駆の放つ死の光。みなを覆うピンクの光
リトリィ渾身の啖呵、それを聞いて駆が笑う。
「いいぞリトリィ、それでこそ俺の愛しの仲間だ」
「あったりまえよ」
彼の肩付近でリトリィは両腕を組み自慢げに言う。
その二人を聖治だけでなくみなが不思議そうに見つめる。
仲間意識が薄いと思っていたのにそうじゃない。仲間をぞんざいに扱っておいて絆は強い。
理解出来なかった。意味が分からなかった。
彼ら彼女らの持つ異質な絆。殺戮王を中心にした結束力。
だけど。分からないけれど、分かる。
この敵は、それでも固い絆で結ばれているのだと。
同時にリトリィや他の駆の仲間たちは確信していた。自分たちの絆を。
これまでどんな旅をしてきたのか。冒険の中でなにを経験し、どんな時間を過ごしてきたのか。そこで築いた絆の強さとあり方を敵は知らない。
だけど自分たちは知っている。地獄の門で見た。仲間が殺されるところを。自分が殺されるところを。
それでもなお、この人に従おうと決めたのだ。この人ならいいと、心からそう思ったから。
聖治たちの絆が時を越えて繋がっているというのなら。
駆たちの絆は生死を越えて繋がっている。その繋がりは、どんな剣でも断ち切れない。
「お前たちいい、下がっていろ」
「駆」
「一花、お前もだ」
駆が前に出る。出掛かる彼女を言葉と目線で制止させ駆は聖治たちに向き直る。
「あれを受けたな。その時点でこれは決まっていたことだ」
「マスター」
「不甲斐ないヅラ」
「ん」
「ガウ」
カリギュラの影響は大きい。満足に戦えない体で無理をしても悪化するだけだ。無傷なのは今や駆だけ。そんな彼一人に押しつけることになりみな消沈した面もちで足下を見る。
その時、駆の口元が上がった。
「ふ、馬鹿が。揃いも揃ってなんだその顔は」
駆はみなより前に出ている。だから顔は見えないがそれでもどんな顔をしているか分かるのだろう。戦えない自分を恥じ自分にだけ戦わせることを悔やむ。そんな顔が駆には見なくても分かる。
そんな仲間に、言うのだ。諦めでもない、励ましでもない、ましてや感謝でもない。
言うのだ、みなの王が。
勝利すると。
「顔を上げろ! 歓喜と祝福を持って見届けるがいい。俺が今から見せてやるというのだ、最高の決着をな!」
溢れんばかりの自信。みなを引きつけて止まないカリスマ。
「俺が、今からやつらを殺す。その瞬間をお前たちに見せてやる!」
みなからは駆の後ろ姿が見える。黒いマントを靡かせて立つ王の姿。
敗北など微塵も感じさせない。今、自分たちが一番なにを求めているのか、それを教えてくれる。
この人が勝利に導いてくれる。
駆は歩き出した。その背中をみなは確信した顔で見送った。
この人は勝つ。今までそうだった。どんな強敵、どんな状況だろうと勝ってきた。
その信頼を一身に受け駆は一人聖治たちの前に立つ。人類を皆殺しにする張本人。聖治たちの宿敵として。
「仲間に言ったとおりだ、決着にしよう」
「駆」
彼からの宣言に聖治は名前を呼ぶことしか出来ない。そこにはまだ敵として割り切れていない葛藤がある。
「ここにきて今更交わす言葉もないだろう。他人や自分を救いたければ俺を殺すことだな」
駆にはその覚悟が決まっている。なんの迷いもなく彼は聖治たちを殺しにくる。
「聖治君」
「相棒」
「聖治さん!」
「聖治」
「聖治」
「…………」
みんなから呼ばれる。
「俺は……」
駆はもう敵として殺意を持ってきている。覚悟を決めなければやられるのは自分たちだ。
「死ね! すべて殺してやる。生きる者がいる限り、この世界を殺し尽くす!」
駆が左腕を上げる。死が凝縮した殺意の固まりが見せつける。
「殺戮王の進撃と共にこの光が世界を覆う。その一歩をここに刻のだ!」
「そんな世界、させてたまるか!」
人類の滅亡、そんなことはさせられない。ここにいるみんなだって死なせはしない。
聖治は右腕を突き出し、残りの力のすべてを込める。
「消えろォオ! デスザル!」
「ディンドラン!」
駆の放つ死の光。みなを覆うピンクの光。
二つの光が衝突した。
「く!」
ディンドランの能力でデスザルは無効に出来る。しかし殴られたような衝撃が全身にかかる。まだこれほどの力があることに顔をしかめる。
「デスザル!」
「ぐう!」




