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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
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エピローグ2

 エピローグ2


 光に包まれる。まぶしくて、どこか温かい。目を閉じてこの光に身を任す。音は遠ざかりみなの気配が消えていく。


 世界の再構築。今までの形を蛹の中で溶かし作り替えていくかのように。世界は形を変えて羽化しようとしている。


「ッ」


 瞼の向こうから強烈な光を感じる。音も聞こえるようになってきた。


 駆は、目を開けてみた。


 がやがやと人々が行き交う駅前に駆は立っていた。青空から降り注ぐ日の光が目を刺激する。休日の昼間なのかいつもとりも人通りが激しい。見慣れた世界のいつもの光景。


 駆は自分の服装を確認すると私服に変わっている。整理の追いつかない頭でどういうことなのかを懸命に考える。そもそもどうしてここにいるのか、それが分からない。


「おーい! 駆ー!」


 顔を上げる。人の流れの向こう、こちらに向かって大きく手を振るのが見える。


 それは、一花だった。彼女も私服姿で英語のプリントがされた白のTシャツにデニムのパンツを履いている。人目も気にせず大声を出しているのは本当に彼女らしい。


「遅いぞ駆。私を待たせるとはあんたいつからそんなに偉くなったのよ?」


 慌てて彼女のもとまで行き確認するが間違いなく一花だ。けれど普通の人間にしか見えない。彼女を見て悪魔だと思う人はいない。それほどまでに彼女は自然だ。


 この状況を未だに把握できず唖然としてしまう。


「んー?」


 一花はその愛らしい瞳をつり上げ見つめてくる。どうも一向に謝罪がないことが気に入らないようだ。


 納得できないが彼女の機嫌は自分の生命に関わる。そう言い聞かせ頭を下げる。


「まったく、次からは気を付けなさい。いいわね?」


 頷く。仕方がない。そんなつもりはなかったとはいえ待たせたのは事実だ。ここは彼女の心情に寄り添うのが賢明だ。


「ほら、それじゃ行くわよ。二人とももう待ってるだろうし」


 二人? 誰だろうか。そう思うがすぐに思いつく。そういえばこのやり取りは以前にもしたことがある。


 これは自分と一花、秋和と千歌。四人で遊びに行く約束をしていた日と同じだ。


 駆は一花と一緒に待ち合わせ場所へと向かう。彼女から振られる会話に適当に相づちを打ちつつあの日と照らし合わせる。目に映る光景はまったく同じ。今自分はあの日を繰り返しているんだ。


 そうして進んでいくと遠目によく知っている二人組を見つける。


「まったく、あいつらは」


 一花も目に入ったようで額に片手を当てている。駆もこの光景はいつ見ても苦笑いが出る。


「だから重要なのは秩序なのだと言っているんだ!」

「いいえ、必要なのは自由の方よ!」


 秋和と千歌は外だというのに大声で議論を行っている。人目をはばからない気質は一花にも劣っていない。三人とも凄まじい性格の持ち主だ。


「こら、そこの二人組うるさい。ほとんど騒音じゃないのよ」

「なんだ、一花か」

「なんだとはなによ失礼ね」

「おはよう一花さん、駆君も」


 千歌からのあいさつに駆は頷く。秋和は間に入ってきた一花に自由の尊さを説いている。それが千歌にも飛び火して再度議論が燃えさかっている。まるで火薬とマッチみたいな二人に一花は呆れている。


「駆! お前はどうなんだ!?」

「駆君! こいつに言ってやって!」


 突如自分にふられ面食らう。


 秋和も千歌も真剣な目で見つめている。その熱量は尋常じゃない。常人では持ち得ない信条の強さだ。


 二人の熱視線に晒されるが、そんな中思い出す。


 未来王、秋和。


 不死王、千歌。


 その信念は場合によっては魔王になるほど強靱なものだった。こうして普通の学生として過ごしているがその実本当にすごい二人だ。いつも通りの日常と彼らの秘めている強さ。そのギャップの中で改めてすごい二人なんだと思う。


「お前のせいで駆が困っているだろうが!」

「なんですって!?」


 感心しているうちにまたしても二人が言い合いを初めている。よく飽きないものだとそこも感心してしまう。


「もーう! いい加減にしろお前ら!」


 そこに一花まで参戦してしっちゃかめっちゃかだ。


 なんとか事態を収拾しようとしたが駆では力及ばず。二人は無視して連れていくことに。一花が呆れて物も言えない顔をしている後ろでは秋和と千歌が口論中だ。歩きながらでもよく頭と口が回る。


 四人揃っての行動。そんな会話をするのはいつだって三人だ。自分はいつもそんな三人を眺めるだけ。会話に入って自分の話たいと思う時はあるけれど、悲しいがそれは出来ない。


 だけど。


「駆、お前はどう思う?」

「駆君はどっちが好き?」


 自分が仲間外れにならないように時折こうして話しかけてくれる。そのおかげで自分だけが蚊帳の外、ということはない。


「ねえ駆」


 秋和も千歌も。そして一花だって。


「遠慮なんてしなくていいんだからね。言いたいことがあるならちゃんと伝えればいいんだから」


 そんなこと当然だと、気さくに笑いかけてくれる。


「私たち、仲間なんだからさ」


 何気ないその台詞に心が温められていく。


「そうだぞ、駆」

「駆君がいないと寂しいんだからね?」


 秋和も千歌もそう。二人の接し方を見れば自分を仲間だと思っているのが分かる。


 三人に駆は力強く頷いた。


 胸が温かい。気分が明るくなる。


 それも三人のおかげだ。駆は本当に感謝していた。


 三人の背中を見つめながら思う。


 みんなにはいつも世話になっている。いつも自分を気遣ってくれて仲間だと言ってくれる。


 そんなみんなに自分の気持ちを伝えたい。そう思ってポケットからスマホを取り出す。一斉メールの画面に文字を入力しようと指を動かす。


「・・・・」


 その指を駆は止めた。それだけでなく歩みも止めて顔を上げる。


 ちょうど交差点の前に自分は立っており、それに気づかず三人は歩いていく。横断歩道を半分以上進み三人の背中が見える。


 遠ざかっていく三人の後ろ姿。楽しそうなその背中に向けて。


 駆は、口を動かした。


「みんな」


 その一言に三人が振り向く。


「駆?」

「駆君、今」


 三人とも驚いている。あれほどいつも厳格で冷静な秋和と千歌までもメガネがズレ落ちそうなほど驚愕していた。信じられないものでも見たように目を丸くして自分を見つめる。


 そんな三人に駆は小さく笑みを浮かべる。


「ありがとう」


 それを、伝えたかった。


 たった一言。伝えたいのはそれだけ。


 いつも一緒にいてくれて、自分を仲間にしてくれて。本当に感謝している。本当に大事だと思っている。自分の人生で、三人は掛け替えのない宝物だ。


 駆の発声に秋和と千歌が固まっている。そんな中一花も微笑み、駆に向かって走り出した。


「ごめん二人共! そういえば駆と一緒に行くところあるの思い出したわ!」

「一花?」

「待って一花さん!」


 二人は慌てて呼び止めるのだが信号はとっくに赤信号に変わっており二人は歩道に戻る。すぐに振り返ると駆と一花は振り返り反対側へと進んでいた。


 その姿は駆は黒のマントを羽織り一花は翼と尻尾の生えた異形の姿に変わっていた。さらに金髪の小悪魔や緑の小人、人のようなトカゲに巨大な三頭の犬も一緒に歩いている。


 え、と思うと車が通過していく。その車が通り過ぎた後駆たちはどこにもいなかった。


「駆!」

「一花さん!」


 辺りを見渡す。信号が変わるなり向かい側に移り探してみるが見つからない。


 そんな二人の様子をビルの屋上から駆たちは見下ろしていた。必死に自分たちを探す二人には悪い気がするがその必死さは嬉しくもある。


「あー、探してる探してる。あんなに慌てちゃって。ま、無理もないけどさ」


 駆の隣で浮遊している一花も秋和や千歌のありようを面白く、そして嬉しそうに見つめている。

 その顔が駆の顔をのぞき込む。


「大丈夫だよ、あの二人なら。これからもうまくやっていけるって。なんたって未来王と不死王よ? 今後の活躍にご期待でしょ」


 一花はふっと笑いそれを見た駆も笑った。あの二人なら大丈夫だ。あの二人が挫ける姿なんてその方が想像も出来ない。


 駆は一花と向かい合った。彼女の透き通った瞳を見つめる。彼女を見上げながら様々な思い出が蘇る。


 今までのこと。それはどれも楽しいことばかりではなかったけれど。


 こうして訪れた今に、感謝しかない。


「駆。約束、覚えてる?」


 そう聞く一花に頷く。忘れるはずがない。


 何気なく交わした、とても大事な約束。二人の絆が詰まった誓いの言葉。


「いつも一緒だ、一花」


 思えばこの言葉からすべては始まったのだ。死が二人を分かってもこの言葉が二人を再び出会わせた。


 自分を命がけで救ってくれた女性。


 駆は手を伸ばし一花がその手を掴む。指を絡ませ二人の顔が近づいていく。


 駆は顔を上げ、一花が降りてくる。


 二人の唇が重なった。柔らかい感触が伝わる。まるで世界で二人きりになったかのように彼女のことでいっぱいになる。


 唇を離し目を開けていく。見つめ合う瞳と瞳にお互い小さく笑い合った。


「あー、はいはい、私たちはお邪魔虫ってね? そーですか」


 と、そこへリトリィが割って入ってきた。とはいえそろそろだろうと駆は分かっていた。この悪魔が五分も黙っていられるはずがない。


「なによリトリィ、もしかして妬いてるの? 大事なマスターを取られちゃったって?」

「あれれ~? なによイッチーそんなでかい図体しといて心はちっちゃいのね。私にマスターを取られちゃうって心配してるんだあ?」

「ああッ?」

「もう、二人とも止めるヅラ~」

「まったく、最後まで締まらん連中だ」

「なに、いいじゃないか。それが私たちらしいだろう?」

「それもそうだな」

「僕もそう思うぞ!」


 新参であるはずの一花だがもうみんなと仲良くなっている。おまけに他のみんなも相変わらずマイペースなままだ。これが最後だというのに陽気で明るい。


 これが自分たちの仲間だ。この冒険で築いた絆を目にして駆は笑い出した。みんなが意外そうに見つめてくる。


 愉快だ。気分がいい。こんな仲間を持てたことが楽しくて仕方がない。


 笑う駆にみなも表情を緩ませていく。そう、これでいい。この仲間たちとの冒険は楽しくて、愉快な終わりが相応しい。それをみんな分かっている。駆の笑い声がこの場の空気を温かく包み込む。


 ふと視界に立ち上る光の粒子が見える。目をやると自分の足下が光へと変わっていた。それは一花や他の仲間も同様で足から順に光へと変わっていく。


 時が来たのだ。


 駆は一花と見つめ合った後手を繋いだまま太陽へと目を向けた。 


 見つめる先にはどこまでも広がっている青空がある。魔界にはない日の光をみんなで見上げた。爽やかな空に浮かぶ大きな光が眩しい。


 この世界を照らし出す光。駆たちを迎える大きな光がまるで自分たちを祝福してくれているようだ。


 この旅の終着をお祝いするように。


 悪辣と甘美の道を進み。


 そこで己が何者なのかを知った。


 その答えに、後悔なんてない。


 そこに駆たちの姿はない。一花も。リトリィも。ポクも。ヲーも。ガイグンも。


 そこには誰もいない。代わりに多くの光が青空へと旅立っていた。


 悪魔召喚師編 完


 


 次回 契約者テスタメント

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