おまけ
ある日のイリスとユアンの会話。(ユアン視点でお送りします)
「ねぇユアン。あの時私を連れ出したのは陛下の覚悟を決めさせる為の芝居だったようね?」
いつも通りの聖女のような微笑みを浮かべながら問いかけてきた主にユアンはギクリと肩を上げた。
「…なぜそれを?」
「噂好きの侍女達が話していたわ」
彼女達の情報網はすごいわねぇ。と暢気に紅茶を啜る主。
だがユアンは余計な事をベラベラと喋ってくれた自分の姉でもありイリスの専属侍女でもあるユリアに心の中で悪態をついた。
彼女が侍女達の中のリーダーで一番の情報通だからだ。
「左様でございますか…(絶対わざとだな、あの女)」
ユアンの姉であるユリアは弟の恋愛事情などすぐに分かったらしい。
そしてそれをネタに脅された事もしばしば。…なんて今この場にいない人の事を言っていても仕方ないのだが。
ユアンは再度大きなため息をつく。
「 あの台詞も、陛下の本心を引き出す為にわざわざ考えてくれたものだったのね」
「…」
「嘘でも嬉しかったわ。だってあんな事言われたの初めてだもの」
「…決して嘘ではなかったのですがね…」
「え?なにか言った?」
危ない危ない、とユアンはわざとらさく咳払いをして話を変える。
「いえ。何も言っておりませんよ。ではそろそろ陛下が参られると思いますので私はこれで失礼いたしますね」
そうだ、もうじき陛下がやってくる。
情けない程顔を緩ませながら。
和解してからの陛下のイリス様に対する溺愛ぶりはそれはそれは目を見張るものであった。
どこにいくのにも必ず護衛(私ではない)をつけさせ、休憩時間になったら必ずイリス様の元へとやってきて宰相が呼びに来るまで離れようとしない。
口付けだけならまだいい。侍女達も見慣れたようだし、最近は黙って部屋を出ていくようにもなった。
だがあれだけは…あれだけはどうしても慣れない。
その光景を思い出したユアンは片手で顔を覆った。
「また話相手になってね?」
…その上目遣いはやめていただきたい。
君を前にすると強固だと思っていた理性が簡単に崩壊しかけてしまうのだ。
もしこれを陛下の前でやったのなら…
ゾッとして思わず自分の腕を擦った。
―きっと最低でも3日は寝室から出られないであろうから。
何せあの後だって1週間も寝室に籠っていたのだ。
1週間ぶりにようやく見れた主の顔はそれはそれは可哀想なもので、侍女の何人かが鼻をすすっていたぐらいだ。
それを再び経験させるとなると…
いや、駄目だ。
この小さな身体にはあまりにも厳しすぎる。
「イリス様、あまりその顔は陛下に見せないようにしてください」
「へ?なんで?」
自分の仕草や行動の一つ一つが男の理性を擽る事を天然なこの姫は知らない。
だからユアンは忠告する。
「いいですね?」
「う…。よく分からないけど、わかりました」
「よろしい。では私はこれで失礼いたします」
「ありがとう、ユアン」
「…とんでもございません。では」
―パタン。
「ふぅ…」
主の部屋を出たユアンは盛大な息を吐いた。
「やはり幼なじみですね…」
淡い恋心は失恋という形で失ってしまったが、それでも今後も主を守っていく事に変わりはない。
ある意味で誰よりも傍にいれる。
今はこの特権を大いに使おうではないか。
「…さて、腕鳴らしといこうかな」
そう独り言を呟き、ユアンは愛しく大切な主の部屋を後にしたのであった。
おまけ、end.
ちなみにユアンが思い出した慣れない光景というのは膝枕です。
イリスの膝の上に緩みきった顔の陛下が寝転がる場面です。
陛下の威厳がなくなる瞬間でもあります。
ちなみに4ページ目の陛下の「行くな!」という台詞。
実はイリスが歌っている歌は愛する者との別れを告げる歌で、自分が死んでしまうという歌なのです。
だから陛下は行くなと言ったんですね。
以上で本当の終わりとします。
拙い文章を読んでいただきありがとうございました(*´∀`*)