64 共和制
更新遅れてすみません!
私、干し芋が好きなんですよ。で、一キロ取り寄せて貪りまくってます。めっちゃ幸せです!(近況報告)
「変な話ばっかりしてて本題を忘れるところだったな......。クロードさん」
「はい?」
「俺達、知り合いに今の王都は物騒だから気をつけろって言われたんですけど、実際、今の王都ってどういう状態なんですか?」
俺の質問にクロードさんは少し顔をしかめ、軽く溜息を吐くと口を開いた。
「まあ、王都に来た以上は知っておいた方が良いでしょうね.......。オッケ、分かりました! 王都の実情、お教えします。あ、少し歩きますが大丈夫ですか?」
俺とソフィアが頷くと、クロードさんは『あ......』と言葉を漏らした。
「どうかしましたか?」
ソフィアが首を傾げながら尋ねる。
「いや、流石にこの格好はマズイと思いまして。ちょっと、リョウジさんに預けてきます! 待ってて下さい!」
『この格好』というのは彼の騎士服のことだろうか。彼は慌てて、ギルドへと戻って行った。はたして、騎士服で行くとマズイ所とはどんな所なのだろう。
そして、十数分後、騎士服を脱いで私服に着替えてきたらしい彼が走りながら戻ってきた。
「お待たせしました! ごめんなさい!」
「何故、騎士服では問題があったのですか?」
爆走してきたのにも関わらず、一切息を切らしていないクロードにソフィアが聞く。
「質問に質問を重ねるようですが、逆に何故だと思います?」
「.......職務外の行動だから、とか」
ソフィアの答えにクロードはうんうんと頷く。
「それも勿論、あるんですけど、それよりもヤベエ理由があるんですよねえ......。ま、行ったら分かりますよ!」
何だろう。不安だ。
☆
クロードさんに連れられて俺達がやってきたのは何やら多くの人が集まり、騒々しく叫んでいる場所だった。
高そうなシルクの服を纏う者から、仕事着、ぼろ布、果てはエプロン姿の者まで男女問わずに声を張り上げている。そして、その言葉の矛先は議会の会議場へと向けられていた。
「デモ、か」
「それも、貧困層から富裕層、労働者から資本家までが参加した大規模なもののようですね」
俺達の言葉にクロードは頷いた。
「王都は1ヶ月前からずっとこんな感じなんですよ。お二人がいらっしゃった北側は現体制に満足な大地主や資本家が多く、兵士による治安維持も行き届いているので、此処までではないのですが」
「1ヶ月前から続いていながら街が焼けたり、兵士とデモ隊が戦闘状態になってはいないところを見ると、一応、激しくも穏健なデモのようですね」
「いやあ、前までは確かに穏健なデモだったんですけどね。最近はデレックス殿が本格的にデモ隊を弾圧し始め、デモの効果が出ないものですから、彼らのストレスが爆発する日も近そうなんですよ」
「きちんとした指導者を持たないデモ隊が行き着く先は暴徒化ですからね。彼らにはそういった指導者は?」
俺が依然として叫び声を上げるデモ隊を眺めながら聞いた。
「う〜ん。私もあんまりきちんと把握出来てないんですよね。今のところ、表立ってデモを指導している人は居ませんけど、もしかしたら裏に誰か居るのかもしれません」
「そもそも、このデモは何故、起こっているのです? デレックスというの誰なのですか?」
ソフィアが首を傾げながらクロードに聞いた。
「デレックス殿は宰相、陛下の政治の補佐をする役職です。父君がお亡くなりになられ、14歳の身で即位した陛下が政治に不慣れなことを良いことに実権を握り、独裁体制を敷いているのです。ソフィア殿は外国の方なのですか?」
「まあ.......。そんなところですね。成る程、よく分かりました」
「後、ユクヴェルでの革命も影響してるかと。それはご存知ですか?」
クロードさんの問いにソフィアは頷く。
「本で読んだ知識でしかありませんが、クリストピアの西の隣国、ユクヴェル王国で民衆の反乱により王制が滅んだ革命のことですよね?」
「ええ。かの王国は国中にある鉱山で栄えた国でした。したがって、国を支えていたのは殆どが高山で働く労働者。その労働者に過酷な労働を強いたため、王政は革命で崩壊。共和制を国家方針とする共和国になりました。その余波がこっちにまで来てるんです」
「今まで、何の疑問も持たずに受け入れていた制度に対し、他国の思想が伝わったことで多くの国民が反旗を翻した訳ですか。……人間の歴史で何度も繰り返されてきたことですね」
「そういうことです。あ、因みに既に知っていると思いますがリョウジ殿はそのユクヴェル出身なんですよ。彼もまた王国政府に嫌気がさして、こっちに来たみたいです」
外国人で王都のギルドマスターにまで上り詰めるとは流石だな、あの人。
「クロードさんが騎士服を脱いできた一番の理由は、身分を隠すためでしたか。デモを弾圧している兵士の親玉がこんなところに現れたら何をされるか分かりませんもんね」
俺の言葉にクロードは頷いた。彼女の表情は心無しか疲れているようにも見える。
「正にその通りです。別に私達はこんなこと指示してないんですけどね」
「というと?」
「宰相はデモ隊を弾圧するため、法律とか賄賂とか諸々を使って自分に従う兵士の派閥を作り、その派閥の兵士を治安維持にあたらせたんですよ。そのせいで近衛騎士団は治安維持において全く、干渉できません」
その話を聞いて俺はゾッとした。個人が治安維持部隊を思うように操れるなんて前時代的過ぎる。三勇帝国みたいだ。
辺境に住み、時事系の話題を入れていなかったせいで知らなかったがこの国はそこまで独裁が進んでいたのか。
「近衛騎士団としてはデモに対してどう考えているのですか?」
ソフィアが聞く。
「我々は陛下に忠誠を誓う組織です。そして、陛下は宰相を嫌い、デモ隊との交渉をすべきだと仰っておられる。そのため、我々もデモ隊とは交渉をしたいと思っています」
『しかし、政府の殆どの者はデレックス宰相の息が掛かっております。最早、陛下の言葉は相手にされません』
下を向きながら重苦しそうにそう付け加えると、クロードは一筋の涙を流し嗚咽を吐くように
「我々は兵士の統帥権以外に何の権力も持ちません。いや、その兵士すら徐々にデレックス殿の手に堕ち始めています。ホント、色々と大変なんですよ。陛下の妹にあたられる王女様は行方不明だし」
三年前、王女が姿を消したというニュースを聞いたのは記憶に新しい。
「......王女が行方不明ですか。それ、大問題なのでは?」
「大問題なんですよ」
私達も頑張って探しているのですが、とクロードは言う。マジでこの国ヤバいだろ。
「兎に角、明日、ランクアップの手続きをしたら直ぐに帰りましょう。デモ隊と兵士が本格的に衝突する前に」
ソフィその言葉にクロードは微かに笑う。
「その方が懸命でしょう。明日は民衆の反対を押し切り、デレックス殿が招いた国賓が来られる日です。……何か、あるかもしれません」
俺はその言葉に頷いた。
「分かりました。そうさせて頂きます。色々、教えて頂いてありがとうございました」
「どういたしまして! あ、そろそろ、お仕事に戻らなくては。そういえば、お二方、今日泊まる宿は決めておられますか?」
「特には」
そういえば、突然の旅行だったのでその辺のことは全く考えていなかった。
「あちゃ、王都って旅行客が多い分、予約しとかないと泊まれる宿が無いんですよね。今から予約しても間に合わないかもですね~?」
ニヤニヤしながらクロードはそんなことを言う。
確かに……。王都の宿なんだから早朝から行って予約するくらいしないと空きがないよな。どうしよう。
「かくなる上はテントで野宿ですね」
「フランの件で俺、野宿恐怖症なんだけど」
顔を顰める俺を見て、クロードは更にニヤリと笑う。
「ふふ、お困りのようですね。はい、これどーぞ!」
クロードは不意にポケットから金属で出来たカードを俺に手渡してきた。その金色のカードには黒馬に乗った隼とその横に王冠を囲う盾のマークが刻印されている。
黒馬と隼はこの国の国旗の模様だが、この盾と王冠のマークは何だろう。
「これは?」
「ボクの身分を証明するカードです。盾と冠は近衛騎士のマーク。そして、金のメッキは団長の証! ボクの名刺みたいなものです。この名刺をあげたことがある方はリョウジ様を除けば他にいないんですよ?」
「何故、これを俺達に?」
確かに見るからに普通の名刺でないし、貴重なものなのだろうが。
「ギルドの前の通りを右に行くと、国旗を掲揚した大きい宿があります。その宿、一見さんお断りなんですよ。でも、それを持っているということはボクが認めたというか、ボクの友達だって証拠になるのできっと良くしてくれる筈です」
ニコッと優しそうな笑顔を浮かべて、クロードは笑った。
「そんな貴重な物を頂いて良いんですか?」
「勿論! ボク、対等な関係の友達が居ないんでお二方と少しだけですが一緒に話せて楽しかったです。また、王都に来る機会があったら是非会いましょう。そのカードがあればどうにかなるはずですから。じゃ、ボクは仕事があるので! さらば!」
弾丸のように自分の言いたいことだけを言い終わると、クロードは楽しそうにしながら走り去っていった。