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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
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思い上がるだと? 滑稽だな。団長として君臨していた剣聖グレゴリウス。その座を継ぐどころか足下にも及ばない分際で他人を見下す余裕があることだけがお前の取り柄だ、エルター

「く!」


 足がこれではかわせない。矢に合わせて刀身を盾にする。

 が、そこで矢が曲線を描いた。

 軌道が、変わった!?

 まるで蛇の動きのようにうねると矢はパーシヴァルを持っていた腕に突き刺さった。


「ぐうう!」

「それもなさそうね」


 加わる激痛に膝を突く。撃った後で矢が動きを変えてきた。


「矢の、遠隔操作……?」


 それで俺がかわした矢を操って再度狙ってきたのか? くそ。油断していたのは俺の方だった。それならかわすのではなくすべてたたき落とすべきだった。


「遠隔操作?」


 と、女が話しかけてきた。


「そう。もしそうならすべて防ぐなり打ち落とせていればあるいは勝機があったかもしれないけれど。残念だけどそれは無理な話ね」

「なに?」


 遠隔操作じゃないのか? でも、今のはどう見ても矢を操ったようにしか見えない。


「むしろ私にそんな器用な真似できないわよ。出来るのは狙った獲物に絶対に当てること」


 女は矢を浮かべ見せつけるように手のひらに置いた。 


「因果の逆転。結果を確定させ対象を撃ち貫く必中だけよ」

「絶対命中……!」


 それがこいつの能力だったのか。

 因果の逆転ってことは、原因があって結果があるのではなく、結果が先に決まってから原因が生まれるということだ。やつは矢が命中するという結果を作ってから矢を射った。それなら俺がなにをしようが結局は当たってしまう。抵抗は無意味だ。俺に当たった矢はそれを使っていたのか。


「自分から能力をバラすのは二流のやることだって偉い人が言ってたぞ」

「もうすぐ殺される小物が言いそうなことね。心配しなくてもばれたところでどうこうなるものではないわ。強いて言うなら、恐れをなして私の前に現れる的が減るだけよ」


 自信家が。でもそうだ。かわしようも防ぎようもない攻撃なんてめちゃくちゃだ。弓矢の特性もあって一方的に攻撃することだってできる。


「どのみち君が逃げられる可能性はゼロだった。私も収穫がなく残念だったけれど暇を潰す慰みにはなったわ」


 くそ。


「それじゃ。さようなら、坊や」


 そんな。ここで終わりなのか? みんながせっかく繋いでくれたのに、俺はこんなところで。


「ふざけるな!」


 体が悲鳴を上げる。それを思いで押さえつけた。

 俺は負けない。負けられない。みんなとの約束があるんだ!

 片手でパーシヴァルを構える。なんであろうと諦めるわけにはいかない。

 管理人の矢が発射される。光の矢は俺の顔面へと向かいまっすぐに向かってきた。

 これを防がないと、俺は死ぬ!

 その時だった。

 白い服が舞い降りる。外套の裾を夜に靡かせて、紫の刀身が矢を打ち落としていた。虚空に黒のオーラが刻まれ消えていく。


「貴様」


 突然の乱入者に管理人が忌々しくつぶやく。その登場に俺も唖然となった。

 なぜならば、そこにいたのは。


「魔来名……」


 俺が倒すべき敵である、魔堂魔来名だった。


「どうして」


 俺の前には魔来名の後ろ姿がある。見間違えることはない。白いロングコートに金色の髪。なにより黒い刀身の日本刀。ロストスパーダ、天黒魔(あくま)

 最後のスパーダが、目の前にあった。


「どういうつもりかしら。なぜ私の邪魔をする?」

「邪魔か」


 管理人の追求に魔来名がつぶやく。俺もどういうことか分からなかった。

 助けた? 魔来名は俺を助けてくれたのか? でもどうして? そんなことする理由はないはずだ。


「お前の行動はセブンスソードと矛盾している。まさか目的を忘れたわけではないでしょうね」


 管理人のフードの下から鋭い視線を感じる。もし虚偽でもつこうものなら一瞬で矢を放たれるような気迫だ。

 だが、この男には一切利いていなかった。


「ふん。安心しろ、目的なら忘れていない。そのための行動だ」

「なに?」


 平然としている。これほどの威圧の中そよ風になでられているくらいにか感じていない。


「俺の目的はただ一つ。力を得ることだ。お前と戦ったことはなかったが目的のためだ。死ぬがいい、エルター」


 そう言われ管理人の女性はフードを脱いだ。

 紫色の髪が現れる。年齢は三十代ほどで大人っぽさがある。エルターは外套に収まっていた髪を外に出した。長髪が広がり背中に落ちていった。


「お前が私を倒すですって? ふ。ふふ、ずいぶん思い上がったようね魔来名。お前がどれだけ特別だろうがしょせんはスパーダ。それも一本しか持ち得ない赤ん坊。それではどれだけすごんでも虚仮威しにしかならないわ」


 口では笑っているが苛立っているのが分かる。対して魔来名に動じている様子はない。

 それどころか鼻で笑っていた。


「思い上がるだと? 滑稽だな。団長として君臨していた剣聖グレゴリウス。その座を継ぐどころか足下にも及ばない分際で他人を見下す余裕があることだけがお前の取り柄だ、エルター」

「貴様ぁ……」


 挑発に挑発で返す余裕。なんなんだこいつは。

 魔来名は強い。それは一度戦ったから分かる。俺たちは三人がかりでもこの男を倒すどころか返り討ちにされたんだ。この男の強さはスパーダでもトップクラスだ。

 だが、その魔来名でも相手はあの管理人だ。エルターの言った通り一本の状態で倒せるような相手じゃない。それではセブンスソードが成立しない。

 それはこの男だって分かっているはずなのに、なぜそこまで強気で出れるんだ。


「虫が私を侮辱するか」

「ふっ、いい顔だ。お前もセブンスソードには否定的な側だろう。いいぞ、こい。遊んでやる」

「ふん」


 魔来名の挑発におもしろくなさそうにエルターが鼻を鳴らす。その表情にはさきほどの笑みはなく浮かべているのは殺気とともに放たれる強烈な視線だ。


「待て魔来名、そいつの能力は」


 今にも戦いが始まりそうだ。だがあまりにも危険過ぎる。


「黙ってろ」


 なのだが、魔来名は背中越しにそう言ってきた。


「お前の手など借りずとも十分だ」


 なぜそこまで自信があるんだ。魔来名は知らないが相手は絶対命中の使い手だぞ。剣と弓じゃ相性が悪すぎる。エルターが矢を使うのは見てて知っているはず。

 それでもなお、魔来名に臆する様子は見られない。


「そう、残念ね魔来名。あなたはどうやら我々を過小評価しているみたい。その認識を訂正する必要があるわ。それかそのまま間引きしてしまうかもね」

「御託はいい。合図がなければ殺し合いもできんのか?」


 瞬間だった。

 エルターは矢を発射した。一切の予備動作のない早業。どんな武器でも撃つには構えがいる。それを省略した攻撃。俺に使っていたお遊びのような射出じゃない、本気の攻撃だ。

 だが魔来名をそれに応じていた。天黒魔を鞘から抜き矢を打ち落とす。完全に見切っていた。

 いや、それにしても早すぎる。魔来名は間違いなくエルターが矢を出すよりも先に動いていた。

 察知したのか? エルターの気配や目線から発射するタイミングと照準を推測し、先に迎撃行動に移っていたって? そんな馬鹿な!

 だが安心するのは早い、エルターには絶対命中がある。

 魔来名が弾いた矢が中を泳ぐ。くるくると回る矢だが急に魔来名へと先を向け迫ってきた。


「ん!?」


 それを見逃さない魔来名だが天黒魔は振り抜いている。代わりに鞘で受け止めた。矢は再度宙を回る。

 しかし追撃は終わらない。鞘で弾かれてもなお矢は勢いを取り戻し魔来名を襲う。それは獲物を執拗に狙う猟犬のようだ。

 魔来名は三度目の襲撃に体を反らして回避する。しかしそれに合わせるように矢は軌道を変えた。

 ついに矢が命中する。肩に矢を受けた魔来名から小さく声が漏れた。


「ッ」


 刺さった矢を睨む。矢は光の粒子へと還り消えていくが傷跡はそのまま魔来名に刻まれる。魔来名は傷跡をしばらく見つめてからエルターを見た。

「遠隔操作……いや、それなら二度も防がれる必要がない。直前で軌道を変えれば済むだけだ。にも関わらず繰り返し追撃を行い回避行動には追跡までしてきた。なるほど、どうやらお前の攻撃は防ごうがかわそうが意味がないらしい」


「察しがいいのね」


 緊張が張りつめる。いつ戦況が動き出してもおかしくない雰囲気の中で会話が行われている。


「その洞察力に関してはさすがだと言いたいけれど、その力をもっと前に発揮すべきだったわね」


 エルターの絶対命中は防げない。放たれたが最後当たるという結果に収束する。


「因果律を操作することによる絶対命中。防御も回避も防ぐこと叶わず、結果は必然、死あるのみ」


 相手の防御を無視した一方的な攻撃。対策もあったものじゃない。そうした過程に意味などない。言ってしまえばシュートを打てば必ずゴールが決まるサッカーゲーム。不利なのは言うまでもない。


「ふ、ふっふっふ、はっはっはっは!」


 そんな圧倒的に不利な状況で、なぜかこの男は笑っていた。


「死あるのみ、だと? 笑わせるなエルター。今のが一番利いたぞ」


 どこにそんな余裕があるんだ。正気か?


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