言ったでしょ、駆。一人じゃないって。それに、私だけじゃないわよ?
それは誰かを大切にしたいと思う心もまた自分だから。それは殺戮王とは真逆ではあるが矛盾があってなにが悪い。殺戮王が仲間を大事にしてなにが悪い。
自分は自分。
迷い、苦しみ、もがきながらも選択する。
それこそが夏目駆なんだと。それでもいいんだと。
そう言ってくれる仲間がいるから、駆はこの道を選べる。
それを否定するお前こそ要らない存在だと駆は態度で示した。
「私とやるつもりか? 私を排除するだと?」
悪魔も身構える。駆と悪魔では体格がまるで違う。戦ったとしても結果は目に見えている。
だとしても譲れない。仲間と自分の信念を貫くために。
「言ったでしょ、駆。一人じゃないって。それに、私だけじゃないわよ?」
一花に言われ振り返る。彼女はふっと笑うと顎で後ろを指し示す。
駆は背後に顔を向ける。そこには新しい仲間が待っていた。
「そうだそうだ! もしかして私たちのこと忘れてな~い?」
「オイラもマスターのために頑張るヅラ!」
「マスター、いつでもいけるぞ」
「ふん。グラシャ・ラボラスか。こんな大物がすでにいたとは驚きだが関係ないな」
リトリィにポク、ヲーとガイグン。契約と絆で結ばれた第二の家族が駆けつける。
みんなの姿に駆の胸が熱くなる。こんなにも絆というのは嬉しいものなのか。こんなにも仲間というものは素晴らしいことなのか。
気づけば自分は黒のマントを付け左手には五つの指輪がはめられていた。
「いくわよ、駆」
そう言う一花も悪魔の姿に変わっていた。駆は頷き目の前の敵を見る。
恐れなんてない。迷いなんてない。自分の往く道を信じてついてきてくれる仲間がいるから。
駆は走った。一緒に仲間たちもグラシャ・ラボラスに向かって走っていく。
共に駆けるこの瞬間、駆は幸せだった。
校庭で頭を抱える駆を聖治は見ているだけだ。すると駆の胸から光が放たれる。光を一気に放出し終わると駆は脱力し手を下ろす。
「駆?」
声をかける。それで彼は顔を上げると、疲れた表情に笑みを浮かべてくれた。
「駆? その」
その仕草は殺戮王のものじゃない。よく知っている駆のものだ。
終わったのか? なにが起こったのかは分からないが駆はさきほどとは明らかに雰囲気が違う。
「良かったの、駆?」
傍らに浮遊する一花に聞かれ駆は頷く。一花を見て、それから背後に仲間に振り返る。
自分を見つめてくれる仲間たち。数々の冒険を共に過ごしこれまでを支え合ってきた。
自分に向ける優しい目に、駆は一度、大きく頷いた。
それから聖治に向き直り、すべては終わったのだと、頷いた。
「駆……」
そのことに唖然となって力が抜けていく。だけどすぐに嬉しさがこみ上がり笑顔になる。
駆は殺戮王を克服したのだ。戦いは終わった。未来は変わった。人類は救われたのだ。
弛緩した空気に香織たちは戸惑いながらも徐々に受け入れていく。
「終わったの?」
「なんじゃない?」
日向ちゃんの確認に此方が答える。互いに見合い、ようやくスパーダを下ろしていく。緊張の連続でいまいち実感がないがそれでも終わったのだ。日向ちゃんが大きく息を吐く。
「そういうことだ、抑えろよ力也」
「……フン」
悪魔に恨みがある力也は未だ険のある表情をしている。せっかく終わったのにここで暴れられては大問題だ。
「お前はいいのか」
星都とてすべてを納得したわけじゃない。表情にはまだ不安が残っている。けれど聖治と駆の二人に目を移した時、その表情もどこか柔らかいものになっていく。
「分からねえ。でも、あいつがそう思ってるんだ。俺はあいつを信じる。甘いかもしれないが、なぁに、俺たちは以前も未来を変えてきた。今回だってうまくいくさ」
星都はぽんぽんと力也の胸を叩く。力也は不服そうにしながらもスパーダを消してくれた。なんだかんだ分かってくれる仲間に星都は小さく笑う。
敵も味方も戦いが終わったのだと納得していく。駆は安らぎから目をつぶる。
「んッ」
「駆?」
その駆が急に苦しそうな声を出したことで聖治が心配する。不安になり駆に近寄ろうとした。
その時、デモンズ・ゲートから光が降りてきた。すぐに聖治たちはスパーダを構える。駆たちも誰が来るのか警戒している。それがどんな目的でやってくるのか。
光の柱に見える人影は二つ。それは地上に降りると光は幕を開けるように上へと引いていく。
そこにいた人物は一人の女性と老人だった。
女性はシュリーゼだ。相変わらず一冊の本を抱えもう一人の人物の傍に控えるように立っている。
そしてその一人。その老人は初めて見る人物だ。
白髪のセミロングで一目で分かる高級な白のスーツ。老人ではあるが弱々しさは一切感じない。むしろ時の年月に磨かれた強さと完成度を感じさせる。気品と厳格さを併せ持つ表情はこの場の全員を萎縮させるほどだった。
(なんだ、この男)




