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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
415/496

この未来は、お前が悪魔召喚師になる前から、俺が選び取った未来なんだよ

 白い塔の終着点。それは展望台のようだ。横は吹き抜けでいくつもの柱が天井を支えている。床も天井も白く、外には赤い空とドトール湖の景色が広がっている。その先には森が見えた。大自然の景観は魔界であることも忘れて見入りそうになる。


 だが、駆の見る先はそこじゃない。


 正面の先、そこにぽつんと置かれた一つの椅子。そこに腰掛ける見慣れた後ろ姿がある。その人物は味方がやられ、敵が間近まで来ている状況にも関わらず足を組みこの景色を眺めていた。


 ここには明かりがない。そのため吹き抜けからの光だけであり中央には影が下りる。その影の中に駆たちは覆われていた。


「来たか、駆」


 焦りも怯えもない。規則通りに時を告げる時計のように、それは機械的な言い方だった。


 少年は立ち上がり駆に振り向く。


 未来王、真田秋和。地上にいた時と同じ長方形のメガネ。切れ長の知性を感じさせる目つき。その服装は白一色の制服であり海軍の上官を思わせる。それに合った帽子も被り背中には肩胛骨まで届く布が垂れている。


 魔界での二度目の再会。最初の時はまだ早いと追い返された。それがこうして相対している。

 秋和は変わらない。静かで、冷静で、落ち着いている。ここまで来られた以上危機的状況のはずなのに。それでも精悍な表情が崩れることはない。


 むしろ、追い込まれているのは駆の方だ。


「うッ」


 胸を掴む。家族も同然の親友と再会したのにわき上がるどす黒い感情。裸の美女を見た酔漢のように欲望が理性を圧迫してくる。


 これでは立場が逆だ。その様に初めて秋和が笑う。


「フッ。順調に勝ち進んでおきながらボロボロじゃないか」


 実際駆の精神は針の上のようなバランスだ。いつ崩れてもおかしくない。


「ふ」


 今すぐにでも。


「ふっふっふ、う、うう、うあああ!」

「限界か」


 笑いと苦悶。行き交う愉悦と自制。それは容赦なく理性と精神を蝕んでいく。


 その姿を秋和は冷静に観察していく。


「お前の瞳に俺はどう映る? 敵か? 友か? それとも、空腹の獣に差し出された生肉か? あいにく俺は生け贄になるつもりはない」


 そう言う秋和は本当に負けるつもりはないようだ。言い切る姿勢は淀みなく勝利を確信した気迫だけがある。


「千歌は倒したようだな。お前のことだ、さぞ辛かったことだろう。だがそれももう必要なくなった。不死王がいなくなった今俺に敵はいない。お前も苦しみから解放されろ」


 それは、死ねということだ。


 そう言われ納得できるはずがない。なにより仲間たちがそれをさせまいと身構える。


「それは無理だな未来王。今お前は不死王がいなければ敵はいないと言ったな」


 ヲーが槍を構える。


「であればお前がマスターを倒せないことは道理。勝機は私たちにある」

「マスターが負けるわけないでしょ」

「負けるのはお前の方だヅラ!」

「ふ、お前の代わりによく喋る連中だ」


 駆は苦しそうな顔で秋和を見る。憔悴しきった瞳は弱々しい。


「詰めが甘かったな未来王。お前は二つのミスを犯した。それはウンディーネ族を追いやったこと、そして不死王をマスターに倒させたことだ」


 ウンディーネの手助けがあったからここまで来れた。不死王を倒したから不死となった。どちらも未来王にとって致命的なミスだ。


「そのため私たちはここに辿り突きお前は倒す手段を失った。籠城も迎撃もできないお前はここで終わりだ」

「現状認識の不正確さと推測不足だな、参謀には向いていないんじゃないのか?」

「なに?」


 失態を突いたつもりが反対に言い返される。


「ウンディーネをなぜ放置していたのか、この期に及んでまだ分からないのか?」

「まさか」


 この状況は殺戮王が未来王を追いつめた図。侵入は成功し負ける要素もない。今未来王は不利なはず。

 そう思っていた。


「お前たちをここまで運ばせるためだよ」


 それを、未来王は否定する。


「サラはよくやってくれた」

「え!?」


 意外な名前にリトリィが驚く。


「彼女の能力と行動はこの状況と密接に関わっている。城の消火、ミラル火山からの帰還、ドトーール湖の開通。だから俺はこの未来を選択した」

「未来の選択」


 聞き慣れない言い回しだ。この言葉こそ秋和の特異性を物語っている。


「俺に利する行動を取るのはなにも味方だけじゃない。この状況を実現できればそれでよかったんだ。デビルズ・ワン。それに勝利するための最大の困難が俺にとっては千歌だったからだ」


 サラがいなければ城は焼け落ち殺戮王は撤退を余儀なくされていた。打倒不死王どころではない。サラの有無はそれだけ重要だった。


「その千歌は一花が苦手だった。俺にとって一花は脅威ではなかったが。今思えばおもしろい関係性だったな」


 秋和と千歌と一花。それぞれがじゃんけんのような三竦みとなっていたわけだ。

 であれば、天敵である千歌がいなければ勝ったも同然。そのためには千歌を倒すための駒が必要で、殺戮王の誕生には一花の死が必要だった。


「!?」


 そこでハッとする。


「そうだよ、駆」


 それに気づいた秋和が明かす。


「この未来は、お前が悪魔召喚師になる前から、俺が選び取った未来なんだよ」


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