もしもし
『出た出た出た。出たわこれ。もうどうでもよくなってる。私のことより遊び優先よ。むしろ私が遊ばれてる』
なんだそりゃ。
「そう言うなって。ほんとはみんなと遊んでさ、その話でも聞かせてやろうかと思って。ほら、寝たきりだと虚しいだろ? みんなとの話を聞けば元気出るかと思って」
『はあ? え、待って待って待って? なに? 病気で休んでる人に健康で遊んだ話聞かせてそれで元気が出ると思ったの?』
「うん」
『それでやる気が出るなら、ダイエット中の人の前で食事の話してみろよォオオオオ!』
そんなこと言うなよ~。
『私だってみんなと遊びたかったのに悔しいぞォオオオオオオ!』
「それはほら、元気になったら今度は香織も一緒に行こうぜって励まそうと思ってだな」
『ちくしょー! みんなは私のいないところでお楽しみなんだァアアアア!』
「変な言い方すんな」
なんだお楽しみって、実際楽しかったが。
「悪かったよ、仲間外れにしたのは。その代わり差し入れがあるんだ、高山屋で勝った高級ゼリーだぞ? ぶどうとか桃とか、シャインマスカットのやつもある」
『マジで!?』
「マジだ。今持ってる」
テンションたか! でも喜んでくれてる、買ってよかった。
『めっちゃ優しいじゃん! サイコ―かよ私の彼氏。世界最強なんだけど! チュー、チュー!』
「え、なに? ゼリー食べようとしてる?」
『んなわけねーだろ! キッスだわボケェエエ!』
「分からねーよ! 電話越しにゼリー啜ろうとしてるのかと思ったわ」
『そんなわけないでしょ! 怖いでしょ突然電話越しにゼリー啜り出したら!』
「違う病院紹介しようかと思ったわ」
『なんだ違う病院って! ちがわねーよ!』
「はははは」
ほんと、こうして話してるだけで楽しい……。
「めっちゃ元気じゃん」
『君のせいなんですけど~~~~???』
「ははは」
姿は見えないけれど、こうして声を聞こえるだけで満たされる。
「とえあえず大丈夫そうだな。明日は学校来れるのか?」
『うーん、実はこれでもまだちょっとだけ熱があるんだよね。朝次第だけどもしかしたら休むかも。早く聖治君と会いたいんだけどな~』
(それは、俺もだよ)
数日会っていないだけで俺も正直寂しく感じてる。俺だって本音では会いたいよ。
「まあ、治りかけが一番大事なんて聞くからな。今はゆっくり休めばいいさ。会うにしたって、元気な香織と会いたいしさ」
『そっか、……そうだよね』
早く彼女に会いたい。だけど急いで病気が長引いては欲しくない。もどかしいけれど、会うのはもう少し先か。
しんみりとした雰囲気が電話越しにも伝わる。けれどそれ以上に満たされていた。
「それじゃあ今から地下鉄乗ってそっち行くからさ、ゼリー持っていくよ」
『うん、ありがとうね。待ってる』
「じゃあな。愛してるよ、チュ」
『チュ』
それで通話を切った。スマホをポケットにしまう。
「はあー」
なんて言うんだろ、こういう気分って。たぶん、幸せって言うんだろうな。ほんと、今までの人生では信じられないくらい気持ちが満たされている。もう幸せオーラが許容量を超えて爆発しそう。もうこの気持ちのまま死にたい。いや、死にたくないけど。
(あれ)
そこで疑問が浮かぶ。
(俺の今までって、『どっち』だ?)
地下鉄に向かっていた足が止まる。自分の過去を思い出そうとしてそれが二つあることに気が付いた。
「…………」
いや、俺は俺だ。星都や力也の友達で、香織や此方、日向ちゃんとセブンスソードを生き抜いた。それが俺の人生だ。
そう確信して、ふと気が付いた。
俺の目が、夜空を見上げていることに。
いずれ来る、破滅を見張っていた。
俺たちの戦いはまだ終わっていない。この世界はまだ救われていないんだ。
このままではこの時代にも悪魔は襲ってくる。今度こそ俺たちは勝つんだ、悲惨な未来を知っているからこそそう思う。崩壊した街並み、放置された死体。逃げ惑う人々と残党狩りの悪魔。




