頑張ろう。今度は、私も戦うから
理屈は分かる。大人数ならともかくこちらは少数精鋭、機動力があるのだから使わない手はない。問題はどう攻略するかだ。
「やつらを包囲する必要がある。やつらほどの戦力が一点集中して突破を試みれば特戦や自衛隊の防衛線といえどあっという間だ。だから」
星都は今一度みなを見つめる。覚悟を確認するように。
「俺たち五人が別々の方角から同時に攻撃を仕掛ける。中央で合流し召喚陣の破壊だ」
「ちょっと待って、それは」
星都の作戦に待ったをかける。言いたいことはあるが星都もそれは分かっている。
「危険は承知の上だ。だが、リスクを取らないでなんとかなる状況じゃない」
「そうだけど、戦力を分散して各個撃破なんてされたら本末転倒だよ。怪我でも負ったら誰がそれを治すの?」
星都の言っていることも分かる。だが反対だ。せっかく集まっているのに孤立させ危険を増すなんて。
「私は賛成ね」
「此方ちゃん!?」
が、隣人からの思わぬ同意に振り返る。
「香織、言ってることは分かる。でも、私たちは強いわ。あんたに守ってもらわなくても戦ってきたんだもの」
「でも」
「それにね」
なんと言われようが危険が増すのは事実だ。その事実がある以上香織が納得することはないが、此方にも彼女なりの事実がある。
「正直に言うと、賛成なのはもっと個人的な理由。知ってるでしょ、私は一人の方がやりやすいのよ。一人で戦うって聞いた時、ちょっとホッとしたくらいだし」
「そんな」
そういうものなのだろうか。カリギュラの特性上周りに味方がいる状況では使いづらい。皮肉なことに敵に囲まれているほど本領を発揮する剣だ。カリギュラを最大限活かすなら単独で大量の敵がいる場所に行くべき。
でもそれでは一人で大勢を相手にするということ。危険過ぎる。
星都の目が香織から此方に移る。
「実際、危険はある。此方。力也と日向、二人は自身の強度を上げられるから防御力がある。簡単には傷つかない。香織は特に大丈夫だろ。俺は防御力はないが回避能力に長けてる。だが、唯一お前はなにもない。殲滅力が高いっていう、それだけだ」
「心配してくれるんだ」
「能力的にはそうだろ」
攻撃力、制圧能力に全振りの能力故に防御面はからっきし。武器や兵器としてならともかく人として使う能力としてはかなり不安定だ。ミサイルなら撃てばそれでおしまい。だが人ならそこから無事に生還しなくてはならない。これが難しい。
「まったく、見損なはないでよね。防御力ならあるわ」
「あれ、お姉ちゃんあったっけ?」
それがどれだけ困難か。しかし此方は自信家の振る舞いを見せる。
「攻撃は最大の防御よ」
「わお」
なんだろうかと純粋な疑問を抱いていたた日向ちゃんだったがその答えに呆れた声を出す。
「なんだっていいが頼んだぞ」
「分かってるわよ」
「此方ちゃん」
本人はこう言っている。彼女を過小評価するつもりもないし弱いなんて思わない。だが心配までは拭えない。どうしても防御面から不安が残る。
「香織、気持ちは嬉しいけどそれ以上の心配は要らないわ。私たちはここが正念場なの。分かるでしょ?」
そう言う彼女に香織は覚悟の差を思い知る。
正念場。そうだ、今は平時ではない。安全なだけで切り抜けられる事態はとうに過ぎた。
ここは負けられない。失敗出来ない。安全策だけ取って結果防ぎ切れませんでしたでは意味がないのだ。
大事なのは敵の侵攻を止められるかどうか。危険は百も承知。優先すべきは目標を達成すること。
「……うん、分かった」
心配で当然。不安で当然。だって危険なんだから。
その危険を乗り越える。それがここでしようとしている目的なんだ。
「じゃあ方針は決まったな。配置を決めよう。ここには此方が残ってくれ。移動時の接敵リスクは低い。他は外を迂回しながらポイントを目指してくれ。敵と遭遇したら適時掃討。0時方向には俺が行く。佐城は4時、日向は2時、力也は9時方向だ。左をほぼ全面頼むことになるがいけるか?」
「食い放題だな」
「ああ、遠慮すんな」
「堪能させてもらおう」
見た目通りどっしりしている。頼りになる。
「流れとしてはこんな感じだがなにが起こるかは分からない。行動開始後は各自の判断に任せる。高度に柔軟で臨機応変な対応をしてくれ」
「それ行き当たりばったりじゃん」
「お前には無理だったか?」
「はあ!? 出来るに決まってるし!」
実際その時になってみたいと分からないことはある。ある程度は仕方がない。だからこそ指針が必要だ。
「ある程度の討ち漏らしは無視しろ。全滅は気にしなくていい。後ろにいる特戦や自衛隊を信じよう。俺たちは数を減らすこと、そして召喚陣を破壊しこれ以上の侵攻を止めるんだ」
目的を共有する。意志疎通ができたことに頷く。
「よし。数は向こうが上だが気持ちも強さも俺たちの方が上だ。ここに来たことをたっぷり後悔させてやろうぜ」
出撃前の発破をかける。みなの表情からやる気は十分だ。
「なにか質問は?」
「おやつの上限は?」
「…………」
みなが日向ちゃんに振り向く。
「よくなーい? けっこう気の利いた冗談だと思ったんだけど」
「他にはないな? なら移動開始だ」
「ええー、冷めてるなぁ」
どうにも一人気の抜けている子がいるがそれも緊張を解すための気遣いだ。戦場にあっていつも通りの雰囲気が適度に緊張を解してくれる。
「みんな」
そんな空気だったからか、香織は口にしていた。
なんだろうか。そういう目が香織に集まる。
そうしたみなからの視線を一身に受けて、香織は話し出す。
「私はさ、未来で悪魔と戦っている時、そこにはいなかった。みんなが戦ってる大事な時に」
かつてあった、なかったことになった未来での話。大戦と言っても過言ではないその戦いで自分はその場にいなかった。
「それを知ったとき、やっぱり寂しいっていうか、悔しかったんだよね。仲間なのにみんなの役に立てなかったって。私のおかげで助かったって言ってくれるけど、私はやっぱり、みんなと戦いたかった。悪魔になんて好きにさせない。そのために私だって戦いたかった」
一緒に戦えなかった無念。それを晴らす機会がきた。
「だけど、今日、私はみんなと一緒に戦う。こんなこと言うのは不謹慎だけど、私は嬉しいよ。みんなと戦えること。今度は一緒にいるってこと」
明るい表情に真剣な目つき。そこには戦いにおける不安よりも共に戦える喜びがある。
「頑張ろう。今度は、私も戦うから」
香織の表明にこの場の雰囲気が温かくなる。かつての戦いにはいなかった仲間の復帰。それを歓迎しない理由はない。
「うん」
「香織さんがいてくれると心強いよね」
「頼りにしてるぜ」
「ふん」
「ありがと、みんな」




