34話 安里翔
この世界にそんな秘密があったなんて知らなかった。
魔王こそがこの世界を救った真の英雄ではないだろうか。
「私はそんな話信じられない!それじゃ、何の為に私達は今まで戦って来たの!」
「これは儂の個人的な考えだが、何もかもが得体の知れない者によって仕組まれた事の様に思うんじゃ。
一時は休戦状態となった人間と儂達の間に、どの時代にも必ず争いの火種を撒く者が現れる。
今回の一件もその様に思えてならないんじゃ。」
確かに、不自然な事があった。魔王が火球を出した時に、恐怖の表情を滲ませる兵が多い中、薄笑いを浮かべる奴を何人か見た。
そいつらは、まるでこうなる事を望んでいたかの様だった。
モンスター村に立ち寄った軍隊がそこで皆殺しに遭ったとなれば、人間達の憎悪の対象はモンスターへと注がれる。
「そうか・・・もしかして、それを確かめる為に魔王はヴァリア城へ向かったのか・・・」
「翔、今何か言った?」
「いや、何でも無いんだ。」
「それと、これは私達にとって、とっても重要な事なんだけど、村長にどうしても聞きたい事があるの。」
「そうじゃったな。お前さん達はその為に、ここまで来たんだったな。」
「三年前にこの村の付近で巨大な光の柱が現れたって聞いたんだけど何か知りませんか?」
「三年前か・・・
ああ思い出した。村の奥に古から伝わる遺跡があるんじゃが、原因は分からんが、そこから放たれた光だったんじゃ無かったかのぅ。」
「ありがとう村長!それじゃ、早速、遺跡に行くとするか。アリシア!イワン!」
「翔!大変よ!今まで気付かなかったけど、イワンの姿が見当たらないわ!
まさか魔王の火球の巻き添えを喰らったんじゃ・・・」
「アリシア!翔!その心配は無用だ!」
戸棚の中から聞き覚えのある声が聞こえた。
すると、戸棚の奥から何と綺麗な体のイワンが飛び出して来たのだ。
「俺はこの通り無事だ!お前達が無謀にも軍隊と戦う直前に、この村で一番安全そうな家を見つけて、ずっと身を潜めていたんだ!」
「イワン・・・あんたって人は・・・」
戦闘で傷だらけでボロボロになっていたアリシアが目に涙を溜めてイワンに近付いた。
「そんなに俺の事を心配してくれていたのか!安心しろ二人共、俺はこの通り掠り傷一つ負って無いぞ!」
"ボフッ"
アリシアがイワンの丸々太った腹に右ストレートを放った。
イワンは痛さの余り、膝から崩れ落ち、何で殴られたのか訳が分からず、キョトンとした顔でアリシアを見上げた。
「この裏切り者!二度と私達の前に姿を現わすんじゃなわよ!」
「待ってくれ!一体俺が何をしたって言うんだ。どっちかと言うと何もして無い方だぞ!」
「今まで仲間だと思ってたのに、私達を見捨てて一人だけ逃げるなんて信じらんない!」
「誤解だアリシア!俺は・・・そうだ!敵に奇襲を掛けようと思って、ここで様子を伺ってたんだ!」
「イワン!苦しい言い訳はよしてくれ!こんな離れた所からどうやって様子を伺うってんだよ!」
「うぅぅぅ・・・俺は悪く無いからな!いくら止めても、お前達が勝手に戦うって言ったんだからな!」
「もう良いよイワン。戦いは誰かに強制されてするもんじゃ無いし。アリシアも、許してやってくれないか?」
「全ッ然、納得行かないけど、翔がそう言うんだったら仕方ないわね。」
「つまりは、俺は全く悪く無かったって事だよな?」
「まあ、そう言う事でいいよ。」
「ハッハッハッハッハー。それならばアリシア!
お前は何も悪くない俺を殴った訳だから、地べたに頭をしっかり擦り付けて俺の許しを請うのが筋じゃないか?」
「はぁ?何言ってんの。」
「許してやってんのは私達の方なのに、何でそんな事しなきゃいけないのよ!やっぱりアンタここから居なくなってちょうだい!」
「イワン!ややこしくなるから、お願いだから、もうこれ以上何も喋らないでくれ!」
イワンは何か言いたそうだったが、堪えている様子だった。
ただでさえ、ここまで辿り着くのに三年掛かったのに、これ以上、不毛な争いに時間を浪費していられない。
「二人共、俺達はこれから光の柱が出現した遺跡に行く!それでいいな?」
俺達は村長が手配してくれたガイドと共に、村の近くの遺跡へと向かった。
ガイドの話によると、遺跡は例の光の柱の影響なのか、三年の間に崩落が進んだと言うのだ。
俺達はその瓦礫の中からセシルに繋がる手掛かりを探す事にした。
しかし、いくら探してもそこから手掛かりらしい物は何一つ見つからなかった。
「三年も掛けてやっとの思いで辿り着いたのに、こんな結果になるなんて・・・
私達のこの三年間は一体何だったの?この無駄な三年間は・・・
ねぇ・・・誰か教えてよーーー!」
アリシアは茫然自失としていた。
俺はそんなアリシアを見てられなかった。
「アリシア!頼むから、この旅が全て無駄だったなんて思わないでくれ。
俺達三人で過ごしてた日々が、全て無駄だったってのは悲しすぎるよ。
今までも苦しい事も沢山あったけど、三人で乗り越えて来たじゃないか。
俺はセシルの代わりにはなれなかったけど、この三年間で二人とは本当の仲間になれて嬉しかったんだぜ。」
「翔・・・そんな事言ったって・・・」
俺はアリシアがこれ以上絶望する姿を見たくなかった。
何とかアリシアを元気付ける事が出来ればと思い、擦り傷だらけになりながら、必死に瓦礫の中から手掛かりを探し続けた。
しかし、その努力も虚しく何も見つける事が出来なかった。
こんな時は、年長者である事しか取り柄の無いイワンに、アリシアを慰めて貰おうと思い、イワンを探した。
するとイワンは腰が痛いと言ったきり、ずっと作業をせずに休みっぱなしで、木陰に生えたキノコを美味い、美味いと言いながら食べていたのだ。
「イワン!やっぱりアンタ、俺達の目の前から今すぐ消えてくれ!」
「えっ!?」
イワンが驚いた表情で手に持っていた大量のキノコを落とした。
「一人で全部食べようと思ってた訳じゃ無いんだからな。
ちゃんとお前達にも分けようと思ってたんだから。」
イワンの目は明らかに泳いでいた。
"この世界の事を知りたければ、明日の朝、一人でヴァリア城を訪ねて来ると良い・・・"
俺は決意を固めた。




