2人の気持ち
31、2人の気持ち
宴はその後最高潮を迎え、べろんべろんと音が鳴る中、奥田が華吉にちょっかいを出し、婚約者さんのモナリザのような微笑のもとで春日女史が奥田に怒りの鉄拳を振るい、そんな強さにひかれたのかクマどんが春日女史に男をアピールした。大家さんとおばあさんは、ほろ酔い気分でいいもの見せてもらったよと帰っていき、クマどんも責め疲れたのか飼い主さんを引きずって帰って行った。
残った酔っ払いは、勝手気ままに飲み続け、ハナと所長と奥田がつぶれた頃、モナリザの一声でお開きになった。
あたしは今日はハナんちにお泊りなので、後かたずけの手伝いをしている。
「ヒトちゃん大変だね。ひとりで店やらなきゃいけないなんて」
「ん?姉ちゃんはおれが高校大学の間、ひとりでやってたから。今度はおれの番」
「そっか、姉弟っていいよね。あたしも兄弟欲しかったな」
「今度からおれが弟でしょ?」
これからは家族みたいなもんでしょと、ヒトちゃんは勢いよく洗い桶の水を流しに流した。
「たまに帰って来てよ。三人で飲もう」
「うん」
また、泣きそうになっているあたしを見て、ヒトちゃんがおでこを押さえて、ベンチに伸びているハナを見た。
「ダメダメ、これ以上でこピンされたら腫れるって」
慌てるさまがかわいくて笑ってしまった。
「さ、こっちは終わったから、姉ちゃん上につれてって」
「うん、ありがと」
互いにお休みと言ってハナの部屋に入った。
ベッドにハナをおろす。
「よっこいせと、痩せたっていってもあんなに飲んだらすぐ戻るよ」
寝顔に言うと、ハナの目が開いた。覗き込んでいるあたしの頭を引きよせると、優しくキスをした。
「知ってたし。これが初めてじゃないの」
「なにが?」
顔が熱い。
「修学旅行の夜のこと」
「……えっ」
あんなにひた隠しにして、入院騒ぎまで起こしたのに……知ってたの?!
なんか、バカみたい。
「私が我慢してたのに花が先にしちゃうんだもん。驚いたし、嬉しかった」
「……うん」
「でもね、先の見えないことはしちゃいけないってずっと黙ってた」
2人で向かい合ってベッドに横になると、ハナがあたしの背中を冷たい手でなでる。
ハナは今までだれにも話せなかった心の内をあたしにだけ教えてくれた。
私は、弁護士になって結婚制度もぶち壊してやるって思ってた。そうやって花香を守っていこうと思ってた。でも両親が死んで予定が狂った。
人司が大人になるまでは自分のことは棚上げだって。人司は、あんまり勉強が好きじゃなかったから、クレープ屋を残しといてやりたかったんだ。でも、教えようにも私もよくわかんないしね。だから大学を一旦休学して、クレープ屋一本に絞った。そのうち人司が花のこと好きだって気づいてさあ。
やっぱり男と女が一緒なら、世間さまから白い目で見られることはないしさ。
花香も弟もかわいいし、どうしようって悩んでね。あたしが身を引けばいいのかなって思って……結婚してみた。でもそれはすぐに間違いだって気付いた。私は花香以外に好きになれないって。
だったら人司とくっつけて、姉さんになればいいと思って帰ってきたの。
なかなか人司は告白しないし、花香は鈍感で奥田なんかに手えつけられそうになるし。突っついて、突っついてやっと告ったと思ったら、朝一のトイレの前なんて、やらかしてくれたけど。花香もそのつもりみたいだし。さっさとやって子供でもできたらいいのにって思ってた。
みんなでクレープ屋やって2人の子供の面倒みるおばちゃんでもいいかなって。
でも、やっぱり、2人がいちゃいちゃしてるの見てらんなくて、よく遠乗りに行ったな。
て言うか、偶然見ちゃったんだよね。公園でキスしてんの。結構ショックでさ。もう見たくなくて2人に近づかないようにしてた。
そしたら、花香に過呼吸が出て、人司をやったら3時間もかかって戻ってきたから、ようやく大人になったかなって思ってた。それでもないんだもん。がっかりするやら、うれしいやら。
私だったら過呼吸治るの1時間かかんないのにって。
今考えれば人司のものにならなくてよかったけど。
花香のことを思うと、一回くらい経験しても良かったと思わないでもない。それだけは私にはできないから。
どう?とあたしの顔を覗き込むハナに聞いてみた。
「ハナとじゃダメなの?」
ハナは顔を真っ赤にして、目をそらした。
「ダメってわけじゃないけど、やっぱり違うというか……」
「どう違うの?」
「実演しなきゃ分かんないよ。でも今日は退院したばっかりだからお預け」
「ケチ!」
「あれ、したい?」
意地悪に言うハナは色っぽくて、直視できない!
「そんな花もかわいいけど、やっぱりまた今度」
優しく引きよせられてハナの胸に顔をうずめる。早い鼓動があたしを好きでいてくれるって証明かも。だってあたしの鼓動も早いから。
あたしもハナの背中に手を回しそっとさすってみた。
「花、大好き」
あたしを抱きしめる腕に力がこもる。
「ハナ、大好き」
あたしも力いっぱい抱きしめた。




