をしていこうという考えをもつ、通称『異文派(アノマリィ)』。

 もう一つは、高度な科学技術によって異世界の技術を独自に進化させ、機械的な発展をしていこうという考えをもつ、通称『機巧派(マシナリィ)』。

 そして最後に、『異文派』と『機巧派』の両方を理解し、融和させさらなる発展をしていこうという考えをもつ、通称『電妖派(フェアリィ)』。


 とはいえあくまでも思想であり、派閥同士が敵対しているわけでもなければ、相容れないと拒絶しているわけでもない。少なくとも今現在は。


 そんな歪で不安定な世界の国の一つ、世界でも数少ない三派閥が共存共栄している珍しい大国、『帝国ヤマト』の地方の片田舎、そこに俺、荒守ムジナは生活していた。

 いや、生活というかほぼホームレスの野生児状態なのだが。


「……腹減った」


 いや確かに俺は色々あって今現在は孤児ではある。だが別に生活できてないわけではない。服だってマトモなものを着てるし、風呂や洗濯だって毎日している。

 だが俺の住んでる場所には他に誰も居ない。なぜか、ここが昔ダンジョンの暴走によって廃墟になった廃村だからだ。


 今ではすっかり寂れて、ダンジョンも殆ど非活性化しているが、様々なことが重なったことで廃墟となった村は解体すらされず、誰からも忘れられた場所だが、それでも人が元々住んでいた場所だけあって、少し工夫したりダンジョンから調達するだけで、あっという間に人一人が住むだけなら困らない場所にできた。

 食料と飲用水は質さえ選り好みしなければダンジョンから持ってこれるし、生活用水も同じく、洗剤は破棄された家に残っているものを使えばそれなりにある。服もダンジョンからたまにではあるが手に入れられたりするため、流石に街の物と比べればあまり好ましくないが、誰も来ないこの場所なら関係ない。


「お、今日はダンジョンが動いてるな」


 そんなわけで日課のダンジョン確認をすれば、弱々しい光だがダンジョンが起動しているようだった。

 俺は急いで住んでいる拠点からダンジョン用の武器……これもダンジョンで手に入れた剣を両腰に一つずつ備え、さらに防具とポーチを身につけて改めてダンジョンの前に来る。


「さて、今日はなんの肉が手に入るやら」


 できれば狼やゴブリンだけは勘弁してもらいたいと切実に思いながらダンジョンの中に入り込む。

 光の渦の奥に進めば、そこは大きめの猪のような化け物……通称『魔獣』がそこらに沸いていた。どうやら今日は当たりだった。


 すぐさま俺は近場にいた猪型の魔物の側の樹の裏に回り、深呼吸一つとともに気配を消す。すでに5年以上こんな生活を続けてきた結果とはいえ、馴れたものだと少しだけ自画自賛してしまう。

 そして猪の視界から完全に外れた瞬間、木ノ上にジャンプ一つで登って上を取ると、その頸動脈のある首に向かって全体重を乗せた一突きを上から叩き込む。

 刺された瞬間、猪は暴れようとするが、それを許さずに首の骨を切断し、すぐにやつは事切れて横たわった。


「よし、まずは一つ」


 首に刺さった剣を引き抜けば、ダンジョンの生物のお約束である分解がすぐに始まり、やがてそこには大きな処理済みの毛皮と数キロ程度のバラされた肉塊……見た感じバラ肉に変わった。


「よしよし、幸先良いぞ」


 すぐさま俺はその二つをポーチを開いて収納する。ダンジョンに潜り始めてすぐの頃に手に入れた、いわゆるこの収納ポーチは、時間経過が起こらず、それでいてそれなりの量が入るからかなり重宝している。

 改めてポーチをもとに戻した俺は、続けて木ノ上に戻って枝伝いに移動する。音をたてず、それでいて早く、一人でこんな生活するための努力によって同じように樹の近くにいた猪を同じ要領で何体も屠る。その度にバラ肉だったり脚まるごとのモモ肉だったりと、可食可能な肉と毛皮は全て回収する。

 逆に牙とかはなんの役にもたたないため放置しておく。どうせそのうちダンジョンが回収してしまうだろうから、放置していたところでなにも問題ない。


 そんなこんなで十体ほど猪を屠れば、一人で食べるのなら半年は保つほどの肉が量が手に入った。あとは食べるときに細かく解体すれば問題ないだろう。


「さて、そろそろ……」


 帰る、そう思った瞬間背筋に悪寒のようなものが疾る。すぐさま気配のした方向へ体を向けて臨戦態勢を取った瞬間、その視線の先に映った光景に絶句した。


 そこに居たのは2体の巨大な狼だった。少なくとも先ほどまで倒していた猪など、簡単に補職してしまえるだろう大きさの、それでいてまず間違いなくダンジョンの魔獣としては最上位クラスの化け物が。

 方や全身が炎のようなものを纏った黒い毛皮、獰猛な表情に不機嫌そうに唸る姿は間違いなく凶悪だと思わせるに充分だった。

 方や逆に全身を冷気のような白い煙を纏う麗美なる純白の毛並み、まるで冷徹にこちらを睨む姿は俺のことを格下と思って蔑んでるようにも見える。


『人間、なぜこのような場所に一人でいる』


 黒い狼の唸り声とともに頭に直接響いた言葉に、俺は恐怖を通り越して驚愕した。魔獣のなかには人の言葉を理解し話せる最上位の存在がいるというのは、この生活をする前に噂話程度に聞いたことがあるが、まさか本当だとは思えなかった。


「その言葉の様子だと、俺がここにいるのは都合が悪いのか?」

『ほう、我が言葉に驚きはしつつもそれについて問い返さない、それだけの胆力は認めよう。そしてその問いも中々に良いものだ、なぁハティよ』

『ええ、そうですねスコル。人の身にしては幼く見えましたが、思考のほうは速い。少しは認めましょう』


 黒い狼(スコル)白い狼(ハティ)と互いを呼んだ二匹の狼は、少しだけ表情を緩めたような気がした。


『その問いに答えよう、都合が悪いのか?と聞いたな。その通りだ、このダンジョンはあと数時間もすれば完全に機能を停止し、消滅する』

『我々は己の生の終わりのためにこの場に来たために、それ事態はどうでもよい。が、そこに事情をしらぬ人の子が居るのなら話は別』

『ダンジョンが消滅した際に中に居た人は本来なら人の理の世に戻されるのがダンジョンの理、しかし、このダンジョンはその理が機能しておらん、しかるに、ダンジョンが消滅すれば主もともに消滅するであろう』

『ゆえの忠告です、用が済んでいるのならすぐにこのダンジョンから出ることを勧めます。人と敵対するのが我々、人が魔物や魔獣等と呼ぶ存在の中の本能といえど、我々個人は人の事を嫌っているつもりはない』


 二体の狼は言うべき事は言った、そういってこちらを見る。それに俺は少しだけ乾いた笑みを浮かべた。


「消滅、か、それも良いかもしれないかな」

『……小僧、少しおかしいとは薄々思っていたが、そもそもなぜこのような殆ど人が来ない寂れたダンジョンの中に居る。それも小僧のみ一人で、『下級猪(デミフレームニル)』のみを狩っていた』

「簡単なことだよ、俺はこのダンジョンの入り口がある誰も来ない廃村で一人で生活してる」


 いや、正確には少し違うか。


「俺はな、いわゆる捨て子……孤児なんだよ」


 別に孤児であること、そのものになんの鬱屈はない。生まれが選べるわけじゃなし、そういうものだと諦めていた。


「俺がこのダンジョンのある廃村に来る前にいた孤児院はそれはもう酷いところでな、暴力も性暴力も当たり前で、飯なんてまともに食えた試しがない」


 暴力や性暴力だけなら、まだなんとかできたかもしれない。子供ながらに色々と手を出して証拠やらなんやらを集めてたことも何度もあった。


「けど逃げ出そうと思ったのは、あの孤児院の職員、裏で孤児を人体実験の奴隷として売ってたのさ」


 それに気付いたのは、証拠集めのために掃除と称して院長の部屋に入ったときだ。たまたま開いていた戸棚にあったその書類を見て愕然とした。しかも、その仲介をしているのが、なんとこの国の司法組織である警察の上層部だったのは絶望でしかなかった。

 だから俺は通っていた学校から孤児院に戻る途中で失踪した。マトモな交通手段なんて使えないから、ランドセルやらなにやら全て捨てて走って逃げた。


「だからここに逃げた、ここは普段は誰も入れないように廃村としては封鎖されてるけど、山道を迂回すれば入るのは簡単だったから」


 ここを選んだのは、寝ずに頑張れば走れる距離で、かつ大人の事情とやらで廃村として解体されていない場所だということをたまたま知っていたからだ。

 勿論それでも孤児院の追手や、警察による捜索なんかで捕まるかもと考えたが、二年を過ぎる頃には誰も来ないことで安心して定住していた。


「だから、別にここで死んだとしても別に後悔なんてないし、誰も俺のことを必要と思って」


 いない、そう言おうとした瞬間、二体の狼が俺の目の前に座った。


『幼き身でそこまでの過酷を味わったのですね』

「過酷……確かにそうだけど、あのまま暴力に晒されてたり、人体実験として売られるよりはマシだし」

『だがそれはそうせざるをえなかったゆえだ。その怒りはなかったのか?』


 その問いに、俺は少しだけ本音を漏らす。


「怒りは勿論あった、けど、この生活をしているうちに、寧ろ一人で逃げたことの罪悪感が強かったよ」


 俺には同じ孤児院で一緒に生活していた幼馴染みがいた。そいつと一緒に逃げることも考えたが、二人で逃げるより一人のほうが簡単だと切り捨てた。

 そして同じ孤児院の仲間たちを捨てたことも、この一人きりの生活で自由を得たことで逆に心を追い詰めた。


「だから決めてたんだ、もし捕まったりなんだりで死ぬのなら、俺はそれを受け入れるし抵抗しない。それが仲間や幼馴染みを捨てた俺ができる、唯一の償いだからだ」


 そう言って俺は懐のポーチから肉と、同時に廃村で見つけていたガスコンロを取り出す。


「なぁあんたら、良かったら一緒に食事でもしないか?俺の最後の晩餐ってやつに付き合ってくれよ」


 俺のその言葉に狼二匹は何も言わず少しだけ俺の表情をみると、大人しく少しだけその場から離れた。

 それを見て俺は取ったばかりのバラ肉を厚切りにカットし、ポーチから塩コショウを少しだけしてからまた取り出したフライパンで焼いていく。

 そしてそれを十枚以上焼き上げ、半分以上乗った大皿を彼らの目の前に起き、俺は近くの樹の側に座り、割り箸を取り出して食べ始める。


「うん、旨いなほんと」


 孤児院で食べていた安物の薄切り豚バラなんかとはまるで違う、猪特有の少しクセはあるが強い旨味のバラ肉のステーキは、シンプルな塩コショウだけの味付けなのに充分な満足感があった。

 そのことは同じように食べ始めた彼ら二匹も同じようで、一口食べたあとは勢いよく食べ始めた。

 そのことに少しだけ嬉しさを覚えながら食べ進め、そしていつしかあれほどあったはずのステーキは綺麗さっぱり消えてなくなった。


『馳走になった』

『美味でありました』

「それは良かったよ」


 満足に礼を言ってくれた二匹に、俺も自然と笑みが出て、この普通ではあり得ない現実に少しだけおもしろく感じた。


『……ハティよ』

『ええ、言わずとも同じ考えのようで、スコル』


 彼らは何かを決めたように徐に俺の前に来ると、スコルは俺の右手に、ハティは逆の左手にその前足を乗せた。

 すると両者の足元からまるで魔方陣のようなものが現れるとともに、両手の甲に不思議なものを感じ始めた。


『我、陽追狼スコルが約定する、我が力の焔牙を汝と結び、汝、その身に掛かる災厄を除く力を与えん』

『我、月追狼ハティが約定する、我が力の氷牙を汝と結び、汝、その身に掛かる呪詛を払う力を与えん』

『『我ら、陰陽の力を結び、汝に降り掛かる不条理、不義理、理不尽を散らす牙とならん』』


 彼らの詠唱のようなものが終わると同時に、手の甲に感じた何かが流れ込み、そしてそれは紋様のような何かに変わった。


「これは……いったい」

『主がもたらした贄の礼よ。こう見えて我らは大神狼フェンリルの血を受け継ぐものよ』

『そんな我らが馳走という贄をもらい、そして何も与えないというのは、神の血を受け継ぐものおしての沽券に関わる』


 そう言うと黒い狼は俺のことを軽く持ち上げてその背に乗せると、二匹揃って入り口のあったほうへ走り出す。


『我らの力の一部を契約として与えた。今はまだそこまでだが、修練すればそのうち強くなるであろう』

『故に人の理へ戻るのです。我々の契約の力に気づき、こちらへ来る者達であれば、おそらく悪いようにはしないでしょう』


 そう言って入り口まで戻ってくると、今度は白い狼がその背から俺を優しく降ろす。


『それではさらばだ、人の子よ』

『願わくば、汝に大神狼の加護があらんことを』


 そう言って立ち去る二体の狼に、俺は色々聞きたいことがあったというのに何も言えなかった。


「こちらは特殊遺物犯罪対策特務課です、未成年無資格遺物侵入、ならびに建造物侵入、銃刀法違反の現行犯で確保、拘束させていただきます」


 そしてダンジョンからでた瞬間、目の前に現れたなぞの少女に拘束されたのだった。

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