きみかうゑし ひとむらすすき 虫のねの
藤原のとしもとの朝臣の右近中将にてすみ侍りけるさうしの身まかりてのち人もすますなりにけるを、秋の夜ふけてものよりまうてきけるついてに見いれけれは、もとありしせんさいもいとしけくあれたりけるを見て、はやくそこに侍りけれはむかしを思ひやりてよみける
※藤原のとしもと:藤原利基朝臣。藤原冬嗣の孫で、贈太政大臣高藤の兄。兼輔の父。
みはるのありすけ
※みはるのありすけ:御春有輔。平安時代前期の官人・歌人。生没年未詳
きみかうゑし ひとむらすすき 虫のねの しけきのへとも なりにけるかな
(哀傷歌853)
藤原利基朝臣が、右近衛中将であった時に住んでいた部屋が、亡くなった後には誰も住まなくなっていたのですが、とある年の秋の夜更けに、他所から来て通ったついでにのぞいてみました。
以前に見た時には、しっかり整えられていた部屋も、かなり荒れてしまっている様子を見まして、以前にはそこに仕えておりましたので、彼が住んでいた時のことを思い出して詠んだ歌。
貴方がお植えになられたひとむらのすすきは、今では虫の音がさかんに鳴くばかりの野原のごとく、変わってしまいました。
【主な派生歌】
繁き野を いく一むらに 分けなして さらに昔を 忍びかへさむ
(西行:新古今和歌集)




