そして表舞台へと
「最後に一点、最近悪魔召喚師の活動が活発になっている件について」
資料は以上だ。これに関しては口頭のみ。
「神野か?」
「その影響なのかはまだ判明していませんが、未確定ながらどうも支援者がいるそうです」
「支援者?」
また嫌な話が飛び込んできた。
「悪魔召喚を行うにしても場所と物がいる。それらを用意するのは簡単じゃない。そこに支援とは。見返りになにを欲しているのか。金持ちの考えることは分からんね」
「はい。金銭面での援助を行っているそうで。最近の活動はそれが理由にあるようです。まったくもってふざけた話です。知らなければ善良な市民でしたでしょうに。悪意というのはこうも簡単に伝染するものかと嫌になります」
悪魔召喚師の支援者。厄介だ。金銭に余裕があるなら社会的地位が高い人物のはず。それがバックにいると動きづらい。政治的なしがらみは御免だというのに。
「もしくは別の狙いがあるのか……」
「別、ですか?」
賢条は考える。その中には身内が敵になる可能性もあり賢条の表情は一層険しい。
「特定出来そうか?」
「かなり巧妙な手口ですが、接触する機会を捉えられれば」
「ふむ」
牧野からの報告はこれでお終い。それを示すように頭を下げる。これらを踏まえてどうするか、それは室長である賢条の仕事であり腕の見せ所。とはいえこれだけの難事件をいっぺんにというのは頭が痛くなる話だ。
牧野もそう思ったのか机に並ばれた資料に冷たい目を向ける。
「懸念事項が山積してますね。どれも無視出来ませんが。よりにもよってこれらが重なるとは」
本当に。ただでさえ忙しいのにこれほどの大事件の連続は不運と言える。
「牧野」
「はい」
それは単なるぼやきであった。少しだけ空気を軽くするための。しかし賢条の言葉に緩みはない。
「大事なのは、違和感だ」
机に両膝を立て顎を両手に乗せる。
「僕はね、これはむしろ必然だと感じているよ。勘だけど」
「勘、ですか」
その目は並べられたファイルを静かに見下ろしている。そこには一見繋がりはない、点と点だ。しかし、そこになにか、この男は別のものを見ている。
「これほどの異常、それが重なることになにか理由があるとは思わないかい? その糸は隠れていて今は見えないが」
神野とモニカの来日。さらには国内で発生した時間異常。これらは一見なんの関係性も見えてこない。
しかし、無関係な事件がこうも時間的近似に起きるものなのか。
その微かな違和感を、この男は見逃さない。
「裏では繋がっている、と。時期の重なりは確かにタイミングが近いですが」
「違和感とは積み上げてきた判断基準に差異が生まれた時に生じる。もちろんただの勘違いの場合もある。が、僕にはこれがすべて偶然とは思えなくてね」
賢条は直感していた。そして牧野もこの男が判断を誤ることはないと知っている。
これらは関係している。その可能性に引き締めていた心を牧野はさらに固くする。
「分かりました、その線も含めて調査していきます。では、私はこれで」
「ん」
もう一度会釈して牧野は部屋から出て行った。ここは賢条だけになる。
日本に蔓延る異常事件の数々。それを失敗した時の被害は計り知れず、そのためにも特戦の戦いは終わらない。
「それにしても」
賢条はソファを回し背後の窓を見上げた。
思案するのはさきほどのこと。その一つを取り上げて、これらの繋がりを思い描く。まるで、星と星を結びつけ星座を描くように。
ここに、点と点が繋がろうとしていた。
「誰なんだろうねえ、『三回もタイムリープ』するような危険人物は」
彼のデスクには『時間異常・意識転移について』と書かれたファイルが置かれていた。
特異戦力対策室。それは日本政府が誇る対異常組織。この国が古来より紡いできた厄払いの末裔。
ゆえに彼らは把握していた。
この国で、タイムリープをが行われたことを。
ぞろりと、特戦の手が差し迫まる。
ある、一人の少年に。
これはその始まり。時間異常を排除するために彼らは動く。
彼らは今日も暗躍する。この国と人々の安全を守るため。
まだ見ぬ明日に、賢条の瞳が眼鏡の奥で鋭く光っていた。




