いざ!成敗!
20、いざ!成敗!
「奥田、ちょっと来い」
所長が奥田を呼び出した。今日の所長室はあたしの指示通り、ブラインドもドアも開けたまま。
大きな所長の声が漏れ聞こえる。
「おまえ、酒に酔って花香に言い寄ったんだって?花香が困ってたぞ。婚約破棄も冗談か?」
「冗談ではありません。おれは、本気で……」
「おまえ馬に蹴られたいか?花香には付き合ってるやつがいる、そしてお前には婚約者だ。花香だって蹴られたくはないさ」
所長、もう少し具体的に。
「花香!おまえも来い!」
んもう。教えたとおりに言えばいいのに。
「何でしょう?」
「花香は奥田のことどう思ってるんだ?」
「ガニ股で、原始人でゴリラ。とうとう頭の中まで原始人になったかと」
「だそうだ」
「だからなんですか」
「あきらめろ。お前になびくくらいなら、おれが先だろう」
「2人ともありません。あたしは今、ちゃんと付き合ってる人がいます」
所長、余計なこと言わないで。
「華吉みたいな男は頼りにならないだろう」
「いいえ、あたしはハニーがいなきゃ、生きていけません。奥田には同僚という以外の気持ちはありません。ハニーとあたしを引き離したらあたしは奥田を訴えます」
はっきり言い切ると、胸がすっとした。青ざめた奥田の顔に自嘲の笑みが浮かぶ。
そのころ春日女史のキラキラのスマホがメールの着信を知らせている。
「なあに、これ?」
送られてきたのは一枚の写真。送り主に心当たりはない。
「ああら、これ……」
よく見るとそこには……
無言で礼をして立ち去る奥田を見送った。所長は見送ると口を動かさないようにして、小声になる。
「どうだ良かったろ」
「所長……結果オーライです」
「お前への疑いも解けたみたいだぞ」
後ろをあごで差す。振り返ると皆こちらをみていた。
昨日のようなさげすむ目ではない。
心からほっとした。
第一段階終了!
その夜、猛暑もどこへやら、夕立後の商店街は汗を吹き飛ばす風が吹いていた。
商店街の中ほどにある、コーヒーショップに入ると、彼女がすでに来ていた。
あたしは彼女に近寄ると、頭を下げた。
「この度は、このようなことになり、わたくしも大変遺憾です。奥田さんにあのように思われるような行動をしたつもりはありませんでしたが、このような結果になってしまい、大変申し訳ないと思います」
懸命に考えてきた謝罪の言葉。彼女の心の傷を考えれば、あたしがこれくらい謝ったって許してくれるだろうか?
「座ってください」
頭をあげると、にこやかにほほ笑んでいる彼女。
席に着くと、すぐ後ろにいたウエイターが水を置いた。
「ブレンドを」
コーヒーが来るまで沈黙が続く。
熱すぎるコーヒーを冷ますために、スプーンでかき混ぜる。
「太田さん、私知ってました。奥田の暴走で太田さんが困っているのを」
「はい」
「それで、私から婚約を破棄したんです」
「あ、そうなんですか」
ビックリした!奥田のやつ、自分が振ったみたいに言って、馬鹿みたい。
「ええ、結婚する前から浮気なんて考えられません。それで、爆弾を仕掛けておきました」
「爆弾?!」
「ええ、もちろん本物ではありませんが、いいタイミングで効果が表れるように祈ってるんです」
ほほほ……と鈴のように笑った。
「それでは、あなたと奥田さんがよりを戻すことは……」
「決してありません。あなたを怨んでもいません。奥田のせいですもの。ただ少し驚いてほしかった、というところでしょうか?」
そういうと軽く頭を下げて席を立った。
茫然と見送るあたしの胸にわきあがる思いは、女ってこわーい。
笑っているからなおさらか?




