潜入開始!
「甘いカクテル二つもらえる?」
アメリアはカウンターにノリノリで注文すると俺の耳元に顔を寄せてくる。
「君は飲まなくていいから」
それを言って顔を離すとウインクする。慣れてるなあ。
テーブルにグラスが置かれる。中には青いカクテルがあり俺たちは乾杯した。アメリアはそれを一気にあおり俺はグラスに口だけ付けて飲まずにテーブルに置く。
「いやあ、久ぶりだなあ、こういうの。昔は友達とちょくちょく行ってたりしたんだけどね」
こうして一緒にいるだけで彼女が場慣れしているのは分かるし、明るい彼女なら友達は多いだろう。
「聖治君は付き合わせちゃってるね」
「いや、俺も目的はあるし」
「でもこういうのは初めてでしょ? 正直君がいてくれて助かったよ。ほら、私だけじゃ目立っちゃうでしょ? ナンパもあって動きづらいだろうし。だから君がいてくれると楽なのよ」
そういうことか。
「だから助かっちゃった。ありがとね」
隣の席に座るアメリアは空のグラスを回しながら俺をじっと見つめていた。
「俺の方こそ、その、いろいろ教えてくれて助かったよ」
「可愛かったよ」
「え!?」
「ふふ」
絶対からかわれてるよね!?
アメリアの笑みに俺は少しだけムッとしたがそんな反応すら面白そうに彼女は笑っていた。
「そろそろ移動しよっか」
アメリアは俺のグラスを取るとこれも一気に飲み干しカウンターにお金を置き席を立つ。俺も席を立ちダンスホールから出て通路、そこにあるトイレ前に来た。ここは静かで今は俺たちしかいない。
「どうだった? 初めてのお店は?」
「複雑」
「もーう、ごめんね?」
そう言って俺の肩に手を置いてくる。可愛らしく言えば許されると思ってるだろこの人。
「それじゃあそろそろ本題といこうか」
ついにか。いろいろどきまぎしてしまったが俺たちは遊びに来たんじゃない。ここの調査だ。
アメリアは手を伸ばすと俺の耳に触ってきた。
「なんだよッ」
いきなりなにしてんだ、またからかってるのか?
「ううん、今君の耳に付けたの。分かるかな?」
アメリアは自分の耳を指で触る。それで俺も触ってみるが確かに耳たぶになにか付いている。
「それは私のクモだから」
「ぎゃああああ!」
クモかよこれ!? ちっちゃクモ付いてるこれ! でも触った感じ金属ぽかったぞ?
「あー、取ろうとしちゃダメ。ピアスみたいでしょ? ほら」
アメリアは手鏡を出すとそれを俺に向けてくれた。それで見てみると確かにクモが耳たぶにしがみつく、そんなデザインをしたピアスに見える。メタルシルバー色で目のところが赤い。
「それは私の能力、オーバーウォッチ。小さなクモや鳥、ネズミなんかを作って操れるの。それと知覚共有が出来るんだ。声だって出せるんだよ。聞こえる?」
最後の『聞こえる?』というセリフだけクモから聞こえた。なるほど、これは便利だな。モニカはバリバリの戦闘向き能力だったが彼女は情報収集向きということか。この任務の適任じゃないか。
「実は店に入った時から偵察を送ってて店の様子を見ていたの」
俺たちが踊っている間にそんなことを? ただ遊んでたわけじゃなかったのか。
「それで地下に気になる部屋があって。私がそのピアスでナビするから聖治君にはそこに行って欲しい」
「分かった。でも俺が行ったところでどうすれば」
行くのはもちろん構わないのだが鍵は掛かって入れないだろう。俺が行ったところで意味がないと思うが。
「出来れば、鍵を壊してでも中に入って欲しい」
「おいおい。さすがにそれは」
「そこだけ結界で守られてるの」
瞬間、意識が切り替わる。見ればアメリアも真面目な顔をしていた。
「分かった。教えてくれ」
俺とアメリアの間で理解が繋がった。
アメリアは女子トイレの個室に入りそこから周囲を見張りつつ俺をナビしてくれる。耳から聞こえるクモの音声に従い俺は通路を歩いて行った。
『そこを右に曲がって。そのまま奥の階段から下に降りて欲しい。ちょっと待って、人が来る……。今よ、進んで』
彼女のナビは完璧ですべてを見張っているようだ。とはいえいつバレるか分からない状況は緊張する。
俺は彼女の案内のまま進んでいき地下へと来ていた。ここは客用ではなく従業員用の部屋や倉庫代わりのようだ。それだけにここで見つかったら言い訳出来ないな。
上の騒々しさとは反対にここは静かだ。一つの物音だけでバレかねない。
『例の部屋はその奥よ』
手早く済まそう。俺は指示された場所に小走りで近づく。
その扉は他とは違い鉄製でできており鍵がドアノブの上に二つ、下に一つ、三つも付いている。いかにも怪しい扉だ。
『その結界は解かないと扉が開かない仕組みになってる。君は特戦が作った結界すら破壊してみせた。ここでもそれをして欲しい』
ついに来た。ここに悪魔召喚師の手がかりが。
「防犯カメラは?」
『大丈夫、すでにハッキングしてダミーが流れてる』
よし。未来での戦い、それがこの扉一枚で変わるかもしれない。
俺は改めて周囲を見渡し誰もいないことを確認してからシンクロスを取り出す。それを扉に近づけた。小さくパリンと割れる音が聞こえこれで結界は壊れたはず。
『結界が壊れたのを確認した。待ってて、あとはこっちでやるわ』
こっち?
どうするつもりだと思っていると襟からなにかが這い出てきた。それが腕から手に向かっていく。見るとゴキブリだった。
(ひぃいいいいいい!)
やばい! 悲鳴出ると思った! てかなんだよこれ!? あれか、肩触られた時か? あの時仕込まれたのか!?
アメリアの異能、オーバーウォッチの一つであるGが扉の下の隙間から入り込んでいく。これなら鍵を壊す必要もない。
「どうだ? 中にはなにがあるんだ?」
俺からでは分からない。アメリアにはなにが見えているんだ?
『しまった』
「は? なに? どういうことだ、なにがあったんだッ」
しまったってどういうことだよ?
唯一この向こう側を知るアメリアの声が、初めて動揺している。
『掴まされたッ。ここはダミーよ! 聖治君、すぐにそこを離れて。ここにはなにもない、ただの倉庫よ!』
「なに?」
「おい、なにをしてる」
振り返る。そこにはスーツ姿の男が立っていた。まだ若い、耳にインカムがあるし従業員か?
『聖治君? どうしたの? なにかいるの?』
アメリアに見えてない? 何者だこいつ。
「えー……っと、迷っちゃって」




