一瞬の隙を見せただけでこれだ、四十年悪魔と戦ってきた実力は伊達ではない
ジュノアは走った。サンダーレスにより電光石火の速度で聖治に体当たりする。それはまさしく雷の化身であり当たれば粉々だ。
「エンデュラス!」
それを受けるほど聖治も甘くない。エンデュラスの加速によりジュノアの突進をかわす。ジュノアが横すれすれを通っていく。
すぐさまジュノアは反転し聖治を狙って突撃する。それを聖治は体をずらし回避する。ジュノアは聖治を中心に突進と反転を繰り返す。
「ん!?」
高速戦闘。そこで聖治が異変に気づく。
ジュノアが通った跡。そこには電気が残留し自分を中心に五芒星の形に電気の線が描かれていた。気づいた時には周囲は浮遊する電気の線と球に包囲されている。
ジュノアは突進から振り返るとタップダンスで足を揃える。
「オ、レ!」
「ディンドラン!」
サンダーレスの一斉爆撃を全周に展開したディンドランで防ぐ。
校庭の土が舞う。聖治はディンドランを消しジュノアと向かい合った。
「すげえな」
二人の戦い。その様子に見守る星都が口をこぼす。
聖治とジュノアの戦いはまさに技と技のぶつかり合いだ。どちらも多くの技を繰り出すため戦況がめまぐるしく変わっていく。派手な技も多く一時も気が休まらない。
「うん、二人ともすごい戦いしてる」
「相手もやるわね。あれだけ多彩でちゃんと使いこなしてる」
「でも、聖治君だって負けてない」
「うん」
「聖治さんがんばれー!」
見ている側でもそう思うのだから実際に戦っている本人たちはなおさらだ。強いとは思っていたが予想を越える実力に感じ入っている。
「ふぅん、隙がないですねえ」
「お互い様だ」
もともと肉体強度が高いリリンにパワーとスピードの魔具が備わりさらに強くなっている。
「異能を備えた剣。それを操るだけでなくいくつも扱うとは。イブンの底知れない探求力には感服しますよ。創意工夫で弱さを補う。それもまた強さの形なのでしょうね。それがこうして力をぶつけ合うのですから運命とは皮肉なものです」
「さっきから思ってたんだが洒落た言い回しだな。リリンっていうのは知性が足りないって聞いてたんだが」
「それこそお互い様ですよイブン。あなた方も前に比べればずいぶん長生きになったではありませんか。永遠の命がなくとも時間を掛けることでその術を磨いてきた。リリンも同じです。長い時の中で少しずつ知恵や知性を会得してきたのですよ。今でこそ服を着るのも習慣になりましたが少し前まではそんなものありませんでしたし。姉妹でよく裸のまま草原を駆けていたのが懐かしいですねえ」
「一応聞くが、なぜ着るようになったんだ?」
「はて、そういえばなぜでしたか。あなたは着るきっかけを覚えていますか?」
「それもそうだな」
言われてみれば気づけば着ていてそれが当たり前になっていた。
聖治はホーリーカリスを構える。それでジュノアも構えた。
決着はまだついていない。
まだまだ、これからだ!
「カリギュラ」
ホーリーカリスを赤に変え赤のオーラを刃から噴出させる。オーラは周囲一帯に広がりジュノアを飲み込む。
減退、吸収を司るスパーダの攻撃。並の悪魔なら瞬く間に消滅させる死のオーラだが。
「ふぅん」
ジュノアはビクともしていなかった。
「寿命の簒奪ですか、あまり意味を感じませんが」
片手を持ち上げ開閉する手をどうでもよさそうな顔で見つめる。
「だが体力の減少は受けてもらうぜ」
「確かにややだるさを感じますねえ」
手を動かして判明したのは問題なし。ジュノアは構えに戻りにやりと笑う。
「もとより、元気が取り柄なので」
「化け物が」
リリンの持つ生命力は規格外だ。
だが聖治はカリギュラの出力をさらに上げジュノアはオーラに包まれる。
「ですから無駄だと今し方」
カリギュラはリリンに対して有効打にはならない。
そう言おうとした口にミリオットの光線が直撃した。
「ぐあ!」
顔面に湯気が上がる。しかしジュノアは無傷で得心した顔で暗闇を睨んだ。
「なるほど、そういうことでしたら」
敵の狙いは分かった。なら力で解決するまで。
ジュノアはサラマンローブを装着し手首を回す。エンジン音を吹かし地面を思いっきり殴りつけた。
「はあ!」
その衝撃に地面はえぐれカリギュラのオーラが晴れる。
聖治はカリギュラとミリオットの二刀流でちょうどミリオットを撃ってきた。それをかわしサラマンローブの火球を放つ。
二人で撃ち合いだ。ジュノアはボクシングポーズのまま足捌きでかわしながら炎を出し聖治は地面に飛び込み体を回して片膝を着いて一発、さらに地面に飛び込み二発目を放つ。
「は!」
ジュノアは地面を蹴り突撃してきた。勢いのままパンチを打ち出す。聖治はなんとか横にずれジュノアが過ぎ去る。すぐに反転し聖治を攻撃しようとした。
だが遅い。
聖治は振り返ることなくミリオットを逆手に変える。左腕を持ち上げ脇下に空間を作るとそこから逆手持ちのミリオットを構え背後に攻撃したのだ。
「な」
ミリオットの背後撃ちに対応できず光弾はジュノアに直撃。体勢が崩れる。
聖治は振り返り追撃する。体がよれていたジュノアに何発もミリオットが当たっていく。
「ちい!」
一瞬の隙を見せただけでこれだ、四十年悪魔と戦ってきた実力は伊達ではない。
聖治はカリギュラをグランに変える。重力を上げ相手の身動きを封じる。
自身にかかる重さの異変にジュノアもすぐに気づく。重い。五倍、十倍と重さが膨れ上がる。
だが関係ない。
「ふん!」
全身に掛かる負荷。それを物ともしない脚力が強引に地球の引力を引きちぎる。
ジュノアはミリオットの光弾を回避した。
「く!」
この環境下で問題なく動いてくる。普通ならぺしゃんこだ。一歩動く度地面が深くえぐられる。そんな中でジュノアは笑っていた。
もはやおかしい。そう思いたくなるほどの肉体。
しかしどれだけ動けようとそれも地上の話。
聖治は高重力から今度は逆、ジュノアの足場を無重力に変えた。
「ん!?」
さらにグランを地面に叩きつける。その揺れによってジュノアの体は高くに浮かび上がった。
「おや!?」
体をばたつかせるが空中では動きようがない。
その体に狙いを付けて。
「ミリ――」
「オッオウ」
聖王剣を撃ち放つ。
「オットォオオオオ!」