これが、私たちが選んだことなんだ……!
「聖治君! よかった、大丈夫だったんだね」
「ああ、俺なら無事だ」
一番に香織が駆け寄ってくる。こうして会えたことに聖治も笑みが浮かぶ。
「よう、うまくやったようだな」
星都が片手を上げ近づいてくる。
「ああ、助かったよ」
「いいってことさ」
それに聖治は礼を言う。二人はそれ以上は言わず視線だけで思いを伝え合っていた。
「?」
「?」
「?」
そんな二人のやり取りに女子三人が首を傾げている。事情が分かるのはエンデュラスを持っている者だけだ、無理もない。
「ふん」
好機を作りながら取り逃した駆はつまらなそうに鼻をならす。あれほどの機会はもう作れないだろう。なによりカリギュラの反撃を許したのが痛い。不死の駆はともかく全体にダメージを負ってしまった。
そんな駆の肩付近にリトリィが申し訳なさそうに笑いながら飛んでくる。
「いやー、ちょっとやられちゃったかなー。でもまだまだ、これからあいつらをギッタンギッタンに」
辛いのを隠して、戦いはこれからだとあえて余裕を見せつける。
そんな彼女を、駆は鷲掴みにした。
「黙れ!」
その一言にこの場が凍り付く。雰囲気が一気に変わり、緊張が走る。
「があ」
苦しむリトリィを駆は地面に投げつけた。
「これからだと? 思い上がるな! お前になにが出来る。今まで戦ってろくに一人殺せない、おまけにろくに動けない体で戦って今度は足でも失うつもりか? 勝手に動いて勝手に死ぬつもりか!」
リトリィの小さな体を靴の裏で押しつぶす。地面と靴に挟まれてリトリィから呻き声が漏れる。
「止めろ駆!」
その仕打ちに聖治が叫ぶ。
「お前、そいつは仲間なんじゃないのか? 敵ならまだしも、仲間にまでなんてことしてるんだ!」
敵同士とはいえ仲間にそんなことをするのは見ていられない。
「お前も物わかりが悪いな。俺が望むのは罪なき世界。してはいけないと説かれる筋合いはない」
「だからって!」
駆がそれを気にしていなくても聖治は気になる。なにより彼を信じてついてきてくれた仲間が不憫だ。信じ合うべき仲間に傷つけられる世界なんて誰も望んでいない。
「うるせえ!」
「!?」
そんな聖治を悪魔の一喝が制止する。
それを叫んだのは、他ならぬリトリィだった。
「いいんだよ、これで! 部外者が私たちの関係にとやかく言うんじゃねえ! 私たちが誰に従おうが勝手だろうが! それを知った風な口で言うんじゃねえよ人間が!」
駆が足を退かし、リトリィはふらつきながら立ち上がっていく。頬には土が付き、赤色の髪は乱れ、それでも赤い瞳は炎のように燃え上がり。
リトリィは、聖治を見上げて睨む。
「これが、私たちが選んだことなんだ……!」
彼女には小さな体からは考えれないような気迫がある。傷ついて、傷つけられて、それでもなお揺るがない信念に支えられている。
「お前は……」
その気迫に理解が追いつかない。彼女は今駆に投げつけられ踏まれた。なのになぜ彼を庇うようなことが言える? なぜ?
「駆が死ねと言ったら死ぬのか? そいつが殺しにきたら素直に殺されるって言うのかよ!?」
「…………」
どうしてそこまで言えるのか分からなくて、そんな疑問をぶつけられリトリィは黙っている。
駆に死ねと言われたら死ぬのか。殺しに来たら素直に殺されるのか。言われた言葉が頭の中を駆け巡る。
「……ふ、ふふ」
その言葉に、リトリィは笑い出した。
「はっはっはっはっは!」
面白くて仕方がない。知らないのだから無理もないとはいえ滑稽だ。お腹が痛くなるほど笑いリトリィは宙へ飛び立っていく。
「まったく、これだから甘ちゃんは……。バカバカバカバカ、ブゥアーカ!」
死ねと言われたら死ぬのか? 素直に殺されるのか?
知らないというのなら教えてやる。無知な頭の空領域に自分たちの存在を打ち込んでやる。
「すでに殺されてるっつーの! 舐めるな! 私たちを! 見くびるな、殺戮王を! 私たちとマスターを、勘違いしてんじゃねえ! ブチ殺すぞ、人間があ!」
自分たちの絆を見くびった、侮辱した人間に怒りの熨斗をつけて送ってやる。
「くっ、はっはっはっは!」