ユニコーン、そんな……。まだ契約年数が千年以上あるのに
力を増幅した光の砲撃。極大の光線がジュノアに激突した。
ミリオットの攻撃を両腕を交えて受け止める。ジュノアは吹き飛び百メートル以上も先の校舎へと突っ込んでいく。壁を貫通し校舎の中へと入っていった。
「ふう……」
ゆっくりとミリオットを下ろす。なんとか命中させられたがやったという気持ちは少しも浮かんでこない。
なにをしても悉くパワーで解決してくる相手だ、これでも足りないと分かる。
聖治は鋭い視線を緩めず壊れた校舎を見る。
ゴト。壊れた壁面の欠片が転がる。
瞬間ジュノアが校舎から飛び出し校庭に着地してきた。かなり距離があるが一足で軽々戻ってくる。
やはり来た。ジュノアは首を動かし肩を回している。体の調子を確かめすぐに戦闘の構えを取る。聖治もスパーダを構えた。
視線が交差する一瞬の時間、二人はすべてを理解していた。
戦いの再開だ。
同時に前に出る。合図などないのにそれは完璧な一致を見せた。
「スパーダ!」
聖治の背後に四本のスパーダが浮かぶ。さらに回転し五つの刃でジュノアを攻撃する。
スパーダ五刀流。自前のスパーダと浮遊する四本の剣が一斉に襲いかかる。
「ツッ!」
ジュノアは聖治の攻撃をかわし左右から振り回すスパーダをサラマンローブで防御する。次々とくる攻撃をすべて捌いていく。その動体視力と体術はまさに圧巻。だが攻めきれない。
ジュノアが防戦、押されていた。
「はああ!」
聖治はミリオット状態のホーリーカリスで攻撃する。強化の聖剣を振り下ろした。
「ふん!」
それをジュノアは両手で掴む。ミリオット一本では押し切れない。
聖治は片手を放すと浮いているミリオットを握り斬りつけた。
「!?」
ジュノアも片手を放しミリオットを掴む。二本のミリオットを押しつけ合う。
聖治はまたも手を放し今度はカリギュラを掴んだ。今度はそれで攻撃する。
ジュノアはミリオットを脇で挟むと空いて手でカリギュラを掴んだ!
「なッ」
「ん!」
ホーリーカリスとカリギュラを掴みミリオットを脇でがっちりと挟み込んでいる。
聖治はカリギュラを放しエンデュラスで斬る。
ジュノアは蹴りでエンデュラスを防いだ。
「ちぃ!」
「ほ!」
聖治がエンデュラスを手放したことでジュノアはエンデュラスを踏みつけ固定する。両手にホーリーカリスとカリギュラ、脇にミリオット、足にエンデュラスを捕まえている。全身を使って五刀流に対抗するつもりだ。
だが聖治にはまだ最後のスパーダがある。最大の攻撃力を誇る大剣。
「うおお!」
グランを振るう!
「それは無理ですねえ」
直撃が決まった!
「があ!」
せっかく捕まえていたスパーダが宙に舞う。ジュノアは地面に何度もバウンドしながら腕を突き刺し片膝を付いて停止した。
聖治の背後にスパーダが戻る。離れたジュノアに追撃するため浮遊するスパーダの剣先を向け射出する構えに入る。
ジュノアは立ち上がりパチンと指を鳴らした。
「ワン・ショット・サモン!」
掛け声により聖治の周囲に召喚陣が浮かぶ。いくつもの召喚陣に囲まれ、そこから悪魔の腕や顔が現れる。
「なに?」
見たことがない召喚術だ。
ジュノアは聖治に指を指す。
「アクション!」
一斉に悪魔が攻撃してきた。
右からくる巨鳥のくちばしをディンドランで防ぎ左の槍を持った腕の攻撃をミリオットで弾く。
背後の蛇のかみつきをグランで跳ね返した。
すると突然自分のいる位置が影になる。
「ん!?」
見上げれば巨人の足が召喚陣から現れ踏みつけてきた。聖治はエンデュラスで逃げ出し回避する。
だがワン・ショット・サモンの追撃は止まらない。移動する先々で新たに召喚される悪魔の動作が襲ってくる。
召喚陣が現れては消えていく。続々と新しい悪魔が攻撃を仕掛けてくる。
さらにはジュノアも加わり混戦だ。
五刀流の聖治と空間にいくつも悪魔を出現させるジュノアの対決。ホーリーカリスを切り替え聖治はジュノアと戦っていく、その周りでは浮遊するスパーダとワン・ショット・サモンの悪魔たちが攻防を繰り広げていた。戦っている聖治に伸びる悪魔の手をミリオットが突き刺し、ジュノアに攻撃しようするカリギュラが悪魔の尻尾に払われる。
いくつもの攻撃。いくつもの防御。その中心で両者は戦う。
襲いかかるいくつもの悪魔。聖治はそれらをすべて防いでいた。多種多彩なスパーダの能力が怒濤の連続召喚を見事防いでいる。
聖治の大振りの一撃。それがジュノアに当たり彼女が大きく後退する。
「おのれぇ」
聖治を牽制するためジュノアはさらに悪魔を召喚する。
聖治の正面、そこからユニコーンの頭部が現れる。一本角を向け突進してきた。
それを横にずらして回避する。さらに踏み込みホーリーカリスをユニコーンに突き刺した。ユニコーンが悲鳴を上げながら暴れるも力つきその場に倒れる。
「ユニコーン!」
慌ててジュノアが駆け寄る。聖治は他の悪魔の攻撃で一旦下がる。
灰となっていくユニコーンの前で膝を付き頭を撫でる。彼女の愛馬はその生涯を終えていた。
「ユニコーン、そんな……。まだ契約年数が千年以上あるのに」
消えていく悪魔を悲しそうというよりも残念そうな目で見つめている。
「ま、次のを契約しますか!」
元気よく立ち上がる。そこにはもう彼を悼む寂しさは欠片もない。それどころか残っている肉体を足蹴りして退かしていく。
「ん?」
すると蹴った肉体は魂となってジュノアの足にまとわりつき発光していった。光は膝下まで覆っていく。
そして光が消えるとそこにあるのは純白のブーツだった。革製でできたそれにはつま先にちっちゃな角が生えている。高級感と汚れのない純真なまでの白。お洒落な長靴が自身の足を包んでいる。
「ふぅん?」
新しくなった靴をまじまじと見つめた後、ジュノアは笑みを浮かべた。
そのまま蹴りを放つ。
「ユニコーツ!」
ジュノアが振り上げる足のつま先、そこにある角が伸び聖治に向かってきた。
「くっ!」
すぐにスパーダで防ぐ。刃と角が接触し火花を散らした。
角はすぐに元に戻る。ジュノアはその場で何度も蹴りを行う。その度に角が伸び刺突してきた。
これは蹴りというよりも突き刺しだ、槍の攻撃と同じ。ジュノアの連続攻撃をスパーダで受け止めていく。




