女子会
1、女子会
今日は居酒屋にて、女子会。と言っても親友と二人だけ。
仲の良かった友達のほとんどは結婚したし、シングルもみんな彼氏持ち。
あたしは彼氏もいないし、もちろん結婚の予定もない。
親友ハナは、バツイチ。モテるけど男嫌い。
「よしっ、花ちゃん、今日は飲むのだ」
「反対の賛成なのだあ、かんぱ〜い」
1時間後……
「バツイチなのは、あなたのせいよお〜っと」
「ハナ、飲み過ぎだあ。うふふ、あはは」
更に1時間後……
「べろん、べろん。花はまだやってないんかい〜、ちょぷ」
「痛〜い、チョップやめてえ」
「ん、なんかゴロがよかったから」
「ねぇねぇ……お姉さんたち」
頭上から降る低い声。
「ん?」
「楽しそうだね〜、俺たちも混ぜてよ。」
同じくべろんべろんと効果音を響かせて、二人組の酔っ払いのサラリーマンが登場した。
「花、チャンスだお。大人の女になれ」
「なっなんてこと言うの!!」
「いやあ、お姉さんかわいいね。お仕事なにしてんの?」
などと図々しく隣に座ってきた。
「トラック運転手」
「日本野鳥の会」
「……は、はは、ホントは何してるの?」
「あんた達は?」
「しがないサラリーマンだよ」
「そう、ほら」
そう言って出した名刺には、誰もが知ってる一流企業の名前が刷ってあった。
これ見よがしの行動に。ハナの顔色が変わる。ハナはこういう肩書をかざす男が大嫌いなのだ。
胸元からボールペンを変身ポーズで取り出すと、名刺の裏に落書きをしだした。二人のサラリーマンの似顔絵を、馬風、鹿風に描き分け、下に電話番号を書き添えた。
「きゃあ、そっくり―。やっぱりハナは絵が上手だねえ」
私は、学生時代から見慣れたこの光景に腹を抱えて笑った。
名刺を背広の胸ポケットに押し込むと、私たちは席を立った。
ハナは大きな声でサラリーマン氏に聞こえるように言った。
「花ちゃんおうち帰っていいことしよ!」
「うんっ」
ハナはこみ上げてくる笑いをこらえて、私の肩を抱き、店を出た。
商店街に出た瞬間、ハナは私の手を握り
「走るよ」
と、言って笑いながら猛ダッシュを始めた。
2軒目に入ったカフェバーでとりあえずエスプレッソとカフェオレを頼み、水を二回もおかわりしたハナはまだ笑っていた。
「見た?あいつらの顔」
「うん。ばか」
二人で顔を見合わせてまた、笑いの発作に襲われた。
「怒ってるだろうね。伝票押しつけられて」
「なんで、楽しく飲んでるのに、割り込んでくるんだっつの」
「ハナは美人だし、昔っからこの展開」
「ええ、この団子っ鼻が?美人?」
「それも愛嬌だよお。なんかそういうオーラが出てるんだよ。親しみやすさとか」
「そんなのいらなーい」
実際ハナは背は高いし美人。でもその鼻のおかげで、とても親しみやすい雰囲気。女からみてもうらやましいけど……
「胸は、ぺったんこ」
「花ちゃん?!なんてことを」
ハナは顔を赤くして胸を手で隠す。そんな行動もかわいらしい。
「花みたいに爆乳だと、重力に負けて肩に担ぐようになるんだよ」
よいしょ、よいしょと担ぐまねをして見せる。
「失礼な!」
と、お下品な話をしていたら、イケメン店員が注文を持ってきた。気まずい雰囲気で黙りこむ。店員は気にしてないんだろうけど。二八才、お付き合い歴なしのバージンな私としては、やはり少し恥ずかしく感じる。
ハナはとみると、平気な顔してる。そりゃそうか。これまでたくさんの告白をされ、お付き合いをし、結婚までしたんだから、そのくらいじゃ、恥ずかしいなんて思わないよね。
ハナはままごとみたいな小さなカップにはいったエスプレッソを口にして、苦そうに口をゆがめる。
私は甘いカフェオレをすすりながら、
「にがいのに、おいしいの?」と聞いたら、
「にがいから、おいしいんだよ」と答える。
「なんか……」
「ん?」
「男前だなあ」
「まあね」
こんな、バカ話が女子会の楽しみなんだな。




