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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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殺戮王が来たぞ! 伝令! 殺戮王が来たぞ!

懐かしい記憶が自分にささやく。今が過去の続きであることを。


 たとえ立場が変わっても、積み上げた時間はなくならないと。


 声となって何度もささやきかける。


 記憶が。


 思い出が。


 絆が。


 すべてが苦しい。


 だとしても。


 前に進むしかない。今は、未来の通過点なのだから。


 少年は頷いた。重苦しい表情に並々ならぬ覚悟を漂わせて。


 城の門にて駆はサラを始め仲間たちに囲まれていた。魔王と側近自ら不死王を討ちに行く。その門出に立ち会おうと大勢の悪魔が駆けつけた。


「では、行かれるのですね」


 同盟者であるサラに言われ振り返る。水が作り出す彼女の表情は悲しそうに見える。楽な戦いであるはずがない。殺戮王が如何に殺しに特化していても相手は不死。相性でいえば悪い。


 だが止まるわけにはいかない。彼女の浮かべる物寂しい顔に駆は真剣な眼差しで応えた。それでサラは了承したように目を伏せる。


「ガイグン、あとは任せたぞ」

「おうよ」


 ガイグンは今回留守番だ。仲間の危機ではあるが緊急性はない。それよりも前回のように留守を襲われる方が危険だ。そのため機動力よりも守りを優先した。戦力の分散は否めないがこれも戦略と割り切るしかない。


「それじゃ行ってくるヅラ!」

「気をつけろよ」

「お願いしますね」 

「安心するヅラ。必ず勝って、おまけも持ち帰ってくるヅラ」


 ガイグンとサラにポクが笑う。これから自分たちは戦いに行く。それも駆にしてはかつての友人だ。さきほどから彼の悲壮感が伝わってくる。


 それを少しでも和ませるためにあえてこうして振る舞った。それが分かっているから駆もポクの帽子に手を当て少しだけ口元を持ち上げる。けれどすぐに引き締め前を向いた。


 行こう。声に出ない意思を示す。


「では」


 ヲーの声にガイグンとサラは頷き駆達は城を出て行った。湿地帯から不死王のいるミラル火山へと歩いていく。ヲーとポクは指輪へと収まり歩いているのは駆だけだ。湿った地面に一人分の足音が響く。


 一人きりでの行軍。だが孤独ではない。心強い仲間ならすぐそばにいる。


 ヲーに案内されながら駆は歩いていく。道中いくつかの戦闘をはさみながら前進していき、景色は知らない場所へと変わっていた。まったく別の風景は景色だけでなく肌で感じる温度も変えていた。体温を越えるほどの熱がここら一帯を包んでいる。


 ミラル山脈。火山の集合体でもあるこの山脈は今も複数の火口からマグマを吹き出している。その様はまるで赤い柱が天に登っていくようだ。その先を追いかけ顔を上げてみる。


 暗い。曇り、なんてものではない。ほとんど夜と変わらない。そう思ってしまうほどの黒煙が空を覆っている。


「ここがミラル火山、不死王が根城としているという山脈か」

「なんというか、暗くて重苦しい場所ヅラ」


 ここら辺は薄暗いのもあるが赤茶色をした地面と岩場だけで草木はまったくない。ある意味で自然のままだ。ごつごつとした道が続き生命の活気を感じることはない。


「マスター、ここはもう不死王の領地内だ。いつ敵が出てきてもおかしくない」


 ヲーの警告を受けながら駆は一歩を踏み出した。むき出しの岩肌と砂利がこすれる音が鳴る。上り坂を踏みしめ前進する。


「来たか」


 視線の先、道をふさぐように並ぶ不死王の部隊が現れる。


 戦闘だ、一気に緊張感が跳ね上がる。


「殺戮王が来たぞ! 伝令! 殺戮王が来たぞ!」

「マスター」

「始まりズラね」


 二体も戦闘体勢だ。駆も当然油断はない。そのためにここに来た。


 戦いの時だ。この先にリトリィがいる。


 それを助け出すために、そして友との決着をつけるために。


 駆は走り出した。そのあとにヲーとポクも続く。敵も駆たちを返り討ちにせんと走ってきた。


 戦闘が、始まった。


 時をほぼ同じくして、駆たちの襲撃は不死王城内にも届いていた。それは当然千歌の耳にも入っており彼女のいる場所は緊張に包まれる。


 玉座の間。赤を基調とした内装に部分的に黄金が施されている。波を作る深紅のカーテンをバックに階段部最上階に置かれた椅子に千歌は腰掛けていた。背もたれは赤く肘掛けなどの外周は金色に染められている。両端には彼女の身長以上もある金の灯明台が置かれ蝋燭が小さな火を灯していた。


「来たか」


 殺戮王襲撃の報に眼下では部下たちは忙しなく働いている。彼女のつぶやきを気にかける者は一体もいない。


 駆が来た。こうしている今も正面突破を試みている。


「マスター」


 そして、椅子の傍らに置かれた籠からリトリィもつぶやく。駆が来た。自分を助けに来たのだ。

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