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袖ひぢて むすびし水の こほれるを
はるたちける日よめる
紀貫之
袖ひぢて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらん
(春歌2)
あの夏の暑い日には、袖が濡れるのも厭わず手にすくい上げていた水は、最近では冬の寒さで凍り付いておりましたが、それを立春となる今日の日、その名の如く温かい春風が吹いて、解かしてくれるのでしょうか。
「礼記(月令)」の「孟春の月、東風氷を解く」から詠んでいる。
暑い夏の日の様子を詠みこんだのが、貫之独特の感性で、歌に広がりを与えている。
日本の文学史に輝き続ける春の名歌と思う。




