63 金と白の騎士
「ちょ、お前、大人しく待ってろ言うたやろがい!」
その女性を見るなり、リョウジは驚いたようにそう言った。
「そう言って昨日も、一昨日も、その前の日もボクをギルドの終業時間まで待たせては適当な理由を付けて帰らせたのはリョウジ様ではありませんか。仏の顔も三度まで、ですよ?」
「も、申し訳ありませんギルドマスター! 静かに待っているように言ったのですが、無理矢理中に入られてしまい......」
「あ、ああ、ええよ。うん。ごめんな。コイツのことはワイに任して仕事に戻ってくれ」
「あはは~、申し訳ありませんね。ボクもお仕事のお邪魔するのは本意じゃなかったんですよお? 責めるならどうぞ、リョウジ様を」
「ぐぬぬ、性の悪いやっちゃ......」
顔を真っ赤にするリョウジを横目に彼女は状況が分からず困惑している俺とソフィアの方を見た。
「貴方がたが今回、金製メダルにランクアップするという冒険者さん達ですか? ボク、クロード・ガルニエと言います。宜しくお願いしますね?」
ニコッと、柔らかい笑顔で自己紹介をする彼女に俺達も自己紹介を返した。
「えっと、クロードさんは一体、何の用で此処に......?」
「あ、聞きます? えっとですね、今日はリョウジ様にとあるお願いをしに来たんです。ね、リョウジ様?」
ニヤついた表情で顔をリョウジに近付けるクロード。何と言うか、怖い。
「い、いや、せやなあ......あ、あ、そうや、アンタら! これがさっきから言ってた『専門家』や! この王都の情勢についてはこれが一番詳しい。これを案内人にして王都の観光でもしてき! どうせ、金製メダルの発行には時間掛かるからな!」
「え? いや、え?」
「金製メダルにランクアップするからには色々と審査があるのでは?」
「いや、ホンマはそうやねんけど今回は状況が状況や。ワイの権限でどうにかしたるさかい、それをどっか連れてって!」
困惑する俺とソフィアにリョウジは中々にめちゃくちゃなことを言う。そんな単純にメダルを発行してくれるなら俺達がわざわざ王都に来た意味って、何?
「さっきから黙って聞いていれば......乙女のことをこれとかそれとか呼ぶのは頂けませんね」
「やかましいわ! それにお前、男やろがい! ほら、行った、行った! この後にもお客様待たしてるからな! ワイは忙しいんや!」
「「男......?」」
俺とソフィアは更に困惑した。
☆
「今日も話に応じて頂けませんでしたか......不覚です」
クロードは大袈裟に打ちひしがれた様子で手を額に当てた。
「あの〜、失礼かも知れないんですけどクロードさんって何者なんですか?」
俺の質問にクロードは暫し悩むと、口を開いた。
「うーむ。ま、言っても良いか。私はですね、このクリストピア王国の近衛騎士団のトップ! 近衛騎士団長なのですよ!」
「「……近衛騎士団長」」
俺とソフィアはその言葉を復唱した。
「あれ、反応薄い? もしかして、よく分かってない感じです?」
「契約者は知っていますか?」
「いや、まあ、うん。近衛騎士の纏め役、ってことで良いんですよね?」
俺の言葉にクロードは溜息を吐く。
「え、ええ、まあ、そうです。はい。あ、でも、近衛騎士って国王陛下の警護をするだけじゃないんですよ......? 軍を統帥する機関でもあって、その団長だから事実上の軍部のトップみたいなところもあるんです。知ってました?」
「まあ、独学ではありますが学校教育に沿った勉強はしてきたので......」
俺の言葉にクロードは更に肩を落とした。
「そこまで理解してる人に全然、驚かれないってなんかショックなんですけど。だってボク、近衛騎士団長ですよ? 元帥的な奴ですよ? あ、驚かない? あ、そう~? へええ~」
「意気消沈させてしまった様ですよ」
ソフィアがジトッとした目で俺を見てくる。
「いや、ソフィアも全然、リアクションしてなかっただろ!」
確かに近衛騎士団長と自分が話しているというこの状況には驚く。しかし、俺はこの王都に来るまでにそれを超えるサプライズに直面しているのである。
長年、消息を絶っていたエルフとその長である弐の勇者と出会い、エンシェントドラゴンに襲われ、自分の親友が肆の勇者だったことが発覚し、興奮覚めやらぬ間に不死族のお姫様に強襲されたのだ。最早、ただの人間に会うくらいでは驚かない。
「いや、良いんですよ。金製メダルにランクアップ出来るレベルの冒険者さんからしたら近衛騎士団長なんてインパクト弱いですよね。そーですよね」
「して、近衛騎士団長。貴方は何をギルドマスターに頼もうとしていたのですか?」
ソフィアは落ち込むクロードにそう聞き、話を変えた。ナイスソフィア!
「ん? ああ、ただの財政援助のお願いですよ。あのギルドもそのマスターもたっぷり溜め込んでますからね……」
「成る程」
俺は納得と言った風に何度も頷いた。しかし、あのリョウジの反応から察するに彼は国に財政援助をすることに乗り気ではないらしい。
「あの人も外国出身とは言え、このクリストピア王国のギルドの元締めな訳ですから、少しくらいはボク達に協力して欲しいものです。こんな可愛いボクがわざわざ出向いてやってるのに......」
「あ、あの~クロードさん? そのことなんですけど~」
「はい?」
「クロードさんの性別ってどっちなんですか? あ、いやほら、リョウジさんがクロードさんのことを男だって言ってたから気になりまして。えと、別に答え辛かったら答えて頂かなくても......」
「男ですよ?」
デリケートな話題に触れてしまったかもしれないと質問の途中で気づき、慌てて訂正しようとした俺にクロードは即答した。
「「え?」」
俺とソフィアの言葉が重なる。
「男ですよ? ボクは。ほら、おっぱいも無いし。一人称ボクだし。ただ、ちょっと可愛すぎて声が中性的なだけの男です」
俺は再び彼女……いや、彼の容姿を確認した。金と白を基調とした服は恐らく、騎士服なのだろう。そして、顔立ちは明らかに女性、中性的どころではなく完全に女性。可愛さと美人さが同居しており、尚且つその二つの要素がどちらも強い美少女の顔だ。身長は俺と同じくらいか、それより下。全体的に丸みを帯びた体型は正に女性そのもの。しかし、性別は男。
俺はこういった人間を言い表す言葉を一つ知っている。
「俗に言う、『男の娘』という奴でしょうか」
そうそう、男の娘。何時、何処で生まれたのかは知らんが小説などを中心に全世界へと広がっていった属性だ。流石、ソフィア......。ソフィア!?
「おま、何処でそんな単語を知ったんだ!?」
「ルデンシュタットの図書館で本を読んでいたとき、ライトノベルなるジャンルの本に出てきたので」
人間のことを調べるため、と図書館に通っていたのは知っていたがそんなジャンルにまで手を出していたのか……。
「そうです。ボクはソフィア殿の言う通り、見た目は女の子、中身は男、通称男の娘と呼ばれる人種なのですよ。因みに女の子っぽくしてるのはただの趣味です!」
「こんな方が軍の統帥権を持っていて大丈夫なのですか? この国は」
「辛辣ですね!? 泣きますよ!? 泣いちゃいますよクロードちゃん!」
俺も不安になってきた……。




