当たり前だ、文句などない
そう言って駆は左腕を高々と持ち上げた。包帯が巻かれた腕と五つの指輪。
「史上初にして絶対の力。あらゆる敵を殲滅する偉業を見るがいい!」
これこそが殺戮王の象徴!
「デスザル!」
殺戮王のみが使用出来る全体即死技。包帯が緩み左腕から光が溢れる。五色の指輪も同時に発光し煌びやかな光がこの場を覆う。
触れれば即死亡するという破滅の光。それを最初から放ってきた。
「ディンドラン!」
が、それを桃色の光が防ぐ。
聖治はディンドランを発動しみなを囲うベールを前面に展開した。それがデスザルの光からみんなを守る。
「ほう」
物理攻撃だけでなく異能攻撃もディンドランは防ぐ。デスザルを防がれたことで駆も意外そうに声を漏らした。
「これを防ぐか。お楽しみはまだまだ続きそうだな」
それでも余裕は崩れない。自分が持つ最強の技を防がれたというのに不安の素振り一つ見せない。
「よく分かったよ、駆」
対して聖治も覚悟を決める。
今のは間違いなく人殺しの攻撃だった。冗談で済まされるようなものじゃない。手加減したくても出来ない即死技。
それを放ってきたんだ、駆は殺すつもりだ。
「戦うしかないんだな」
それを理解した。それなら戦うしかない。
「そういうことだ。ようやく理解出来たようだな。あとは死ぬだけだ」
「それだけか?」
「?」
聖治が睨む。
「俺に言いたい言葉は、それだけかって聞いてるんだッ」
語気を荒げ駆にぶつける。
「ああ。他はないな」
「そうかよッ」
胸中で渦巻く悲しみと怒り。自分が未だに彼をどう思っているのかは正直分からない。
だけど戦わなくてはならない。このままでは自分は殺される。自分だけじゃない、仲間やこの世界で生きているすべての人たちまでも殺される。
聖治は決意の瞳で見る。対峙する駆は不敵な目で見る。
「倒すぜ、駆」
「殺すよ、聖治」
殺戮王によって人生を狂わされた少年と生まれたばかりの殺戮王。
なんの因果か二人は出会った。はじめは友として。今は敵として。
運命の戦いが始まった。
「こいつのダチだか知らねえが、早速やらせてもらうぜ!」
そう言ったのは星都だ。殺戮王に翻弄された子供は聖治だけじゃない。
彼もまたその一人。その中で誰よりも彼とは因縁がある。
星都はエンデュラスを手に取る。未来の司令官が最速で駆け抜けた。
「終わりだ」
「ッ」
星都のつぶやきは駆には聞こえなかった。それは音速よりも早くに駆の首を断ち切っていたからだ。
星都は駆の背後でエンデュラスを振るったまま立っていた。星都に斬られたことで駆の頭がごろんと地面に落ちる。
「殺そうとしたんだ、文句はねえだろ」
そう言い切る星都の表情は険しい。人類最大の敵、それを目の前にしていたんだ。
だがその光景に聖治は言葉を失い呆然と見つめていた。駆が、死んだ。倒すとは決めていた。だがいざ死んだところを見つめ心が乱れていくのが分かる。
「相棒、恨むなよ。仕方がなかったんだ」
背中越しに星都の言葉が届く。今聖治がどんな顔をしているのか知らないはずなのに、彼はすべて分かっているようだった。
「ふ、ふふふ」
「!?」
「なに!?」
地面に落ちた駆の頭から笑い声があがる。死んだはず。だが駆は喋り出した。
「当たり前だ、文句などない」
そう言うと頭は激しく炎上し灰となっていく。さらに垂直に立ったままだった体の首からも炎が吹き上がる。勢いが弱まり炎が消えた時、そこには駆の頭が復活していた。
できたての顔をおもむろに向け星都を見つめる。
「さきほども言ったとおり、俺が望むのは罪なき世界。お前がしたくてした殺人も認めるさ。当然だろう?」
「再生しやがったッ」
駆は星都に片手を向ける。手の平から熱線を放ってきた。
「ちぃ!」
それをかわし星都は元の位置に戻る。
油断していた。斬ればそれで終わりだと思っていた。まさか再生能力まであるとは思わず隙を見せてしまう。
駆の能力にみなの表情も険しさを増す。簡単に倒せる相手ではない。駆が浮かべる絶対的な自信と余裕、それはデスザルが使えるだけじゃない。強大な力の集合体なのだ。
だが厄介なのは駆も同じだ。今し方星都が見せた目にも止まらぬ高速戦。斬られても死なないとはいえ困難なのは事実。
「とはいえ六対一。悪くはないが少々分が悪いか」
「今更命ごいか? こっちは全力でいかせてもらうぜ」
「喚くな、これくらいのことで俺が動揺するか」
デスザルが通ればまったく問題にならないがそれが利かないのなら仕方がない。
駆は左手を持ち上げ高々に宣言する。
「見るがいい! そして知れ! 殺戮王が悪魔召喚師としても偉大であることを教えてやる! これこそが未来永劫続くただ一つの王道! クイック・サモンの真髄を知るがいい!」
見せつける左手にはめられた五つの指輪。
その一つが光り出す。
それは小指の紫、最初の悪魔。
「出よ悪戯好きな小悪魔よ、その魔力が生み出す幻惑で敵をあざ笑え! リトリィ!」
「パンパカパーン!」
紫の輝き、それと共に一体の悪魔が現れた。
「歓迎ご苦労! お前等はこれから三時のおやつだ人間共! お前らの無意味な命を殺戮王がおいしくいただいてやるんだから感謝しろよな!」
リトリィは出るなり両手を広げ満面の笑みで宣戦布告した。まるで遊びのような陽気さだ。
「てめえか」
その顔に星都は見覚えがある。未来の基地を襲撃してきた悪魔と同じだ。
「間違いねえ、殺戮王の親衛隊だ。俺が見たのと同じ面だ」
「ならほんとなの?」
「ああ」
此方の質問に答える。間違いない、この挨拶を聞くのも久しぶりだが言い方も変わらない。過去でも相変わらず人を苛つかせる悪魔だ。
「どうしたのよ、コソコソ話して前菜役の相談かな?」
「てめえを処理する算段だよ!」
リトリィの挑発にエンデュラスを向ける。星都の怒りを馬鹿にするようにリトリィは笑っている。
「戦場でへらへらすんな!」
星都が走る。エンデュラスの加速、それによって一気に接近する。
「させるか!」
だがその直前、リトリィが手を翳した。
「デューク」
「ぬ!?」
星都の目を黒い霧が覆う。それによって狙いを失い星都の攻撃は空振りに終わってしまう。