36話 安里翔
「まずい!魔物達に気付かれてしまった!」
周囲を見渡すといつの間にか、城の入り口に魔物の群れが集まり始めていた。
「仕方ない。私の剣を貸すからこれを使え。退路を塞がれてはこのまま突っ込むしか無いな。」
魔王は持っていた剣を俺に渡した。
魔王の剣は俺がいつも装備している勇者の剣よりも格段に軽かった。
こんな剣で魔物を斬る事が出来るのか心許なかった。
「この剣、軽過ぎやしないか?」
「何を言っている。他の剣に比べて寧ろかなり重い方だ。」
「そうなのか。それより、アンタは剣無しでどうするんだ?」
「私は魔法で何とかこの場を切り抜ける!ここから一気に玉座まで駆け上がるぞ!」
俺と魔王は止まる事無く一気に城門を越え、城の中へと飛び込んだ。
城までの道のりで、俺は無我夢中で多くの魔物を斬った。
不思議な事に、魔王の剣は何の力を入れなくても一振りするだけで、あっさりと一遍に多くの魔物を倒す事が出来た。
今までの戦闘で魔物と遭遇した事があったが、こうも簡単に倒せた事など無かった。
「凄いなこの剣。俺がいつも使っている勇者の剣とは大違いだ。」
「勇者の剣だと!?」
魔王が驚いた表情で俺を見つめた。
その余りの驚き振りに俺の方までビックリしてしまった。
「やっぱり名前の通り凄い剣だったんだな。
見てくれ、勇者の鎧と勇者の靴に至っては今こうやって装備してるんだぜ。」
「君は今までずっと、これらの装備を使っていたのか?」
「ああ、そうだぜ。」
「一つ聞くが、その装備はどうやって手に入れたんだ。」
「本当は秘密にしておきたい所だけど、アンタには命を助けて貰ったから特別に教えてやるよ。
モンスター村に向かう旅の途中で勇者村って所を見つけたんだ。
何でもそこには、昔伝説の勇者が居て、村の外れにある小高い丘に、その勇者が巨大な竜を倒した時に、大地に突き刺した伝説の剣ががあるって言うんだ。
その剣は選ばれし者にしか抜く事が出来なくて、剣を抜けた者こそ二代目の伝説の勇者だって言うんだ。
俺は村人からその丘に案内されて、剣の柄を握って思いっ切り力を込めたんだ。
すると、剣はあっさりと抜けたんだぜ。
それで、土地の所有者から剣を売って貰ったんだ。
剣も買ったんなら、他の装備もどうかと言われて勇者の鎧と勇者の靴もそこで一緒に買ったんだぜ。
途轍もなく高い金を払ったけど、伝説の勇者の装備一式だから良い買い物をしたと思ってるんだ。」
「そうか・・・。勇者村でその装備を入手したんだな。」
魔王はどこか哀し気な表情で俺の勇者の鎧と勇者の靴を交互に見つめた。
「いいか、落ち着いて聞くんだぞ。
勇者村ってのは有名な観光名所なんだ。
お前が剣を抜いた後も、また別の剣が勇者の剣として、その小高い丘に刺さっているだろう。
あの村はな、巷では悪徳商法村と呼ばれているんだ。
以前は良心的な値段で土産品を販売していたが、次第に村人達は欲深くなり、観光客に高値で強引に売り付ける様になったんだ。」
「土産品?・・・。まっ・・・まさか!?」
「そう。君が装備していた剣は別名、勇者の巨大文鎮。鎧と靴は勇者の漬物石と呼ばれている土産品なんだ。
無駄に重いだけで、何の殺傷能力も防御力も無い代物だ。
しかし不思議だ、よくそんな使い物にならない装備で敵を倒し、今まで生きて来れたな。」
「嘘だ・・・そんなの嘘だーーー!
剣が抜けた時は村人達は涙を流して一緒に喜んでくれたんだ。
剣が刺さっていた丘をバックに村人全員と集合写真まで撮って、またいつの日か平和な世が訪れたら、村に戻って来ると、固い握手まで交わして、永遠の友情を誓い合ったんだ。
クソーーー!まんまと騙された!アイツ等は根っからの詐欺師集団だったのか!」
「落ち着くんだ。今は敵陣の真只中だぞ。嘆いている場合では無いだろ。」
ああそうだった。
今は魔物達にいつ襲われても可笑しく無い状況だった。
だけど今の俺にとって、玉座を目指す事はどうでも良い事へと変わってしまっていた。
湧き上がっていた士気は下がり、代わりに激しい復讐心が込み上げて来た。
"今すぐ世界中の観光客の為に、勇者村へ向かい、あの詐欺集団に制裁を加えねば・・・"
「魔王、すまないが、俺は玉座に行く前に選ばれし勇者として、どうしてもやんなきゃなんない使命を見つけてしまった。」
「おいっ!待て!一体何を考えているんだ?」
俺は踵を返し、勢い良く元来た道を走り出した。
「待ってろよ!詐欺集団共!!!」