第九話 タロウの思い出
そしてユーマ達は王都から北へ少し行った森の中で野営をすることとなった。
ユーマは焚火を起こし、アルフの店で購入した食材を手慣れた手つきで調理をしていく。
ブロック状の肉をナイフで薄く切り下ろし、野菜を炒めている鉄板へと投入する。
鉄板からは肉や野菜の水分が蒸発するような食材達の焼ける音がするとともに、食欲をそそる匂いが周囲に立ち込めた。
「ほう。随分と手慣れておるではないか」
「ふん。村の焼き討ちをくらってからしばらくは野営だったからな」
「──そうか。嫌なことを思い出させてしまったな。すまない」
「気にするな。焼き討ちは別にして、野営はなんだかんだで楽しかったからな」
ユーマは顔色を変えずに答えた。
「ほう。ユーマは一人で暮らしていたのか??」
「いいや、王都から一緒に逃げてきたタロウさんと二人で暮らしていた。──ほら食え」
ユーマは手早く調理した肉野菜炒めを焚き火の前で小さな丸太に腰掛けている魔王へと手渡す。
「おお! 美味しそうではないか! ユーマ、お主すごいな!!」
「これくらい出来て当たり前だろう? ──もしかしてお前、料理出来ないのか?」
「なっ……何を言うか!! 我は魔王だぞ? 魔王に出来ないことなどあるわけなかろう!!」
「そうかそうか。まあ、そうだろうな。これからもお前には調理を任せないようにする。食材が可愛そうだからな」
「…………」
魔王は頬を膨らませ、不満そうな顔をしている。
「さっさと食べて早く寝ろ。明日の朝は早いからな」
ユーマはそう言うと魔王の対面の丸太へと腰掛け、食事を摂り始めた。
「──ぐぬぬ……」
☆
魔王は調理の件に納得がいかなかったようで食事が終わった後も小一時間ほど騒いでいた。しかし、ユーマがそれを聞き流しているうちに、魔王はいつの間にか寝息をたて、すやすやと眠っていた。
「──やっと静かになったか」
ユーマは丸太に腰掛けて、火番を続けていた。
(こうやって誰かと野営するのもタロウさん以来か……なんだか懐かしいな)
ユーマはそんなことを考えながら、タロウと過ごした日々を思い返していた。
火の起こし方、調理の方法など野営の術は全てタロウから教わった。両親を失ったユーマにとって、タロウは親代わりの存在であったのだ。
男二人だけでの生活は大変であったものの、ユーマにとっては楽しいものでもあった。
初めは洞穴で野営をしていたが、時が経つにつれて、テント、ツリーハウスと生活を少しずつ豊かにしていった。
二人の生活では頭を使う労働はタロウが、体を使う労働はユーマが担当していた。
タロウは年齢が年齢であったため、それはユーマなりに配慮しての分担であった。
そしてユーマは森の中を駆け回って狩りをし、時には主と呼ばれる巨大な獣と対峙することもあった。傷だらけになりながらも、主を倒したユーマに、タロウは「危ないだろう!」と怒気を強めて叱りながらも最後には頭を撫でて褒めてくれた。
タロウは本当の親のようにユーマを心配し、そして大切に育ててくれたのだ。
全てを失い、心までも失いかけたユーマを救ったのもそんなタロウとの生活であった。
そしてある時ユーマはタロウに聞いたことがあった。タロウは牢獄に入れられるまで何をしていたのかを。
その時のユーマには理解が出来ていなかったが、タロウは『振動』をカガクテキ? に研究する仕事をしていたらしい。そのせいもあってか、タロウは『振動』と呼ばれる現象について本当に詳しかった。
いまユーマが使用している『振動』能力の使い方は全てタロウから教えてもらったのであった。
使えないと揶揄された『振動』能力を至高の能力へと昇華出来たのもタロウあってのことだった。
そしてもう一つ、タロウがユーマに語ったことがあった。
それはタロウがこの世界の人間ではなく、パラレルワールド? と言う世界から来た人間なのかもしれないということであった。
タロウの世界はユーマ達の世界よりもカガクが発展していたが、カクセンソウという人同士の争いによって世界のほとんどが滅んでしまったらしい。
それでも奇跡的に生き残っていたタロウであったが、ある日ついにカクバクダンの爆発に巻き込まれてしまった。そして気が付いたらこの世界に居たという。
この時のユーマにはタロウが一体何を話しているのか全く理解が出来なかった。しかし、タロウがとても悲しそうな表情していたことだけは理解していた。
(タロウさんも故郷を失っていたんだな……)
ユーマは今更ながら、タロウの置かれた境遇について理解した。そしてそれでもユーマを導いてくれたことにユーマは深く感謝したのであった──。
☆
そして翌朝。
焚き火の燻りが消える間も無く、朝日が登り始めた。
「おい、魔王。起きろ」
結局魔王は朝までしっかりと熟睡していたのだった。
「う、うぅん……」
寝ぼけ眼の魔王が伸びをする。
「早速だが、片付けて出発するぞ。このまま街道を進むと関所があるのは知っているな? 流石に関所は通れないだろうから迂回路で進む」
「ふむ」
「関所を避けてその先の街道へと進むには、ダンジョンを抜けていく必要がある。──そしてこのダンジョンは古代の魔王がつくったと言われているが、何か知っていることはあるか?」
「いいや、全く」
魔王は自信ありげな顔でそう言った。
「まあ期待はしていなかったが。──とは言え、今日は未知のダンジョンを越えていくこととなる。ここ数百年は通り抜けできたものがいないと言われているダンジョンだ。あまり余計なことはしないようにな」
「む? 余計なこととはなんだ! 余計なこととは──」
「よし、準備完了だ。じゃあ先に行ってるぞ」
ユーマは魔王の言葉を遮り、魔王を置いて出発しようとした。
「お、おい! 置いていくでない! もう少し、もう少しだけ待ってはくれぬか!!」
だがユーマはその歩みを止める気配はない。
結局魔王は急いで準備を整え、走ってユーマを追いかけるのであった。
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