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婚約破棄されたので記録係になったら、消されたはずの人々が世界を変え始めました  作者: 月守いとは


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第20話 呼び出し

 その知らせは、これまでのどの書簡よりも静かだった。


 封書ではない。


 簡素な紙一枚。


 だが、その一行が持つ意味は、重かった。


 ――王都出頭命令。


 わたくしは、その文字をしばらく見つめていた。


 予想していなかったわけではない。


 むしろ、いずれ来ると思っていた。


 記録が外へ出た時点で、いずれ「ここだけの問題ではなくなる」と理解していたから。


 ただ。


 思っていたよりも、早かった。


「……来ましたね」


 エドガーの声は、いつも通り静かだった。


 だが、その奥にわずかな緊張がある。


「はい」


 短く答える。


 それ以上、言葉は必要ない。


 内容は明確だ。


 わたくしは呼ばれている。


 理由も、ほぼ明白だ。


 補遺記録。


 削除命令違反。


 そして、それが外部へ流出した件。


 すべてが、繋がっている。


「出頭は、三日以内とあります」


 エドガーが続ける。


 余裕はない。


 準備を整え、すぐに向かわなければならない距離だ。


「同行は」


 少しだけ間を置いてから、彼は言った。


「監査官殿が担当されます」


 その言葉に、わたくしはわずかに目を上げた。


 レオン。


 当然といえば当然だ。


 この件の責任は、彼にも及んでいる。


 監査官として、ここを見ていたのだから。


「……そうですか」


 それだけ、答える。


 感情は、あまり動かなかった。


 不安がないわけではない。


 けれど。


 後悔もない。


 選んだ結果だ。


 その責任を引き受けるだけ。


 それだけだ。


 そのとき。


「準備は」


 低い声が落ちた。


 振り返ると、レオンが立っている。


 いつも通りの姿。


 だが、わずかに空気が違う。


 これまでの「観察者」ではない。


 今は、同じ側に立つ者。


「明日、発つ」


 短く言う。


 決定事項だ。


「必要なものをまとめておけ」


「承知いたしました」


 わたくしは頷く。


 レオンはそれ以上何も言わず、わたくしを見ていた。


 その視線には、これまでになかったものがある。


 測るのではない。


 確認でもない。


 覚悟を見るような。


「……理解しているな」


 やがて、そう言った。


「これは、ここでの議論とは違う」


「はい」


 わかっている。


 王都では、ここでのような対話はできない。


 あそこには、決定がある。


 権力がある。


 そして、結果がある。


「言葉では済まない」


「はい」


「処理される可能性もある」


 その言葉は、はっきりとしていた。


 曖昧さはない。


 つまり。


 わたくしの行為は、「是正される対象」になる。


 それでも。


「承知しております」


 わたくしは答える。


 それ以上でも、それ以下でもない。


 レオンは一瞬だけ目を細めた。


 その表情は、ほんのわずかに変わっていた。


 理解か。


 あるいは。


 諦めか。


「……そうか」


 短く言う。


 それ以上は何もない。


 けれど。


 その一言で、十分だった。


 わたくしは机へ戻る。


 帳簿を開く。


 筆を取る。


 まだ、時間はある。


 出発まで。


 その間に、できることはある。


 書く。


 残す。


 それは変わらない。


 たとえ。


 これが最後になるとしても。


 その可能性を、否定することはできない。


 けれど。


 だからこそ。


 わたくしは、筆を動かす。


 ここにあるものを。


 ここにあったものを。


 残すために。


 外へ行く。


 王都へ。


 そこで、何が待っているのかはわからない。


 けれど。


 ひとつだけ、確かなことがある。


 わたくしは、もう。


 選んでいる。


 だから。


 その先も、同じように選ぶだけだ。


 静かな文書庫の中で。


 わたくしは、最後まで筆を止めなかった。

読んでいただきありがとうございます。


ついに舞台は「王都」へ移ります。


ここからは、

静かな文書庫とは違う“現実の場”での対立になります。


セシリアの選択が、

どこまで通用するのか。


そして、何が問われるのか。


ここから一気に物語が加速します。


ぜひブックマークして続きを追ってください。

ここからが最大の山場です。

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